第44話 黄昏時のサンドウ皇国

 彼らは歩みを進めるに従い、その数を増していく。


 農民達は彼らの言葉に、夢と思いを乗せる。

「もういやだ、徴兵のために、収穫が出来ず、そのおかげで税のために嫁も子どもも失った。国のために働き、何もかも失うなっておかしい」

「そうだそうだ、うちらの村だけじゃない。人が居なくて世話が出来ない」

 そのおかげで、二組の奴らは助かったようだが。


 村人といえ、勝手に増やすことは本来出来ない。

 だが、そんな事を言っていられない状況だったのだ。


 機械も、肥料を与える知識も無い、土中のpHなど、何それ状態なのだ。

 二組の連中は、堆肥を思いつき、山から腐葉土を持って来て、土作りを行っていた途中だった。


 だが落ち葉混じりの、まだ新しいものをすき込んでいた。

 腐葉土も、掘り返して堆積して熟成された土でなければいけないのに、そんな事は知らない。

 まあ高校生なら、そんなものだろう。


 だが派手な一組の行進で、彼らは救われた。

 ドンドン膨らむ人数。

 どんどん減っていく食料。


「げっ? やばくないか?」

「昨日、早馬は送った」

「無くなったら、暴動の矛先は俺達に来るぞ」

 流石に、島原の乱などの史実は知っている。


 あれは計略だったが、俺達は豊かな暮らしをスローガン、こんな所で食い物が無いとなったら、暴動を起こした事実は消えないから、皇国からの弾圧が始まる。


 そう、そうなれば、俺達のせいだとなるだろう。

 まあ他国に攻め込んだ時点で俺達は、敵だが。


 長くなった補給路。優秀な指揮官なら、とっくに分断されるだろうが、そこに気がつく奴は居なかったようだ。


 気がつけば、皇都前。

 町を囲む壁が見えてくる。


「次は皇都前、次は皇都前……」

 誰かが、アナウンスをする。

 

 なのだが、手前の開けた所に。敵が並んでいる。


 そして、その左翼に陣取るのは、見たことのある装備。

「あれってさあ、インセプトラ―王国の兵装だよな」

 インセプトラ―王国では、私兵との区別を付けるため、国軍は決まった装備がある。

 国の紋章が入った盾とか、すごく目立つ。


「旗は、どこかの貴族らしく、国の旗じゃ無いな」

 だが、国から兵が派遣されているところは、そんなに多くはないはず。


「まあ見知った顔は居ないようだし、敵なら殺るしかない」

「そうだな」

 俺達は、近寄るのも面倒なので、運搬車の上に乗り相手に聞く。


「そこの連中、サンドウ皇国の連中かぁ。再三の警告を無視して、我が国ダイモーン王国へ踏み入ったこと、責任を取ってもらう。素直に国王?? いや皇王を差し出せ」

「何を言う、人さらいめ、あげく我が国の懲罰軍を滅したくせに、おまえらこそ、その賠償を行え。嫌だと言っても滅ぼすことは決定しているがな」

「じゃあ交渉は決裂、まあ頑張ってくれ。皆、戦闘準備、奴ら死にたいようだ」


 向こうは、まだ距離があるのに矢を撃ちながら、進軍し始めた。


「おい、シートをめくれ、戦闘準備」

 荷台を回転させて固定。

 ぺたんと倒れている通称、二〇ミリ魔導砲。


 そいつを、四人がかりで持ち上げて、三脚をロック。

 荷車も動かないようにロック。


 伸びた紐を持ちながら俺は叫ぶ。


「射線を開けろ」

 その言葉は、都合五箇所から聞こえる。


 近寄ってくる、敵。


「何だあいつら、なんだあれは」

 普通なら、盾を装備して進軍。

 その後ろから弓隊が攻撃。

 近くなれば槍へと、攻撃は変化をするもの。

 だが敵は、あわてて逃げ出す。


 逃げた後、そこには台の上にのせられた、奇妙なものが残っている。

 それがこちらを向く。


「おそらくは矢の類い、新兵器か?」

 ボウガンとか原型はあるが、重くて意外と不便なため使われていなかった。


 だがそれが火を噴いたとき、世界が変わった。

 バラバラになって吹き飛んでいく兵達。

 盾など役にはたたない。

 そして、射程距離も圧倒的。


 アウトレンジからの一方的な殺戮。

 甘言に乗せられてやって来た、コーガネー=スキー侯爵家の連中も、あっという間に人の形を失う。

 その光からは、逃げることも出来ない。


 そう曳光弾も普通より少ないが、一〇〇発に一発くらい入っている。


 騒がしく聞き慣れない音が響く度に、敵はいなくなっていく。

 

「これが戦争?」

「サンドウ皇国はなんていう所と、戦争をしていたんだ……」

「ダイモーン王国だろ」

「ちがうちがう、そうじゃ、そうじゃない。そうだけど、そうじゃないんだ……」


 農民達は、今は味方となっている国の力に驚く。

 今まで思っていた兵など、何の意味も無い。

 見ているのは、新しい戦い。


 今動いているのは、たった五人。

 その光景に、皆愕然とする。


 実際は向きを調整するのに二人と、弾込め用にもう一人、実際は二〇人が動いているが、きっとそう言うことじゃないのだろう。


 静寂が戻ってくるのに、そんなに時間がかからなかった。


「おら足元に注意して、進軍。目標皇城。皇都に向けて進め」

「「「「「おおっ」」」」」

 なぜかこちらの鬨の声が、控えめになっていた。


 皇都の城門もあっという間に粉砕。

 壁の上にいた弓兵や魔法師も瞬殺。

 射線は一応考えた。


「さあ、行くぞ」


 黄昏時のサンドウ皇国、周囲が赤いのは、夕日のためだけではない。

 その日皇都は、真っ赤に染まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る