今日、世界が死ぬ前に

@yusuii

また、明日

「もうすぐ、世界が死ぬんです。」

「それで?」

「明日、新しい世界が生まれます。」

「最悪。」

「同感です。」

「なんで?」

「僕は今日、死ぬんです。」

女の吸う煙草の先は灰になって散った。

二人を照らす街灯が点滅している。

冴ゆる夜の風は耳に刺さる。

「明日の僕はドッペルゲンガーです。」

「病気?」

「そうです。僕は今日生まれました。」

「ハッピバースデイ。」

「ありがとうございます。」

女は二本、蝋燭に火をつけた。

少年は片方を口にして吹いた。

「僕の命はこの煙と同じです。薄くて一瞬で、不味い。」

「私は好きだよ。君のことも。」

「え?」

「君も私のこと、好きでしょ。」

「そうですけど。」

少年は耳まで赤らめた。痛いくらいに。

「君の必死なところ、好き。死ぬ前に私に告白してくるところとか。」

「一目ぼれです。見た瞬間に思いました。運命の人だって。」

「そうだよ。ほら、見ての通り。」

女の小指には赤い糸が結ばれていた。

少年の小指にも同じように巻き付けられている。

「そういうことですか。ハハッ。」

二人は星を見て笑った。

「昨日の僕はどんなことを話したんですか?」

「似たようなことだよ。一昨日も、その前の日もね。」

あれがベテルギウス。あれがシリウス。あれがプロキオン。

「線で結べば、冬の大三角のできあがり。」

「きれい。」

「羨ましいよ。」

「そうですか?」

「ああ、私も忘れたい。」

二人はお互いの瞳を見つめ合う。

「気づいた夜空の美しさ、楽しかった思い出、面白かった漫画、初恋の瞬間。」

全て。

「何度でも噛みしめたい。」

「そうですね。」

少年の目が綻びた。

「毎日、あなたを好きになれて、僕は幸せです。」

欠けた三日月が二人を照らしていた。

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