7
放課後、いつもどおりさびしく一人で帰ろうとしたところ。げた箱の前でトミを見かけた。頭と左うでに包帯まいてる。
あのときトミは、ぼくがまごまごしているうちに、ちょうどとおりかかった知らん先生にかつがれて、保健室につれていかれた。ぶつかられた子はどうなったか、見てなかったからわからん。
まあでも、友だちにはなられへんかったわけやし、もうええわ。また明日から作戦立てなおして、べつのだれかにアタックせな。と思いながらかるく頭さげてすぎさろうとしたら。
「まちなさいよ」やって。
ぼくはあたりをきょろきょろ見まわし、それからトミの顔に目をむけると、どうやらぼくにゆうたらしい。
「あんたのうちはどっち」
ぼくは、ぴっと東のほうをゆびさした。
トミはなんか顔を赤くしてぐずぐずしてる。ぼくはもう一回頭さげて、帰ろうとすると。
「わたしのうちも、そっちだからぁ」とトミがさけんだ。
えー、ああそう。でも道で見たことあったかな。こんな子おるんやったら、絶対わすれへんはずやけどな。
ぼくはてきとうにうなずいて、いっしょに帰ることになった。
最初のうちは二人ともだまって。ぼくらべつに共通の話題ってないし。
「あの本読んだ?」とトミ。
そうや。ぼくはあれから、ちょっとのすきま時間をつかって、何ページか読んでみてん。『宇宙人のしゅくだい』はみじかいおはなしのつめあわせみたいな本で、ひらがな多めで漢字にもルビふってあって、ぼくにもちゃんとわかるように書いてあった。これがなんちゅうか、びっくりとゆうか、わくわくとゆうか、今まで感じたことないような気持ちにさせられて。
「おもしろかったです」とこたえたけれど、いや、そんなもんちゃうねん。もっといろいろ、思ったことをいっぱいしゃべりたいところなんやけど、ラガタ語でなんてゆうたらええのか。
ぼくはついジェスチャーで、なにかをつたえようとがんばり、かばんから本を取り出してぶんぶんふりまわした。
「あら、ほんとは気に入らなかったとか?」
ちゃうわ、なにゆうてんねん。おもろかったゆうてるやん。
しばらくがんばっているうち、ぼくがこれを大好きになったことだけはわかってもらえたみたい。
「ふん、そうでしょう。わたしがえらんであげたんだから」
さっきまでなぜかはずかしそうにだまってついてきてたのに、もうえらそうに勝ちほこっている。ほんでそれをきっかけに、トミはSFのことをべらべらしゃべり出した。
宇宙船だの、未知の惑星だの、ワープだのタイムスリップだの、自分はこれも読んだ、あれも読んだと自慢たらしく、ぼくの知らん言葉をつぎからつぎへと。
おもろそう。ぼくはみとめんわけにはいかんかった。トミはけっこうえらい子やってんな。すなおにそう思わんわけにはいかんかった。でもざんねんやな。友だちになれたらよかったのに。
「また、なに読んだらいいかおしえてあげようか」
それはふつうにおねがいします。と心の中で思っているうちに、うちについてしもた。それじゃ、と頭さげようとしたところ。
「あのさ」それから二十秒。「ほんとはわたしの家、ぜんぜんこっちじゃないの。学校出て西だから。まわり道しちゃった」
えっ、そんならなにしにきてん。
「友だち、なってあげてもいいわよ。じゃあね」
えっ。
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