第5話 ~吸血鬼と少女は相対する~

「そちの吸血鬼や武具はお使いにならないんで?」


「最後の信じられるのは己の肉体のみってね」


「ほうほう、その考えには同意……ただはなっから無手なのはあーしを舐めてるんで?」


 西宮にしみやジョンソンは元々剣や鎧などを身に付けて戦う、吸血鬼としては臆病と呼ばれる戦い方をしていた。


 だが、その重装備故にジョンソンが生まれる100年以上も前から、受け継がれてきた城をジョンソン一人で守り抜いて来た。


 そして武具を信用し切っていたジョンソンはある戦いで窮地に陥ってしまう、それはある武闘家がやってきた際のことである。


 ジョンソンは武具を装備していない武闘家のなりを見て油断をしていた。


 いつものように城を守り抜くために抜刀して戦闘を開始するのだが、その武闘家は武具の隙を何度も付きジョンソンを追い詰めて行った。


 そして剣も叩き落とされ、遂に無手になったジョンソンは焦り、最終的には拳と拳のぶつかり合い、最後こそはジョンソンが勝利したが、その時なぜ無手の武闘家がこんなにも武具を使用している相手と立ち会えるのか不思議に思い、その武闘家に不本意ながら弟子入りをした。


 そしてその時の経験と師匠の教えに倣い、最後に信じられるのは己の身体、基ジョンソンなりの解釈での最終装備は、己の身体だだそれのみという考えになっていったのであった。


「いいや、自らの身体を装備して戦うっていうのは、私的には最大限の武装、つまり貴女には最大限の警戒をしているということと捉えてくれて大丈夫です」


「そーれは嬉しいお話、あーしも全力でアンタを負かしてやはり武具はその最後まで行かないようにする、最大限の信用を置くに値する物だと、その凝り固まってそうな考えをほぐして塗り替えてみせましょうかねぃ……煙々羅【渡り雲】」


 鞘の丁度親指が位置する場所に付いたボタンを押しながらそう唱えると、鞘から煙が噴き出し少女のいるコンテナとジョンソンがいるコンテナの周りに、まるで雲が床と成すように漂い始めると同時に、少女はジョンソンに向かってその雲を足場に走り出した。


 二人が接触する寸前で、少女は居合切りをしジョンソンに攻撃をしようとするがそれは当たらず、逆に少女はジョンソンの突きをまともに腹部に喰らってしまう。


「ゴホッ……ゴホ、中々良い攻撃を繰り出す」


「確実に貫くぐらいには力を込めたはず、なぜ倒れないんですか?」


「種も仕掛けもございます……あーしの服は水虎すいこの革で作られた防刃服、そう簡単に貫かれては実に悲しい話、まぁ今ので気絶しないのは自前ですけんど」


「妖怪やらの特性を持つ道具などを持っていますが、それはどこで手に入れたものですか?」


 ジョンソンは少しでも今回の仕事の大本である、シャドーピープル関連の情報を引き出そうと質問する。


「あーしの友人には腕の良い妖怪武具を作る御人がいて、その人があーしらに対していろいろとご恩がありまして、そういった事の巡り合わせでかまいたちの剣などを譲ってもらってるってな話でさ」


「妖怪武具……無闇に妖怪を狩ってはいけないのはご存じでしょうか?」


「さーねぇ、でもそれってアンタら側の常識でしょう。あーしら人間はそんな法律微塵たりとも聞いたこたぁねぇ、それにここら辺は注意看板が立ってねぇってわけだしな、それかなんだ、ここら辺は妖怪保護区なんですかねぇ?鳥獣保護区、みたいな」


「完全に馬鹿にしていますね」


「そちこそ、先程から腰が抜けた攻撃ばかりで退屈で退屈で……はぁあ、はくび欠伸も出ますわ」


 質問をしている最中も攻防は繰り広げられており、それでも最初のように簡単には攻撃が当たらない、ひらりひらりとジョンソンの攻撃が躱されて反撃を入れられる始末。


「へへっ、よぉく切れるでしょうあーしのつるぎ。さっきは峰打ちじゃとか言ったが、それは能力採取の際のみの剣。あーしの剣は弐刀で壱対!ザクザク切れる我が愛刀【妖命盗あやかしめいとう】ここに見参!」


 腰に差してあるもう一つの長い鞘に刀を差し、前口上を言いながら再度鞘から刀を引き抜くと、先程まで少女の半身程度の刀身だった刀が、その実少女の身長ほどにまでに切先きっさきが伸びていた。


 一方益努奈々えきど ななはというと、早々に空からの脱出は諦め、ジョンソンと少女の戦いを空から見て、どうにか入り込む隙間を探していた。


 ジョンソンと少女の戦いが始まってから空の霧も霧散し、少女が戦いに集中しているのは一目瞭然ではあるが、少女を覆うようにドーム状に構築された薄い霧の膜は、外敵からの奇襲を警戒して張られたものだとは、奈々はまだ気づいていなかった。


 そんな中、コンテナの密集地帯から少し離れた場所に寝かされた設楽鈴男したら すずおが目を覚ました。


「ん?どこだここ……さよか!わしはあのガキにやられたんやな。アイツらはどこや?」


「やっと目を覚ましたよ……オイ鈴男!グータラしてる場合じゃないんだ!あの二人はどこ行った?俺の予知が危険信号出しててヤバいんだよ!」


 その隣には國神錦くにがみ にしきがいて、鈴男に危険な予知をしたことを伝える。


「なんや、やけに曖昧やけどどうした?あんたん予知能力はめっちゃ高性能なはずやん」


「なんか変な靄が掛かっててよく見にくいんだ、とにかく二人を助けないと」


「ちゅうかジブン、作戦参加する気になったか!」


「…………俺も俺の能力を投資する気になったんだよ」


「なんや、よぉ分からんけどええ事やん」


 鈴男は錦の心変わりの原因は分からなかったが、前向きな考えを好むこの男からしたら、ひねくれた仲間が真っ直ぐになって帰って来たのを見て、認識を改めようと思考するのだった。


「わしらはさっきまで向こうのコンテナ群で戦っとった。まぁわしは戦闘開始早々リタイアしたけどな、そらええけど相手の能力が分からん状況で無闇に突撃するのも良ぉない、少し様子を見てから戦闘に参加しよか。ジブンの予知も気になるしな」


 戦闘にあまり参加できなかった鈴男は、少女の能力を知らなかったが、コンテナ群から漂ってくる薄い煙を見て、自分と同じ煙々羅なのでは無いのかと思い始めていた。


「煙……コンテナ……これ俺が予知した時に見た景色とまんま同じだ!」


「つまりこのコンテナ群でなにかヤバいことが起きる、もしくはもう起きとることになるな。ていうかジブン、絶対わしがすぐリタイアしたことを馬鹿にしてくるのかと思っとったわ」


「今はそんなこと言ってる場合じゃないってだけ、まぁ本当は内心馬鹿にしてるけどな!」


「ハッ!ええ度胸やん」


 コンテナ群に走り向かい出した二人をよそに、ジョンソンと少女、それに奈々の戦いは激化していく、錦が見た予知は無事二人に届くのか。

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