呪いの魔法少女は世界を呪う ~就職先は終末世界に残された最後の砦~

永眠しがち

序章 始まり

プロローグと呪いの魔法少女

 ここは瓦礫の山。昼間なのに空を分厚い雲が覆っていて薄暗いため、不気味な雰囲気を醸し出している。

 当時の人間に、ここがかつて繫栄した日本列島の都市、ユミガハマだと言っても誰も信じはしないだろう。


 人が消えてから数十年が経ち、海に面した大きな大地には、竹や葛が蔓延り、文字通りのコンクリートジャングルと化している。


 風化した建物の中からは無数の怪物たちが目を赤く光らせていた。

 今すぐにでも襲い掛かってきそうな雰囲気があるが、近付いてくることはなかった。

 それは自動車ほどのサイズがある、無数の怪物たち。

 普通の人間が放り出されれば、たちまち餌にされてしまうであろう危険地帯。


 そこに私たち、呪いの魔法少女を隊長とする部隊は初めての実習をしに来ていた。


「ユリ先輩、魔法少女達の突撃準備ができています。いつでも行けるっすよ!」

「……いいよ」

「はい!見ててくださいねー!先輩ー!」

『頑張れ!ヒナギク!ウチは天から見守ってるぞー!』


 ぼーっと怪物たちを眺めていると、副隊長のヒナギクが話しかけてくる。

 サイドテールにまとめた肩ほどまである金髪を靡かせながら私の横につく。

 その声に了承を告げると、ヒナギクは部隊の方へと下がっていく。


(ヒガン、悪い冗談はやめて、嫌いになるからね)

