第1話 なめくじの歩行速度よりも速く

 私の名前はレイ! 至って普通のMTGプレイヤー。今日も行きつけのカードショップでルールを守って楽しくマジックを遊ぶよ!


「大変だよ! レイちゃん!」


「どうしたの? アオイちゃん」


 親友のアオイちゃんが慌てた様子でかけよってくる。


「お店に悪質なMTGプレイヤーが来てるの!」


「悪質なMTGプレイヤー? そんなの絶対許せないね!」


いきつけのカードショップを荒らす悪質なプレイヤーは放っておけない!

カードショップに急がなきゃ!


「へへっ。また勝っちまった! この斜九寺なめくじ様に勝てるやつは、この店にはいないようだな! それで? 次にやるのは、お前か?」


 赤い髪の少年が店内を見回す。


「あ、アタシ……あなたと同じフォーマットのデッキがなくて……」


 緑色の服を着た少女が断ろうとするが赤い髪の少年は少女の前に座りデッキを置いた。


「へへっ。安心しな。俺がやるフォーマットはタイプ0。デッキ構築に煩わしい制限のない理想のフォーマットさ。タイプ0じゃあ どんなデッキでも『アリ』だ」


「じゃあ私のこのデッキも?」


「どんなデッキかは知らねーが、タイプ0はそれを受け入れるぜ」


かかった! 緑の服の少女は内心、笑った。彼女のデッキはMTGアリーナでは禁止改定で使えなくなったとっておきの速攻デッキ。これならアイツに負けた他の子たちの仇をとれるはずだ。


「先攻、後攻はじゃんけんでいいか?」


「それでいいよ」


じゃんけん、ポン!


「俺の先攻!」


「待った! それよりアタシの方が早い!に手札の《残響の力線》を場に出すぜ!」


「あれはアリーナ禁止カード《残響の力線》! 2ターンキルの速攻デッキ!」

「ずるいぞ、ミドリちゃん!」


 ギャラリーからブーイングが飛び出す。

 力線と名の付くカード群は共通効果として先行の第1ターン開始より早く初期手札から場に出すことができる。


「へんっ。なんでもありなんだろ? タイプ0とやらじゃ、これも当然アリ。違うか?」


「その通りだぜ。当然アリだ。だがなあ…遅い! 遅すぎるぜ!」


「なんだと……!?」


「行けっ! 7枚の《ロケット噴射ターボナメクジ》!」


斜九寺 Win!


「一体、今のは…? 何が起こったんだ!?」


「まさか…あれはまさか伝説の…【60枚の《ロケット噴射ターボナメクジ》デッキ】 アルか…!?」


「知っているのか…ミンメイ!」


 カードショップで最もカード知識のある中国系アメリカ人の少女、ミンメイがギャラリーに解説する。


《ロケット噴射ターボナメクジ》

超速攻(あなたはこれをプレイする1ターン前に、これで攻撃してもよい。)

3/1


「《ロケット噴射ターボなめくじ》は速攻を超える超速攻のカード アル。召喚したターンにすぐ攻撃可能な速攻能力を上回る『召喚するよりも1ターン早く攻撃できる』というジョークカード ネ……。ライフ20点のゲームでパワー3のナメクジが7体も攻撃してきたなら……当然、1ターンで試合が終わるアル」


「でもデッキに同じ名前のカードは4枚しか入れられないはずだろ!?」


 ギャラリーの疑問にミンメイは首を横に振った。


「それは一般的な現代MTGの話アル。いにしえの『本当のマジック』では同名カードの使用枚数に制限がなかったと中国4千年の歴史に刻まれているネ。20枚の《ブラックロータス》が使われていた時代もあった…と」


赤い髪の少年、斜九寺なめくじが頷く。


「その通り。タイプ0は 昔の『本当のマジック』に最新のカードを加えた遊びさ。さあ、これでこの店の決闘者はみんな倒したわけだ!」


「待ちなさい! 私が相手になるわ!」


 カードショップのドアを開けて我らが主人公、レイが現れた。


「レイ、無茶だ! アタシの禁止カード入り速攻デッキでも手も足も出なかったんだぜ! あいつと戦えるデッキなんてあるわけがない!」


「あいつと戦えるデッキならあるわ! いつかこんな日が来るんじゃないかと思って組んでいたもの! 勝負よ、斜九寺!  こんな『つまらないゲーム』は私が終わらせる! 賭け試合アンティよ!」


