第47話 その者達熾烈

「おおい、そこな者達…… まてー…… 待ってください…… 止まってぇぇ……」

 

 今日も彼らの、荷車は絶好調。

 追いかけてくる使者達は、あっという間に三馬身から十馬身ほどに離れていく……


 通信手段が馬である以上、それより速い乗り物には追いつけない。

 まあ彼らの本隊は、はるか後方にいるのだが、どうしたって奇天烈な物のほうが目を引く。



「救済とやらに向かった隊はどうなった?」

「まだ、使いが来ておりません」


 そう戦闘から、すぐに皆は移動を始めた。

 伝令達も、よほどでは無い限り、馬を乗り潰すような事はしない。当然王にはまだ動向が届かない。


 ただそれより東側では、王都に向かって騒動達が走ってきていた。


「あー道が悪い」

「直したいなあ」

 ぼやくのも判る。


「国のトップが、未来像を知っていないからなぁ」

「そりゃ普通そうだろ」

「龍一、人ってな、何かを判断したり想像するときには、自分の知識とか経験で判断をするんだ」

 まじめな楓真の顔に、ちょっと驚く。


「そんで?」

「俺達だから、道が悪いと思うが、この世界の人間は悪いと思わない。雨が降ったときにぬかるんで鬱陶しいと思うくらいで、普通なんだよ」

 そう言われて、そうかと、理解できる。


「かあちゃんのおっぱいしか知らず、彼女が出来たときに、こんなもんかと言って殴られるみたいなもんだな?」

「言ったのか?」

 顔に、バカだなお前とくっきり書いていた。


「言った、殴られた。ホルモンがどうとか、子どもを産んだらどうとか、うだうだ三時間ほど正座で説明を聞いた。初エッチの途中だったのに……」

 呆れた顔をされたが、その後。


「捨てられなくて良かったな」

 そう言って笑っていた。


 まあ馬鹿な話をしながらだが、結果国を良くしようとすると、色々と便利を知っている俺達に、この世界の住人はかなわないという事。

 それを言いたかったようだ。


 ロケット、ロボットそんな単語を聞いて知らない人間は少ない。

 だがこの世界では、理解すらされない。


 身近だと電話もそうだ。

 通信用魔導具を作ったとき、錬金術者達は、そんな遠くの人間とどうして話す必要がある? そう聞き返してきた。

 この世界では、手紙が普通。

 それも馬か馬車か鳥か……

 いずれにしろ、絶対にリアルタイムでは無い。

 そういえば、魔法でゲートというか、どこでも…… なドアが出来ないかなぁ?


「それでは時間に無駄が出る。敵が攻めてきた。その時にすぐそれを知るのと、敵の到着と同時に知るのでは、備えに差が出るだろう」

 そんな、説明をした記憶が新しい。


 そんな事を言っていたせいか、王城で…… いや王に対して、馬鹿なことを口に出してしまった。


「どうする? 皆を待つか?」

「どうだろうな。前貰ったバッジもあるし、いけんじゃね??」

 何かあれば、これを見せれば良いと言って貰っていた貴族の証。

 

 そう、エジーヲ=ゴーバメッド侯爵家の紋章。


 貴族用と書かれた門をくぐる。

 王都だけあって往来が多く、街道側に専用の門が三つもある。

 荷馬車などの通る大門。

 人が通る、小門。


 構えが立派な大門。

 こちらが貴族用。


 商人関係用の門を抜けると、正面には、商店街が立ち並ぶ大通り。

 だが貴族用の門を抜けると、王城へ繋がる通りがバーンとある。

「敵が侵入をしたときのことなど、一切考えていない造りだな」


 日本の城下町などは、必ず通りに曲がった所がある。

 城下町内を通る街道及び街路は、必ずずらせて交差させる喰違くいちがいや、くの字形の屈曲くっきょく、直交しない十字路、丁字路という手法を用いて見通を妨げ、敵の直線的な攻撃を防御する工夫が凝らされている。

 妙に、道幅が狭くなっていたりまあ、色々知恵が積み上がっている。


 だけどこの城下は、ひたすら利便性だけを追求したようだ。


 おかげで俺達のような怪しい者達も、あっという間に城門へとたどり着く。


 そしてなぜか、門番さんは俺達の姿を見ると誰も居なくなった。


 そう触れの出ていた連中。

 迷彩服を着た集団。

 そんな奴らは俺達以外に居ない。


 そして伝えられていた内容は、少し前のもので、彼らが来たら会うから通すこと。

 しばらく前に、バメッド侯爵と王が取り交わした約束。

「なるべくなら、会って話がしたいものだ」

 などという話があった。


 だが人物は同じだが、今は敵国の王。

 さてさて、そんなやばい奴を、兵達は丁寧に案内をしていく。


 まあ最初に兵から連絡があったとき、王はどちらにしろ会う気だった。



「よく、おいでになった、今は、ダイモーン王国の国王ということでよろしいかな?」

 そう言った瞬間に、近衛兵達が少しパニックになる。

 賓客用の兵装はものが違う。


 もっと儀礼用に、実用よりも見た目重視のものが使われる。


 会うのが、謁見の間ではなかったために、おかしいとは思っていた。


 そう普通なら、明確な身分があり上下がある。

 だが今、王には判断ができなかった。

 そのため会議室を使う。

 それも円卓を。


「さて今回、こちらに来たのは、この国も貰う」

 会場に殺気が満たされる。

 全身に、ピリピリとした何かを感じる。


 なんと言えば言いのか、全体に静電気を帯びたときの違和感のようなもの。

 何か判らないが、いやな雰囲気が感じられる。


 そう、来るときに、楓真と話していた内容。

「それなら俺達が、国を整備するのが一番早いし、人々もあんな枯れた畑を耕さなくてすむな」

 そう、連作で枯れた土は、一雨ですぐに硬くなり、学校のグランドのようになる。

 そして、グラウンドと違い、水はけも悪くなり、育成も悪い。


 それには俺達以外の、そう土着民達は気が付いていなかった。

 だからそれを回避するために、絶えず新しい畑を開墾する。

 ただ、それには膨大な手間が掛かる。


 まあそれを考えていたがために、つい、勢いで言っちまった。


「ふむ。良いかもしれんのう」

 キクーノス=オーガミ王の答えも意外だった……

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