『えへへ、ごめんね』


 いつものように、私にだけに聞こえるヒガンの陽気なその声に、心のなかで苦言を呈してから、ヒナギク達の様子を観察する。


「これより、花園学園中等部の魔法少女対魔物演習を開始するっす!これは実習であるため、油断すれば私たちは死ぬっす!それを努々忘れないように!!」

「「「「「「「「「「はい!副隊長!」」」」」」」」」」

『よっ!副隊長ー!』


 普段からきりっとしているヒナギクの黄色の目が力強く見開かれながら、演習の開始を宣言する。


 学園の中等部とは思えないほど統制が取れた彼女らは、返事をしたのちに、皆がそれぞれ配置についていく。

 前衛が五人に後衛も五人、そこに司令官が二人。

 基本的な魔法少女の部隊構成だ。


 少女たちは、手元に魔力を発生させて、それぞれの固有武器を生成する。

 それは剣だったり、杖だったり、笛なんてものもある。

 バラエティ豊かな装備を眺めながら私も配置につく。


 まあ私の仕事なんて無い方が良いのだが。


『みんなちゃんと気張れよー!不甲斐ない所なんて見せたら地獄の個人指導しちゃうからなー!ウチじゃなくてユリがー!!』


 ……彼女たちには声が届かないというのに、ヒガンは声援を送っている。

 私も応援してあげたい気持ちはあるが、のろいが発動してしまうので抑える。


「いくっすよー!」

「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」

『ごーごー!』


 その様子を見て私は魔法呪いを発動する。

 自分の小さな体に抑え込んだ膨大な魔力を、必要な形に変換する。


 周りの目には、私の瞳と、髪が魔力に反応して淡く輝いて見えていることだろう。

 魔力の多い魔法少女は、魔法を使うタイミングで高純度の魔力を体に纏う影響で、魔力が可視化され光る。


「…動いてもいい」

『動け、化け物ども!ユリ様の命令だぞー!』


 私がそう言うと、周囲の建物に隠れていた数十匹の怪物たちが一斉に動き出した。

 枷から解き放たれたように。

 今この瞬間に自由を手に入れたように。

 実際、ヒナギクたちの準備ができるまで、私の魔法呪いで動けないようにしていた。

 私は散歩をするように軽い足取りで、心を落ち着かせながら、再度言葉を放つ。


「……でも手加減して」


 私のその言葉で、無数の怪物たちの動きが鈍くなった。

 それは私が指揮するように。

 彼らは楽器で、私が指揮者。

 ……内に膨らむ全能感に支配されないようにしながら魔力を放つ。

 そして私を纏っていた高純度の魔力は霧散した。


「いつ見てもすごっすね。先輩の魔法呪いは…」

『流石は私のユリ!』


 ヒナギクが呟く。

 ヒガンは私を煽てるが、これは私だけの力で為せることでは無いので、微妙な気分だ。


 私の仕事は、まだ経験の浅い中等部の彼女たちに魔物討伐の経験を積ませること。

 魔物を狩ることによって私たちの能力が伸びるからだ。


「……今のうち」

「了解っす!ここからは私たちの出番っすよー!戦闘開始!」

「「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」


 そうして彼女たちは戦闘を開始する。

 前衛の魔法少女たちは、後衛の魔法少女たちを守りながらも攻撃を当てていく。


『ユリ、ウチお腹空いちゃった…』

(わかった。見守ってる間にご飯を済ませちゃおう。)


 私は食事をするために、ヒガンの魔法移動でバッグの中から一瞬でレーションを取り出して食べだす。

 もちろん彼女たちの演習に注意を向けながら。


 ————————————————————


 目の前のカブトムシのような小型の魔物――小型とはいっても自動車ほどのサイズがある魔物が、剣戟の魔法少女に切り刻まれるっす。


 隣にいたカマキリのような小型の魔物は突如聞こえてきた音色とともに内側から爆散したっすね。


「剣戟!ちょっと前に出すぎっす!震笛!怖がらないでもっと前に出ても大丈夫っす!離れると逆に守りにくくなるので注意するっすよ!」

「はい!」

「わ、わかりました!」

「……先輩にかっこいいとこたくさん見せるっすよー!」


 私は部隊のみんなに指示を出しながら、意気込んだ。

 そのまま体内に意識を向けて自分の魔法俯瞰を発動して戦況を俯瞰して把握する。


 チラと呪いユリ先輩を見ると、真顔でもぐもぐとひたすらレーションを口に運ぶリスのような可愛らしい姿があったっすよ。


 鴉の濡れた羽のように艶のある髪を腰まで流し、小学生のような小柄な体は庇護欲を掻き立てる。


 ユリ先輩って前から思ってましたけど、座敷童とか日本人形みたいっすよね。


「……ふふっ、緊張感なんてあったもんじゃないっすね。まあ、先輩がいれば、大体のことはどうにかなりそうなんでいいっすけど。…さて、そろそろっすね」


 先輩もこれから来る大物の方に視線を向けてるっす。

 どうにか中等部のみんなで倒したいところっすけど、さすがにまだ荷が重いっすよね。


 中等部の他のみんなは小型の魔物を三十数匹討伐したところ。

 半径二キロメートル以内の小型の魔物の数は二百匹ほど居るんで、ちゃんと討伐させてあげたいっすね。


呪いユリ先輩!お願いしても良いっすかー!」

「……いわふぇまくへも」

「任せたっすー!」


 ユリ先輩は頷きながら返事を返してきた。

 ……口の中にレーションを詰め込んでいたせいで、なんて言ってたかは良くわかんなかったっすけど、頷いてたんで大丈夫なはずっす。


 そうして中等部の他のみんなを注意して観察しながら指示を出しているとそいつは現れた。


 カミキリムシみたいな形の中型の魔物――小型の魔物の十倍程度の大きさの魔物が私たちの前に現れた。


 全身の甲殻からは、触覚以上の長さがある無数の触手を伸ばしていて、おぞましい見た目をしているっすね。


「ひっ……ひっぃぃぃ!」

「いやあああ!きもちわるいいいい!」

「ふ、副隊長!こいつはどうすれば!」

「……これは薄い本が厚くなる?」


 中等部のみんなが阿鼻叫喚しているので指示を出す。


「とりあえず今までの基本的な陣形でもダメージは与えられるっす!でも、基本的に自分で倒せそうにない敵が来たときは、他の魔法少女に応援を求めるっすよ!できるだけ被害が出ないように耐えて時間を稼ぐっす!ダメな場合は、頃合いを見て今回は呪いユリ先輩が助けてくれるっすよー!戦闘開始!」

