地球少年ハマオ

祥一

 どうやらぼくは、気絶していたらしい。宇宙服を着たお姉さんにゆりうごかされて、目をひらいた。

「きみ、だいじょうぶ?」

 だいじょうぶやないで、といおうとしたんやけど、口がぱくぱくするだけで、声が出えへん。おきあがるのもむずかしかったから、お姉さんにだきおこされて、やっと立ちあがった。うわっ、頭いたいわ。たぶん気圧のせいやな。

 宇宙船からおりる階段の上から、ぼくは空をながめ、地上をながめた。やっぱな。地球とはぜんぜん感じがちゃうやん。

 んー、なんやろ。空の色はちょっと緑っぽいし、空気もまずい気がする。とりあえず吐き気するわ。

「おーい、ハマオくーん」

 知らんおじさんが地上で手ぇふってる。ぼくはへんな目つきで首をかしげてから、小さく手をふりかえした。まあ、いちおう、マナーかと思て。

 おりてきたぼくを、おじさんは思いきりだきしめた。びっくりしたけど、つきはなす勇気はなくて、好きにさせといた。あー、このにおいはちょっと、お父さんににてるかも。

「ようこそ、ラガタ星へ」

 はいはい、きましたよ、しゃあないから。

 ラガタ星っちゅうんは、もともと地球の植民星やったらしいんやけど、それは昔のはなしで、今は地球よりずっとさかえてるらしい。地球の人らは絶対みとめへんけど、もうくらべもんにならんくらい差ぁついてるねん。

「んー、写真よりちょっと男前だね。兄さんにそっくりだ」

 あんたは写真よりぶさいくやん。顔も青すぎるで。とはもちろんゆうてやらへん。ほぼはじめてあったようなもんやし、ぼく、そこまで失礼ちゃうねん。

 そう、ラガタ星人はみんな顔色が青い。前に全身真っ青なインドの神さまのイラストを見たことあるけど、ちょうどそんな感じ。もともとはぼくらとおんなじようなうすいオレンジやったらしくて、この星の空気とかたべものとかのせいで青くなったんやって、地球の学校でならったわ。あー、ということはぼくもそのうちこんななるのか。いややなあ。空気すわんで、ものたべんといたろか。

「あれっ?ハマオくんって、しゃべれないんだっけ。そうは聞いてないんだけど」

「しゃ、しゃ、しゃべれ……」

 あかん、言葉がよう出てこおへん。ラガタ星の言葉は知らんし、地球語でゆわなしゃあないねんけど、なんかはずかしゅうて。へんやな、ぼく、地球のこと、いなかやと思てんねやろか。そんなわけないやん。さかえてんのはこっちでも、その文明をさずけたんはもともとは地球やって聞いてるで。

「まあ、いいさ。そのうちなれるだろう。それじゃ、うちに案内するね」

 おじさん、いや、名前なんやっけ。たしか、お父さんから聞いてるはずやねんけど、めっちゃラガタ星の名前やな、みたいに思っただけで、わすれてしもた。そのおじさんは、ぼくの手をぐいぐいひっぱって、宇宙空港の駐車場までつれていった。

 って、ええっ?このまんまるいのが、車なん?

 ぼくはおじさんと車らしきもんのあいだで首をぐるぐるさせた。おっさんはそんなぼくのようすを見てにやにやしてる。

「いいだろう、最新型だよ」

 ほんで手に持ったリモコンみたいなんを、ピッっとしたところ、ウィィィィィィィンとドアがひらいた。あんま、びっくりさせんといてほしい。車ってのは地球やと、もっとこう、しかくうて、ひらべったくて、タイヤだけ丸い、みたいなんやのに。

 ぼくはおじさんにうながされて、その車みたいなもんにのりこんだ。

「うちはね、ここから十五分くらいだよ」

 そうはゆうけどさぁ、すごいスピードやん。十五分くらいやからって、それはちかいとゆう意味やないんとちゃうか。

「で、ハマオくんっていくつだっけ」

 もう、質問ぜめやん。こっちはさっきから、びっくりすることばっかりで頭はたらかへんねん。でもしゃあないから、息をすうっとすうて、指を十本出したった。

「へえ、もう十才なんだ。それにしては……」

 ふん、小さいっていいたいんやろ。たしかに地球でも四年生の中では小さいほうやったけど。こっちは道路とか街の感じをながめるんでいそがしいねん。そんなことより、おじさん、運転中にこっちむいてたらあぶないやろ、ってハンドルもにぎらんと、えっ、自動運転?そうゆうんがあるっちゅうウワサは聞いてたんやけど、ほんまにのることになるとは。もしかして金持ちなんやろか。

もうこの人、ぼくのびっくりには反応せんくなってるやん。

「十歳ってことは、小学四年生とかだね」

 ああ、ラガタ星も学校の学年はいっしょなんやね。一年の長さは地球にあわせたんやろか。

 そうこうゆうてるうちに(しゃべってんのはおじさん一人やけど)、うちについたらしい。車をおりたぼくは、例によってじろじろ見まわす。べつに大きさはふつうやな。よかった、形はちゃんとしかくやん。でも、ドアあけたら、なか、ひろいなあ。

「あらあらあら、ハマオちゃん。大きくなったわねえ」

 玄関に立ってた顔の青い人がだきついてきた。もう、やめてほしい。ラガタ星の風習なんやろか。地球やと、せいぜい手ぇにぎるくらいやで。

「ハンサムなのねえ。オレンジ色だけど」

 このおばさんは、たぶんおじさんの奥さんなんやろう。もう一人女の人がいるって聞いてんねんけど、娘さんにしては年いってる感じやもん。いや、地球人でも女の人の年なんかようわからんわ。

「エルは?」とおじさん。

「ああ、でかけちゃったのよ。ハマオくんがくるから、うちにいてっていったのに」

 ぼくもう、つかれたわ。宇宙船では気絶しっぱなしやったけど、あれはぜんぜん体とか休まらんもんやね。ほんであくびした。

「あらあらあら、ねむくなっちゃったのね。あなたのお部屋、用意してあるのよ。案内してあげるわ」

 ぼくはおばさんに手をひかれて、二階にあがっていった。部屋においてあるベッドは、よかった、ちゃんとしかくくて、ひらべったいやん。まるとかさんかくの上にねる自信なかってん。そう思てるうちに、ぼくは目をとじ、夢の世界へとけていった。

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