第24話
部屋に戻ったアオは不安に押しつぶされそうな心を、スイに抱いた罪悪感を一つずつ捨てていく。
姉達はアオのことを本当に大切に思ってくれている。
アオにとっても、姉達は大切だ。スイ以外にもできた大切な人達だ。もちろんスイが一番だが、どうせ消えてしまう世界でも、それまで過ごしたことに変わりはない。
そんな感情をそぎ落とす。目まぐるしく変わる自分の感情になど目もくれず、一番大切な翠を助けることだけを考える。
そのためにはなんだってしてやる。
いらない感情を捨てて、やることはただ一つ。スイを心の底から怒らせ、感情を手に入れる。
徹底的にやる、生半可なやり方で失敗でもすると、全てが無に帰す。
そうやって一つ一つ、邪魔なものを捨てていく作業は、日も沈み、スイが帰って来るだろう時間まで超え、アイがやってくるまで続いた。
「どうしたの?」
「え?」
アオを見て、アイは眉根を寄せたが、すぐにアオがいつもの調子の戻ったのを見て首を振る。
「教えてくれたよ。スイが話してくれた」
「そうなんだ、どうだった?」
アオが聞き返すと、アイはグッと身を寄せ、目を輝かせて言った。
「恋だって‼」
「あ……そうなんだ」
やっぱりな、という言葉は飲み込む。
「その人のこと、他の妹達にも聞いてみるんだけど、アオはなにか知ってる?」
そう言って、アイはスイから聞いたであろう話を語りだす。
その全ては、アオが知っていることでもあった。
「――そっか、アオも見ていたんだ……」
アオは正直に、あの日のことをアイに語る。
「でもまさか、スイがねえ」
アイは嬉しそうに言う。
「でもあの男がなんなのか分からないけど」
「そこはまあ、誰か知っている子がいるかもしれないし。明日他の子にも聞いてみる!」
「そっか、なにか分かったら教えてね」
「分かった、任せて」
嬉しそうに部屋を出ていくアイ。
これであの男の正体が分かればいいのだが、もしかすると分からないかもしれない。そこは分かると信じてアイに任せてしまおう。
そしてアオはあの男が見つかった時のことを考えるのだった。
結局、あの人の姿は無かった。
日が沈み、失意の中戻って来たスイ。誰にも会わないようにと気を付けていたのだが、スイを待っていた人がいた。
「お帰り」
「あ……」
アイに迎えられたスイは、このまま無視するのもどうかと思い動きを止める。アイに胸の内を打ち明けたのなら、少しはこの気持ちが楽になるのかもしれない。それに、もしかすると、あの人のことを知っているかもしれない。
このままでは、ずっと一人で毎日、あの浜辺で思い出に浸るだけ。そのままでいいはずがない。
「最近遠出しているみたいだけど、どうかした?」
「え」
まさかそこまで分かりやすかったのか。それでも今は丁度いい。アイに話してしまおう。
「なにか悩みがあるのなら、教えてくれない?」
アイも、アオから聞かなければ、スイがなにか悩んでいるということに気づかなかった。
アオに言われ、始めてスイがなにかに悩んでいるということに気づくことができた。
「うん、実は――」
そう言ってスイが語りだしたのは、始めて海の外を見た時のこと。とある若い男のことが忘れられないということだ。
緊張の面持ちで語り終えたスイの肩を、アイは興奮したように掴む。
「それって! 恋⁉」
輝く瞳で見つめられたスイは、アイの言った言葉を理解するのに時間がかかった。
時間が経つにつれ、アイの言葉を理解し、徐々に自分の抱く感情を自覚する。
段々と赤くなっていく顔、段々と熱くなってくる顔をスイは両手で挟みながら呟く。
「恋……?」
まさか自分がそういった感情を抱いていたとは。確かに、恋をしていると言われるとその通りだった。
「スイはその人のこと探しているのね!」
「……会いたい」
「他の子にも聞いてみるわ!」
そう言ったアイはすぐに、他の姉妹達の下へ行ってしまった。
もう日は沈み切っているのだから、聞きに行くのは明日でもいいのではないかと思うスイであったが、スイ自身、早くあの人のことを知りたいという気持ちもあり、止めることはしなかった。
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