『怒』の世界 童話

第16話

 海の沖、はるか遠くまで行くと、水の色はヤグルマソウの花弁のように青く、そして綺麗なガラスのように透き通っている。




 透き通っていても、そこはとても深く、どんなに長い錨綱を降ろしても、底まで届くことは無い程深い。




 海の底から、水の面まで届かせるには、教会の塔を、いくつもいくつも積み重ねなければならない。そういう深い海に、人魚たちは住んでいた。




 そんな海の底で、六人の人魚の姉妹がいた。




 海の底を治める王様の娘である六人の姉妹は全員が綺麗なのだが、一際綺麗だったのが、末っ子の人魚だ。真珠のように白くて綺麗な髪に、宝石のように綺麗な碧の瞳を持っていた。




 その人魚――スイは、今日も一人小さな花壇で花の世話をしていた。




「スイ、そろそろ行くよ」




 そんなスイに声をかけたのは、スイの一つ上の姉であるアオだ。




 アオはスイとは違い、何色にも染まらない烏羽色の髪に、燃えるような赤い瞳を持つ人魚だ。スイと歳が近いからか、姉妹の中で一番時間を共に過ごしている。




「うん」




 返事をしたスイがアオの元へやって来る。




 これから向かうのは、おばあさまのいる場所だ。おばあさまと言うのは、人魚姫たちの祖母にあたる。人魚姫達の母は何年も前に亡くなってしまい、今は父とおばあさまと城で暮らしている。




 そんな人魚姫達の楽しみの一つに、陸の世界の話をおばあさまから話してもらうというものがあった。




 この海の底の世界とは全く違う世界の話。




 おばあさまによると、人間達のいる街があり、海の上を走る船が。陸では花はいい香りを放っている、海の中とは違う動物たちがいっぱいいるなどという話を話してくれた。




 人魚姫達は目を輝かせて、いつか自分達も海の上の世界を見てみたいと盛り上がっていた。だけど、海の上に上がることができるのは十五歳からだ。一番上の人魚姫は来年上がることができる。そして、一番末のスイが上がることができるようになるまでは、まだまだ待たなければいけない。




「早く上に行ってみたいわ……」




 おばあさんの話が終わり、人魚姫達は想像を膨らませ、海の外に広がっている世界を楽しみにしている。




「私も早く行ってみたい」




 当然、アオも同じことを考えている。




 二人はおばあさんの話を思い出し、楽しく話しながら部屋へと戻るのである。


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