もしも世界が終わるなら
もしも世界が終わるなら
そんなこと、考えたこともなかった。
蒼かった空は、埋め尽くす焔で紅に燃え上がり
背後にはすぐそこまで闇が迫っている。
私は今日、死ぬのかもしれない。
眼前に広がる光景を前に、ただ立ち尽くす。
もしも世界が終わるなら
それは、理解するには遠すぎて、実感するには近すぎた。
しかしそれは、暗闇に潜む暗殺者のように、いつも私をすぐ傍から狙っている
ナイフで脇腹を刺され、体から噴き出る紅い血潮の湖面を見て、そこでようやく理解するのだ。
私は死ぬのだと
もしも私が死んだなら
きっと私を取り巻くすべての記憶は、意識の消失と共に、瞬く間に消え去るだろう。
肉体も、時間の経過とともに崩れ、いずれ消えてなくなるだろう。
もしも私が死んだなら
私の心に灯るこの焔は、一体どこに行ってしまうのだろう
私が死んでも、世界は変わらず動いていくだろう。
時間は、私一人を待ってくれるほど寛大ではない。
私の心に灯る焔も、いつか消えてしまう。
私は走る。無我夢中で走る。
空を埋め尽くす紅の焔に向かって。人波をかき分けながら。
もしも世界が終わるなら
私は、私の心に確かに灯るこの焔を、無かったことにはしたくない。
何度も転びながら、膝に血を滲ませて走り続ける。溢れる汗を拭い、心臓を早鐘のように鳴らしながら。とにかく一心不乱に走り続けた。
そしてとある丘に辿り着いた。
その丘の頂上で、私は心に灯る焔を、体中から吐き出した。
吐き出された焔は、瞬く間に天に昇り
紅く燃え上がる世界に、ただ一つ燦然と輝く星になった。
もしも世界が終わるとしても
私という人間は、記憶としてこの世界に残るだろう。
この世界は終わらない。
私という人間も、消えることはない。
空に、星が輝き続ける限り。
(2024 10月24日 見たこともないくらいに深紅に染まる空を見て)
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