第21話 最近のお悩み

「ああー、判らん」

「何が?」

 神野 龍一は、森 澪と、一つのベッドで仲良く話をしていた。


 時刻は、午後七時位。

 そうこの世界では、日が沈み暗くなるとよい子は寝る時間。


 軽くスキンシップと、気合いの入った筋力強化に励み、二人はあっつあつ状態。


「この修学旅行は、どうすれば終わるのか、期間かそれとも、みんなが言うように、何かをしないといけないのか…… それと…… 感じるのは此処かなぁ?」

「こら…… またっ。ううんっ、あんっ」

 彼らは再び運動を開始した。

 そうこの厳しい世界、トレーニングは重要だ。


 同じ時間、隣の部屋でも杉原 楓真が唸っていた。

「どうしたの? 寝よっ」

「ああ、そうだな」

 濱田 結愛はまだ ゆあは、もう準備は万全。

 この世界に来てから、女子は全員月のものが来なくなっていた。

 最初は驚いたが、便利だし、楽なので開きなおっていた。


 そう……


 普通にある現象だが、結構毎月大変らしく、なくなったのはある意味ラッキーだと、そういう仕様なのだと理解して、皆開き直った。


「楓真、どうしたの?」

「うん? 新しい寮だが、風呂場は欲しいだろ」

「いる!!」

 結愛がベッドから出てきて、テーブルに向かっていた、楓真の背中に張り付く。

 ふよんとすてきな感触。


「キッチンとかは各部屋と、中央に一つ、食堂。皆が料理ができるわけじゃないからな」

「そうね、でもそれなら、料理が出来る人間の負担が大きくならない?」

「それは現地の人を雇う。皆から食費を取って、それで給料をまかなえば良い。人件費は意外と安いからな。風呂もそうだ、水魔法で水をためて、湯を沸かす。沸かす循環釜は鍛冶屋さんに図面を渡すが、漏水がない様にきちっと止めることができるかだな」

 彼がそう言っていると、こっちでも……


「漏水しているわよ」

「それは、おまえがいじるからだろ…… 人のことは言えないじゃないか、お前もジャバジャバだ」

「もうっ、さっきから待っていたの、早くぅ」

「仕方ないな」

 そうして、せがまれ、お姫様抱っこでベッドに向かう。

 まさに、性旬。


 

「それでね、私だけがあぶれちゃって、ひどいと思わない、毎日周りでアンアン言っているのよ」

「それは大変だったね。いまは僕がいるから良いじゃないか。僕としては君があぶれていて良かったよ」

 間中 美加は、一組と合流して幸せを見つけたようだ。

 ただ、葛野 大二郎かずの だいじろうは、こちらに来てからのはっちゃけ組。


「これで五人目。感度はいまいち、だけど好奇心は旺盛……」

 そんな日記を彼は書いていた。



 だがまあ、こちら側は概ね平和なようだ。



「―― そうか、では数は今増えておらんな」

「はい」

 代官である男爵は、日々彼らの動向を、調べて報告させていた。


「変化がないなら良い。宿舎についての希望は?」

「それが今、鍛冶師と何やら相談中だそうです。鍛冶師のカークスと言う男と技術的な問題で話し合いだそうです」

「そうか」



 鍛冶屋の親父、カークスは同業の鍛冶師、ミスオーヒクに協力を求めていた。

 だが、基本的な水の対流がどうしても理解できない。


「こんなパイプを突き刺して、どうやって混ぜるんだ? ここだけで湯が沸いても駄目だろう」

 とうぜん、飲みながらの話。

 まとまるものも、まとまらず、日々深酒になって同じ事を繰り返す。


「だから説明をしただろう」

「何がだ?」

「水は温まると、軽くなるのだそうだ」

「ああっ? 水は湯になっても同じものだろう?」

「それが違うらしい」

「違うだと?」

 何度目かの怪訝そうな顔。


 近くの席では……

「また同じ事を話してやがる。熱で膨張をして実体積が増えるとか言っていたが、オレの方が覚えちまった」

「まあまあ、酔っ払いだからな」

 どうも親方達は、周囲に向かい物理学の講義をしていたようだ。



 だがそれは、この世界では新鮮なようで、それを聴いていた男が何かを思いつき走っていく。

 後に蒸気機関が、この世界で発明をされることになる。


 これの後に、ミスオーヒク親方は彼らから、蒸気機関の設計を頼まれたときに、調べに行くと、すでに商業ギルドに対して、占有技術新案が提出されていた。

 まあこちらで言う、特許である。


 そう酒場での会話、これのおかげで大きな儲け話を捨てることになった。




「教会の方で何とか出来ないのか?」

「それは、ゾンビ相手に戦闘をしろという事でしょうか?」

 状態のひどさに困った王は、教会の関係者を呼びつけていた。


「こう股になった棒とかで押さえ込み、その隙に浄化とかできんものか?」

「それができるなら、杭を刺しても同じことでは?」

 どう言ってもへりくつを捏ねて、協力をしない教会関係者。

 忌々しく感じる王……


「そういえば、教会が売っている聖なる水、何の効き目もないようじゃ無いか。以降販売禁止だ」

 そう言って、にやり。


「なっ、あれはゾンビ用ではなく悪霊の類いを払うための物、使い方が違います」

「奴らも、悪霊の類いじゃなかったのか?」

「それはそうですが……」

 司祭の悔しそうな顔を見て、王は多少溜飲が下がる。


「ゾンビ退治に協力を行うように」

「それは…… はい……」

 渋々、返事を返す。


 無論教会に帰ったときに、何を言われるか分かっているからだ……


 司祭が、城を出た後、まるでゾンビのように重い足取りで町中に消えていった。

 それを見たのか、どこかで鳥の鳴き声が、ケケケと聞こえる。



 ※アオゲラというキツツキの仲間が発する警戒声が、ケケケと聞こえるそうです。

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