第20話 試練

「何、それはまことの事か?」

「はっ、知らせには、そのように書かれております」

 キクーノス=オーガミ王は考える。


 天から…… おそらくは、何かの試練。

 『シュウガクリョコウ』とやらを、受けるために彼らはやって来た。

 それはいかなる物なのか……


 王は、ゴクリとつばを飲み込む。

 常人には、計り知れない何か……

 そう、この世界で何かが起きておる。




 ―― 起きていた。

 インセプトラ―王国から、南側。

 神々が住まう山々と呼ばれている、山脈を挟んだ反対側。

「まただ……」

「どうすりゃいいんだ……」

 ダイモーン王国では、今年の初めから奇妙な病で人が死に、それは急速に広がっていた。

 最初は軽微な風邪症状。


 だがそれは、およそ二八日、一月近く経つといきなり劇症化、高熱を出し急激に悪化。

 最終的に、多臓器不全を起こして、人々は亡くなっていく。


 ところがだ、夜中に埋葬された墓地から這い出し始める。

 見た目は、土に汚れた顔色の悪い人。

 だが、人間を見ると襲い始める。

 そうゾンビ化。


 教会では、埋葬時に浄化をして土に埋める。

 だが、ゾンビが出始めて、埋めるときに石を抱かしてみたりしたが、力が強く這い出してくる。


「地から、何か悪しき物が湧いているのかもしれない」

 神父さんがそんな事を言い始める。


 そのため、直接土に触れないように、ご遺体を木の箱に入れて収めることに決めた。

 だがそんな物を買えるのは、裕福な者だけ。

 大部分は、そのまま埋める。

 従来、死者は地に吸収され、浄化されると言われていた。


 そしてこのゾンビ、倒し方は、胸に杭を打つと死ぬようだ。

 首をはねても、胴体は動き続ける。

 そして、不注意に血でも浴びれば熱が出て、一月後には仲間入りになってしまう。

 無論噛まれても同じ、体液は危険なのだ。

 

「なんとかしねえと、人が居なくなっちまう」

 ナラカの町、ギルドの酒場で、冒険者ベリアル達は酒を飲みながらくだを巻いていた。


 そう今日も彼らは、ゾンビ退治をして帰って来た。

 依頼を受けた場所、第三開拓村はすでに全滅をしていた。


 生前の行いに多少影響をされるようで、農作業をしている振り、水を汲んでいる振り、踊っている者……


 両手を斜め上に挙げて左右に…… どう見ても踊っているようにしか見えなかったが、ひょっとすると何かの作業かもしれない。


 途中で聞こえた、『ぽぅ』と言う奇声。


「だめだ、村人は全滅だ。急所は胸だそうだ、血には気を付けろ。ヴァラク、美人でも死体とはするなよ、うつるぞ」

「ばか、おれが幾ら女が好きって言ったって、死体とするかよ」

 そう言って、嫌そうな顔を向ける。


「ミミちゃんでもか?」

「馬鹿野郎、あの子はまだ生きている。縁起でもないことを言うんじゃねえよ」

 ミミちゃんは、ヴァラクのお気に入りだった女の子。だが、働いている店、ナラクは飯屋というよりは酒場だったため、人の出入りも多く、彼女は数日前から熱を出しているようだ。

 疲れだろうと言ってはいるが、長引けばあの熱病だ。

 みんな、口では色々と言っているが、判っている。


 おおよそ二八日…… 六六六時間経てば、皆死んでしまう。

 その後生き返り、人を襲い始める。

 最近は、なるべく墓穴を深く掘り、うつ伏せに埋葬するのが流行らしい。


 教会関係者達は、幽界門がどうとか言っていたが、そんな非現実的な物ではなく悪さをしていたのは闇の者。

 そう地球で言えば、悪魔というのが近いだろう。

 ダイモーン王国の地方領主、ガミジン=ホース侯爵。


 人から見れば、牧畜や農業にいそしむ温厚な領主。

 実に平和な領だが、仕事がやりやすいのか盗賊などが現れる。

 街道を通る商人や、農民が忽然と姿を消したときには、盗賊でも出たんだろうと諦める。運が悪かったと……


 代々領主をしているが、皆詳しくは知らない。

 王家すら、余り関心がない家であった。



 ただ、代替わりの連絡は来るが、婚姻や出産、そんなものはついぞ聞いていないことに誰もが気がついていなかった。


 屋敷の地下には、どこかで見たコウモリもどきが大量にいて、ギイギイとやかましく鳴いている。

 そしてさらわれた者達は、自分自身が食われていくのをぼーっと見ている。


 やがて満腹になると、下級デーモン達は国中に広がってく。

 色々なものをまき散らしながら……


「コウモリが飛んでやがる。明日は晴れか?」

「バカ、黄昏れているなよ、日が暮れかかって、気温が下がってきたんだ。天気を当てるなら、ワイバーンが低いところを飛んでいるときだろ」

 そう言いながら、近寄ってきたじじいの胸に杭を押し込む。


「そりゃ違う、炎竜だろ?」

「そんなめったに飛ばないものなど、あてにならん」

「良いから、早くしないと暗くなる」

 皆は、意図的に無駄話をギャアギャア叫びつつ、ゾンビ達を呼び寄せる。


 真面目に日が暮れるとやばい、こっちは休憩が必要だがゾンビ達は二四時間襲ってくる。

 噛まれれば痛いし、病気がうつる。


「ほら、あの子かわいいぞ」

「ああ、かわいいから、皆に食われちまって…… ゆっくり休んでくれ」

 そう言って、ヴァラクは女の子の胸に杭を押し込む。


 その時、ミミとイメージが重なり、つい涙がこぼれる。




 ―― 本当の心は、彼にしか判らない。

 だが彼は、ミミが亡くなった後、シオンちゃんが推しになったようだ……

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