第三章 大陸統一

第33話 混乱

「ダイモーン王国の異常が片付き、王様も代わったそうだぞ」

 その話は、王家からの布告と共に広がっていく。


 そしてそれを聞いた、インセプトラ―王国キクーノス=オーガミ王。

「なぜじゃあ、なぜそんな事に。残りの者達はどうなった? を知らせよ」

「はっ」


 兵は、馬を乗り潰しながらひた走る。

 サンカウロスの町へと……

 そして大声で聞いてしまう。


「リューイチ=ジンノなる者、ダイモーン王国の王位を継承する旨連絡が入った。誰か事情を知るものはいるか?」

 当然、国から国への報告。

 王から王への親書の内容など、地方には届いていない。


「へー、リューちゃん達、何やったのかしら?」

「ねー、王様だって、すごーい」

 森 澪もり みお濱田 結愛はまだ ゆあも、心配をしていた龍一達の知らせ。その時には、ほのぼの、きゃぴきゃぴしていた。


「王位に即き、同時に第一王女デレシア様との婚儀を執り行う様子…… ぐわっ、ニャにを……」

 兵は報告書を読んではいたが、兵の端くれ。

 こういう通告の時には、内容によっては、時に命の危険がある。

 だから警戒はしていた。


 なのに、反応すら出来なかった。

「今の言葉、マジ? 嘘だよねぇ」

 気がつけば、襟を掴まれて足先が浮いている。

 装備をつけ剣も吊っている。

 総重量は百キロ以上。


「―― いまの、ことば…… とは? 首を…… しにゅからはにゃして」

 兵の首を、人間離れした力で締め上げるのは、森 澪。

 見た目はかわいく、首をこてんと倒し、聞いてくる。


 だがその目は、マジパねえ状態。

「ねぇぇ、本当なの? 婚儀って結婚でしょ。ふかしていると、しめるよぉ」

 さらに力が加わる。


「しょうでしゅ…… くびぃはにゃして……」

 かわいそうな兵は、ネックハンギングを喰らい、耐えきれず失禁。

 流石に放されて、床に落ちる。


「ちっ、男は好きかってさせると駄目ね。野郎ども…… いくわよ」

 宣言をした時のその目、その顔、まさに修羅であったと……

 あの、福山でさえちびりそうになり、マリーも久々に死を感じたと語っていた。

 福山の右上腕に、食い込んだマリーの指の跡が付いていたくらいだ。


 その数週間後……

「子細不明ながら、彼ら、かの町から不明となった模様。行方は知れません」

 その兵は、疲れ果て苦しそうな様子で、報告を行う。

 急ぎ、サンカウロスの町へと行き、すぐさま折り返してきた。


「何だと、では彼らに会えなかったのか?」

 王は思わず、王座から立ち上がる。


「いえ、私はお会いをして…… そう、光に包まれる神にも御会いしました」

 完全に立ち上がり、一歩前に。


「おお、神に? やはり彼らは使徒。それで?」

「さあ? そこから記憶が不明瞭でして、ギルドマスターが黄昏れながら語っておったのは、―― 奴らは行っちまった、これから依頼をどうこなせば良いのかと……」

 それを聞いて、呆れたように王座に座り直す。


「そんな事は、地元の兵に任せろ。して、不明なら行方を捜せ」

「はっ」

 兵は、帰ってきたばかりなのに、また馬にまたがる。


 だが自分が原因の半分であることは、王に知られなかった。

 ギルドマスターは語る。


「お前さんばかだな、つまらんことを言うから、皆行っちまったぞ。下手したら、あいつらダイモーン王国を滅ぼすぞ」

 倒れている兵に向かい、しゃがみ込み、覗き込んでいる大男。

「つまらぬ事?」

「ああ王になった男は、お前さんを失神させたあの女の子の彼氏でな、ゾンビだか死人だか、退治しに行ったのを、そりゃあ、毎日心配をしていたんだ。それが他人からいきなり、よその女と結婚をするって聞いたんだ。そりゃあ、怒るだろ」

 ああそれで…… ここでやっと、彼は納得をする。


「怒りますね」

「と言う事だ。連中がいなくなったのは、お前さんのせいだな。まあ頑張れ」

 そう言って、ギルドの奥へ行ってしまった。


「俺のせい? そんな理不尽な……」

 ぼやきながら、馬に乗った記憶。


 そんな出来事を思い出しながら、行き先を決める。

「ならば今から行くのは、ダイモーン王国」

 彼は、背後から夕日を受けながら東を目指す。


 ―― 頑張れ、別方面からの報告は、きっと王に届く。

 理不尽だが、君に未来はない。

 理不尽だが、誰かが責任を取らねばならぬ。

 理不尽だが、たとえ命令を王が出したとしても、ひょっとするともっと良い方法があったのかもしれない。


 昔からの通常通りの作法、だがそれがドラゴンの尻尾を踏み、誰も居なくなってしまった。


 心配ない、君に未来はないんだ、今は無心に走り抜けろ……

 亡命という手もある。

 運命のいたずらで起こったこと、流れに身を任せろ。



 そして彼は、やがて彼らに追いつく。

 雨のせいで、荷車の車輪がハマっていた。

「押せよ」

「足場が悪いから駄目なんだよ」

 足元が緩ければ、人並み外れた怪力も逃げてしまうようだ。


「お助けしましょう」

 彼は、颯爽と登場をした。


「あっ死んでた人?」

 幸い? 顔も知られていたようだ。


 山側から、石や土を持ってきてすき込み、荷馬車に馬を繋ぐ。

 皆の足場にも、小石や砂が撒かれる。


「行きますよ。そーれぇ」

 彼は晴れやかな顔で、脱出を手伝い、王国からの補助として彼らの中に入り込んだ。

 その判断は、是か非か、それはまだ判らない。


 だが、意外と早く救い? の神は現れる。

「あの兵隊さん、格好いい。ぐふっ」

 ざむっと現場に足を踏み入れ、どむっと、颯爽と胸を張る女、間中 美加その人であった。


 体型のせいなのか、変わった擬音を彼女は残し……

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