「「「「「「「「「「はい!」」」」」」」」」」


 中等部のみんなが中型の魔物に向かったのを確認してから、意識して再度魔法俯瞰を発動するっす。


「……ッ!!」


 悪寒がする。全身から汗が吹き出る。足が震える。

 非常事態だ、どうしてこんなところに。

 それでも私は副隊長だからとりあえず指示を出さなきゃ…


「みんな!戦闘は中止するっす!!大型の魔物ディザスター級以上がこっちに来て――


 ——繧ー繝ャ繧、繝?せ繝医ン繝シ繝医Ν——


 甲高い音が鳴り響く。

 あまりの音の大きさに耳をふさぐ。

 突然世界が赤く染まる。

 いや、これは私の血っすね…。

 たった一回鳴いただけ。

 それだけで私は指向性のある魔力を大量に浴び、全身から血を吹き出し、体が動かなくなった。


「くっ、わたしの腕が…」

「あひゃひゃひゃひゃひゃ!あひゃ!」

「……ごはっ……」


 あの魔物の魔力を浴びた一人の左腕が弾けた。

 もう一人は発狂し、抵抗できたものたちも血の塊を吐き出し、半数は気絶している。

 ……このあたりには出現しないはずの大型の魔物ディザスター級がなぜここに。

 しかも二キロメートル以上も離れているのに、魔力を浴びただけでこんなに追い込まれてしまうなんて。


 先程まで対峙していた中型の魔物も衝撃をまともにくらい、動けなくなっている。


 ユリ先輩は即座に反応して、膨大な魔力を放出し、魔物の魔力を中和していた。

 ユリ先輩が魔力を中和していなかったら、私たちはどうなっていたんだろう。

 あまり想像はしたくないっすよね。


「……みんな動いて」

「っ!わかったっす……」


 ユリ先輩の魔法呪いの強制力で、私を含めた中等部のみんなの体が、目的のために勝手に動き始める。


 ろくに魔力も纏っていないのにこの強制力、ユリ先輩は一体どれほどの魔力を内に秘めてるんすかね。


 動ける人は動けない人ののフォローにまわって、私も撤退の準備を始める。


 大型の魔物ディザスター級が進行しているのは花園学園の方角。

 しかもとんでもない速度で進行している。

 遠目に触手の塊のような巨体が姿を見せている。

 あれが、大型の魔物ディザスター級だろう。

 部隊のみんなはすっかり絶望の表情を見せている。

 多分数十分後には学園に着いちゃうっすね。


「隊長!負傷者八名、戦線復帰は無理です!」

「……うん。ここは任せて」


 部隊の隊員がユリ先輩に、状況を知らせている。

 これはユリ先輩が殿を務めるという事だろう。

 

 大型の魔物ディザスター級が出てくる非常事態、早く学園の大先輩方に知らせないと、流石のユリ先輩でもそう長くは持たないはずっす。


「花園学園中等部、総員撤退っす!」

「「「「「…はい!」」」」」


 そんななか、ユリ先輩だけは大型の魔物ディザスター級の方へ、ゆったりとした動作で突き進む。


「こ、これは……」


 爆発するような魔力の本流。


「みんな早く下がるっす!」


 過去三十年の間に生まれた魔法少女の中で最強の魔法少女。


「まさか、これほどとは思いもしなかったっす……」


 ユリ先輩の髪が光り輝く。


 思考の合間にもその魔力量は大型の魔物ディザスター級を上回り、指向性をもって私達にぶつけられれば、もろとも跡形もなくなっちゃうっすね。


 ユリ・クロサキ黒崎先輩が表情を変えずに一言呟く。


 ——……死ね


 周囲の音が消える。私たちの耳にはその声は届かなかったが、そう呟いたであろうユリ先輩。


 ユリ先輩が普段は絶対に使わない、その強い言葉は膨大な魔力で可視化され、指向性をもって大型の魔物ディザスター級にユリ先輩から極大な黒い光となって放たれる。


 ——……消えろ


 静けさの中、ユリ先輩が再度呟く。

 あまりの衝撃と眩しさで、つい頭を腕で守ってしまう。

 轟音と地響きをしばらく体で感じて、目を開くとそこには——












「きれい……っすねぇ」


 ——そこには曇ない、青空が広がっていた。












「……もぐもぐ」


 それと腹ペコの少女が一人。






 ————————————————————

 初投稿なので拙い部分が沢山あると思いますがご了承ください。


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