アンティの制限にギャラリーはざわついた。


「アンティに賭けるのはカードだけでなく、この店でのタイプ0のプレイ権利!」


「そのアンティ乗った! 俺のデッキにお前が勝てたならもう二度とこの店でタイプ0はやらねーと誓うぜ!」


「先攻後攻はコイントスでいいかしら?」


「構わねーぜ、俺は裏を宣言する」


ピンっ!くるるる… ( 裏 )


「へへっ。俺様の先攻だー!」


「じゃあマリガンチェックね」


マリガン…ゲーム開始時の手札が悪かった場合、手札を1枚減らして引き直すことができるルールだ。


「へへっ。俺様のデッキは60枚全部が同じカードなんだ。手札事故なんて起こらねーよ」


「そう…。私は…さらに手札を1枚減らしマリガンするわ…」


「どうやら命運尽きたみたいだな…」


「それはどうかしら? ……まだマリガンするわ」


「ははは、好きなだけしていろ。負けるまでの時間稼ぎにはなるかもな」


「マリガン終了。残り手札2枚でキープ」


「そんな少ない手札で俺に勝てるものか…俺のターンだ!」


「待ちなさい…!」

「この瞬間、手札から力線カードを公開!」


「馬鹿の一つ覚えのように《残響の力線》か。2ターンキルじゃ俺の1ターンキルデッキには勝てやしない!」


「これを見ても言えるかしら?」


「青い力線…たしかカードをインスタントタイミングで使えるようにする……いや、イラストが違う!  なんだその力線は!?」


「あれは! 《不同の力線》アル!」


「知っているのか!ミンメイ!?」


「《不動の力線》は全てのクリーチャーが伝説のクリーチャーになる力線ネ! レジェンドルールによって伝説のクリーチャーは場に同名カードを2枚以上出せない決まりアルよ!」


「これであなたのデッキは、名実ともに伝説のナメクジデッキになったのよ……!」


「俺のナメクジが1体しか場に残せなくなるだと……!」


「ナメクジ1体じゃあ1ターンキルは成立しない! さあ、あなたのターンよ! 私はこれでターンエンド。これであなたの敗け。さあ、サレンダーするなら……」


「サレンダーは…しない! 行くぞ《ロケット噴射ターボナメクジ》! 超速攻で攻撃してターンエンドだ!」


「……!?」


「俺は投了はしない主義だ……ゲームは決着までちゃんと遊ぶものさ」


「……! 私のターン。ドローしてエンド」


「俺様のターン。ドロー。そしてエンド。ロケット噴射ターボナメクジの超速攻能力は次のターンにナメクジを召喚することが義務付けられている。しかし俺の現在のマナでは召喚コストが払えないのでナ、メクジの効果によりゲームに敗北する……」


レイ Win!


「お前はつまらないと言ったが……久しぶりにマジックで満足いく勝負ができた……勝ちと負けがあるから勝負。それを思い出させてくれて、ありがとよ。約束通り、俺はもうこの店では二度とMTGで遊ばないぜ……」


「待ちなさい…アンティに賭けたのはタイプ0のプレイ権だけよ」


「……!」


「今度は普通のデッキを持ってきて。普通のマジックならみんなも遊んでくれるはずだよ」


「ありがとう、俺もお前らと……遊んでもいいんだな……」


「もちろんだよ!」


「普通のデッキなら大歓迎さ」


私はこんなにも素敵な仲間に囲まれている。

素敵な仲間たちのいるショップをもう二度と荒らさせない…!


~~~~


「ナメクジがやられたようだな…」


「ふん、奴は『タイプ0四天王』の中でも最弱」


「自分のカードによって敗北するとは、我ら四天王の面汚しね」


「次は私が行く……あの力線デッキでは私のデッキには勝てないもの……」


~~~~

次回予告

60枚のナメクジを倒したレイのもとに新たな刺客が現れる。

次のタイプ0四天王であるゴスロリ少女に果たしてレイは勝つことができるのか…!

次回、超高速MTG対戦 TYPE/Zero

第二話『脅威の0ターンキル! 黒単の恐怖!』

次回もMTGの闇を覗いてもらおう。

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