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 夏休みはまだまだつづく。

 ママのことでふだんとぜんぜん人がかわっていたトミやけど、すぐに日常どおり、もとの気のつよい彼女にもどってくれた。

 もちろん、ぼくなんかの何倍も頭のいい子やから、いろいろかんがえてることはあったやろう。心もきっと、ぼくよりずっとしっかりしてるんとちゃうやろか。

 ぼくはあいかわらずトミのマンションにいりびたっていた。

 トミの書くSF小説は、どんどん完成にちかづいているみたい。

 ぼくはそのそばで、てきとうにあそんでいるばかりではない。やることができたんや。

 ある日、家族でぼんやりテレビジョンを見ていたら。

「スクープ!皇帝陛下が生前退位!」というニュースがながれてきてん。

 もちろん最初はなんのことかさっぱりやってんけど、つまりこのラガタ星で一番えらいお人が、お年をめされたから、息子さんに皇帝の位をおゆずりになる、らしいねんて。

 ぼくはテレビジョンと、そばにねころがってたおじさんの解説で、皇帝制のことをいろいろまなんだ。

 自由研究、これでどないやろう、とつい思ってしまってん。

 さっそく図書館で皇帝制について書かれた子どもでも読めそうな本をいっぱいかりてきて、SF小説をいそがしそうに書いてるトミのそばで、一冊ずつ読み始めた。

 ぼくが急に皇帝陛下のことをしらべさせていただきたくなったんは、地球での思い出がちょっと関係してるねん。

 とくに地球のおばあちゃんのこと。

 小さいころからずいぶんおばあちゃんには世話になっていて、そのおうちにもしょっちゅうあがりこんでいた。その家の近所に、なんと昔、皇帝陛下がお住まいになっててんて。

 とゆうても今ニュースになってはる皇帝陛下ではなくて、その何代も前、百五十年以上昔のこと。政治とか経済とかの中心をラガタ星にもっていきたい、みたいな理由で、家来たちに説得された皇帝陛下は、宇宙船にのってこっちに引っ越さはったそうな。

 そんで、おばあちゃんちの近所の、とんでもなく広い、高い塀にかこまれたお城はずっと空き家になって、たまに皇帝陛下が帰ってきはったり、お客をむかえはったりするときだけ、何日か滞在しはんねんて。

 ただ地球では今でもみんな、皇帝陛下のことを恋しがって、いつかもどってきてくれはるんやないか、といううすい望みを捨てきれずにいるねん。おばあちゃんもその一人やった。

 まあ、とりあえず、皇帝の位を息子さんにおゆずりになられてからも、べつに地球に帰ってゆっくりしはる、みたいなことにはならんみたい。ざんねん、おばあちゃん。

 ぼくは、どうかな。皇帝陛下に地球にもどっていただきたいんかどうか、心に問うてみたものの、いや、べつにそれは皇帝陛下ご自身がラガタ星にとどまりたい、とおかんがえになられるんやったら、むりに地球に、とはあんまり思われへん。

 地球に帰りたい気持ち、ぼくもだんだんうすらいできてるような……

 実際もう、政治や経済の中心が地球にもどってくることなんか、ありえへんのとちゃうやろか。

 地球人のお父さんやお母さんは、どうかんがえてるやろうな。今度、スライプってテレビ電話で聞いてみるか。そういうのもレポートにもりこんでみたら、おもろいかも。

 そうやっていろいろ研究してみたものの、ぼくは突然、壁にはばまれた。

 一応、パーソナルコンピューターでも皇帝制について、しらべてみてん。そしたら。

 どうも皇帝陛下について、下手なことを書いたら、謎の組織ライト・ウイング、という人たちにめちゃくちゃされる可能性があるねんて。

 その情報を聞いただけでぼくはふるえあがってしまった。

 上手に書けばだいじょうぶとちゃうの?としばらくかんがえてみたものの、ぼくはそもそもラガタ語でちゃんとレポートを書けるかどうか、自信がない。しょうがないからとゆうて地球語で書けば、皇帝陛下に失礼、みたいにとられるかもしれん。

 提出するあの青鬼先生がじつは隠れライト・ウイング、ということもないとはかぎらん。

 敵対組織にレフト・ウイング、なんてのがあるらしいねんけど、そっちはちかごろたよりにならんねんて。その人らにたすけをもとめたって、意味ないやろし。

 どないしよう。せっかくいっぱい本読んでしらべたことがむだになるのはつらいけど、かといって、居候しているこのうちに暴力的なライト・ウイングがのりこんできたら、ミルさんやエル姉ちゃん、おじさんたちにもうしわけないことこの上ない。

 うーんうーん、と何日かなやみ、べつのネタをさがすほうが無難、という決断をくだすことになった。くやしいなあ。

 それやったらやっぱり、「あれ」をやるしかないのか。

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