何事も順位を決める世界で、1位キラーになった俺。

ゆりゅ

第1話 『日本で今日、初めての死亡。1位らしい』

 1位──それは絶対的な存在で俺が一番嫌ってる順位。


 テスト返し、リレー、ゲーム。何事にも順位がつけられ、必ず1位が存在する。何故なら順位を決めて、無能と有能。そして1位を絶対的な覇者とするため。


 でもそれって必然的に2位以下は1位よりも下って事になる。だから1位は天狗になって2位以下を見下す。


 じゃあ、1位以外──価値なくね?


 がやがや。ガヤガヤ。


「ねぇー聞いた? しゅう君また学年1位なんだってー! 凄いよね〜!」


「うんうん聞いた聞いた! 運動も出来て頭も良くて、それでいてイケメンっ! もう惚れちゃう〜!」


「「だよね~!」」


 俺は1番前の席で、後ろの方で騒いでいる2人の女子の戯言を否応なしに聞かされていた。


 なにが1位だよバカバカしい。ただテストで1位だっただけだろっ。 


 何事も1位は偉い、絶対って風潮がある。それは昔の昔から続く、人間の本能と言えるだろう。


 遠山しゅう──俺の通う櫻井高校の2年生で俺の隣のクラス。奴は今回の期末テストで1位を取りやがった人間だ。


 そして2位は俺──神秘しんぴレイ。いつも……この男に僅差で負けている努力の報われない男だ。


 やっぱり、この問題落としてたか……


 俺はさっき返されたテストの点数を見て、強い苛立ちを覚えている。


 今回も満点じゃ無かった。しかもそれだけじゃない、俺が苛立ってんのは、奴は──遠山は5教科全てにおいて、満点の1位を取ったこと。


 ふざけんなっ! なんでいつも遊んでる奴が1位で、俺が2位なんだよ!


 俺はいつもいつも、親のプレッシャーに押し潰されそうになりながら──必死に勉強してるのにっ! 親の期待に応えなきゃいけないのにっ!


 ぐしゃっ。


 こんなテスト見せられるわけ無いだろっ! 見せたら──また──半殺しにされる。


 いやだ。なんで、2位じゃダメなの? こんなに努力にしてるのに。頑張ってるのに。1位って──本当に理不尽。


 キーンコーンカーンコーン。


 もう昼休みか……あぁ、疲れた。


 ガタン。


 全身から気が抜けたように……俺は、ふらふらと教室を出た。


 俺は発散出来ない苛立ちを、イラつきながら抑える。なにかにアタリたい気分。俺はこの感情抑えることに神経を使いすぎていた。


 そのせいで、前が見えておらず人とぶつかってしまった。


 尻もちを付いて、手で支えながら床に倒れる俺。

 

「いって……くそっなんだよ……」

「あれ? 君は──確か、今回も僕のにいた2位の人。レイ君だったかな?」


 俺は声が聞こえる方へ顔見上げる。


「あんたは──遠山しゅう」


「僕のこと覚えててくれたんだ。ありがとう……僕も君のことを覚えているよ。いつも順位表でに名前があったからね」


「おい──お前……喧嘩売ってのかよ。下下って、自分が王者にでもなったつもりかぁ!?」


「急になんだい、君は」

「うっせぇよ人を見下しやがって! このクソ野郎! 天才様は良いご身分だよなぁ!」


 俺が大声を出したせいで、周りがざわつき始める。


「はぁ……イラついたからって、人にアタルような人間はどうかしてるよ?」 

「なにっ!?」

「ねぇ、君は知ってるかい? 僕と君が何故──1位と2位に分けられているか?」


「知るかよそんなこと」


「それは……君と僕に絶対的な差があるからだよ。100点を取った僕とそれ未満の君。100点は実は限界値なんかじゃないんだ。だってそうだろう? テストでは100点までしかつけれないんだ。もしかしたらそれ以上かもしれないのに」


「なにが言いたいんだよ──自慢でもしたいのか?」


「100点までしか付けれない、120点かもしれないのに。でも、90点だったら──それが限界値だよね」


 奴は終始、俺を見下しながら言葉を並べた。


「これが、絶対的な差って奴だよ。レイ君」


 そして嘲笑いながら──自分の教室へ戻っていった。


 なんだよそれ。意味わかんねー。結局さ、1位は理不尽の権化ってことだろ?


 良いよな1位って。


 俺はその日──早退した。外は大雨、風はほぼ吹いてない。傘をさして、一人で静かに歩く、歩く、歩く。


 信号待ち。足が止まると、余計なことばかり考えてしまう。小学校の楽しかった記憶とか、昔会ったひいおばの記憶とか。


 俺は何の為に生きてるんだっけ? 1位になるため? 1位を取って、次もまた1位を取る……その繰り返し。


 中学校に入学してから、これしか思いつかない。いや、これしかやってない。でも殆ど1位なんて取ったことないよ。だって俺……凡人だから。


 あぁ楽をして──1位を取りたい。1位以外──要らない。1位だけが絶対。


 良いよな1位って。うん……1位なりたいんだ。なんとしてでも。


 俺は無意識に──歩き出していた。


「ちょっと君! 止まりなさい! 車!」

「お母さん……あれ?」

「えっっきゃーっ!」


 ブレーキ音とクラクションの音が同時に鳴り響き、混ざり合った2つの音は、不快感をもたらす耳障りな音へ変貌を遂げる。


 でも俺には全く聞こえていない。気づいたのは、車のライトが目に入った時。


 時すでに遅し──俺は車引かれてあっけなく死んだ。


 日本で今日、初めての死亡。1位らしい。

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