第45話 逃げ込んできた厄災

「こちらです。お早く。暗いので、足元にご注意を」

「やかましい。急かすな、もう少しゆっくり」

「駄目です、奴ら止まりません、すぐに来ます」


 彼らは王族用の避難路を抜けて、一旦川沿いを上り、森の中を走っていた。


 皇城から伸びて川に流れ込む排水口。その一つが脱出路になっていた。


 河原に降りて、川を渡り足跡と匂いを消す。

 そのまま少し上流から山の中へ。


 途中に小屋があり、村人の衣装が隠されている。

 妃や姫、王子達。

 一族が、あっさりと城を捨てた。


「こんな服、何か匂いますわ」

「死にたければ勝手にしろ、ドレスは目立つ、捨て置くぞ」

 王の口調が荒くなる。


「判っていますわ、ただ匂うと言っただけです」

 良家の娘だった妃、非常時になれていない。


 ギャアギャア言いながらも逃げのび、スキー侯爵家へと到着をする。先代のキンガー=スキーへと話が伝わる。


「何、息子が死んだと……」

 キンガー=スキーはその報告に驚く。


「装備は一流だったはず、矢も剣も通らないはずだが?」

「それが奇妙な武器を使っていまして、目撃者によると、その…… あっというまに粉砕をされたとのことでございます」

「粉砕だと?」

「はい。味方の兵達も跡形もなく」

「うぬぬ。許せん。じゃが、我が領だけでは…… そうだ、簒奪者から国を取り返してほしいと念書を書け」

 相手は皇王だが、人の価値とは、人が決めるもの。

 自分が宣言をしても、周りが認めなければ意味が無い。


 すでに、スキー侯爵の中では、皇王は国を追われた単なる弱者となっていた。


 報奨金の支払いを約束した一筆。

 それを元に周辺貴族に依頼を掛ける。

 当然そんな事、インセプトラ―王国の許可が必要となる。


 だが王都に陳情の書状が来たとき、彼らはもう動いていた。



「インセプトラ―王国側の国境で、侵攻です。貴族軍数千が入ってきました」

 数週間後には、龍一達の元に連絡が来る。


「応戦せよ」

 その一言で、適当な装備を持って皆が走っていく。

 侵攻への対応は時間が勝負。

 馬が走り、荷車が走り、人が走る。


 その荷車は、疲れ知らずで走り続けて、早馬を追い抜いていく。


 そう相手が、数千なら、二十人も居れば良い。

 国力の差、そして武器の差。

 その違いは、天と地ほども離れていた。


 その軍は、街道を長蛇の列となりやって来ていた。

 途中の村や町を襲い、戦利品を鹵獲していく。


 他国の軍など、盗賊とイコールなこの世界。

 通り過ぎた地では、奪いおかされ捨て置かれる。


「居たぞあれだな」

「ちょっと聞いてみる」

 そう言うと、メガホンで問いかける。


「貴様ら、インセプトラ―王国の軍では無いか、我が国の領土でナニをしておる」

 それを聞いて相手は、なんかわちゃわちゃした後、偉そうな馬に乗った奴が出てきた。


「やかましい、国盗人め、皇王の依頼により解放に来たのだ、おとなしく駆除されろ」

 そう言い放ち、笑顔。


「駆除ってゴキブリかよ俺ら。良いからやろうぜ、国境は踏み越えて来てるんだ」

「まあそうだな、全員準備」


 なんだか皆、戦いに慣れてきちまった。

 淡々と、そして迅速に準備をして、一気にぶっ放す。


 木があろうが、岩があろうが関係ない。

 ただ淡々と、動くものが居なくなるまで撃っていく。


 彼らは、幾度も盗賊達の非道さを見てきた。

 人は環境により、幾らでも残忍になる。

 殺さなければ、簡単に殺される。


 平和な日本でも時折起こる。

 気に食わないから、むしゃくしゃするから、誰かを巻き添えに等々。

 そう倫理という、人の前に引かれた見えない線は、ひどく脆く簡単に越えられる。


 ああ、どこかの国でも、気に食わないと車で無関係な人を跳ね回った事件もあった。

 そんな程度らしい。


 そして、音が止まる。

 周囲一帯を、浄化の光が包む。


 周囲を、手製の双眼鏡で確認をすると、彼らはまた走り始める。

 馬も御者もいない荷車が、街道を疾走する姿は、死を運ぶ荷車と呼ばれることになる。


 誰かが言った。

「噂が出ているし、黒く塗るか?」

「ばか、塗るなら赤だろう。赤に塗るとなぜか性能が上がるんだぞ」

「なんで?」

「さあ?」


 彼らは、町や村を開放していく。

 ただ、いい加減少ない住人は、大きく数が減らされていた。


 そこで少し、予防線を張り、後続がくるのを待つ。


 そこで決められたのは、徴兵された農民はごっそり頂こう作戦。

「なんか言いにくい、こっちの水は甘いぞ作戦で良いんじゃね」

「じじいかお前は、ここはだな、撒き餌作戦とか?」

「敵のものは俺の物とか?」

「ジャ○アンかお前は」


 意外と白熱をしたが、『徴兵された農民は、ごっそり頂こう』作戦に決まった。


 彼らの暗躍が始める。


 その頃、インセプトラ―王国の王城では、王様激おこ、参加した家は取り潰し、責任を取らせろ作戦を発動していた。


 だがそれに、いくつかの家が苦情を言ってくる。

 陳情の束。

 『そんな事では、王国が舐められます』

 『先王の時ならば、国を挙げて敵を滅ぼしに走ったでしょう』 

 『サンドウ皇国は、同盟国ですぞ、それが危機の時にお見捨てになっては、相手はダイモーン王国では有りませぬか、向こうは先の流行病で国に自体が傾いておる様子、それを手をこまねいて傍観なさるのは、あまりにも……』

 

 言葉を濁したが、ふぬけとでも言いたいのだろう。

 王キクーノス=オーガミは、決断をする。

 陳情を持って来た者達に、出兵を命令する。


「よもや嫌とは、言うまいな。話し合いで済めばそれに越したことはない。我が国が当事者にはならず、話し合いの場を設ける形にするのだ。良いな」


 そう言って、送りだしたが、この世界。

 話し合うには、まず力を見せ合うのが道理。

 俗に言う、まず一当たりという奴だが、それは兵力にあまり差が無いときの話し。


 差があれば…… 

「まあこれで国内が、静かになる。宰相、貴族の割り振りについて候補を出しておいてくれ」

「御意……」

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