冬の贈りもの
冬野輝石
第1話 出会い
この街に何年ぶりかの雪が降り積もったある冬の日の出来事だった。
キッチンで冷蔵庫の中を物色するひとりの男の姿があった
風間祐樹 23歳、この部屋の主である。
祐樹は朝、目覚めてすぐ、空腹を満たそうと冷蔵庫の中に顔を突っ込んだが
そこには飲み物以外は何も入ってなかった。
祐樹は眠い目を擦りながら、めんどくせーと思いながらも外出することを決意。
寝間着のジャージ姿のままでは肌寒さを感じ、黒のコートを羽織って
近所のコンビニめがけていざ!
1人暮らしのアパートの部屋のドアを開けると、そこは一面真っ白な雪の世界だった。
(ほぇ~!雪が降ってたんだ、どうりでやけに寒いと思ったよ)
そんなことを心の中でつぶやきながら、真綿を敷き詰めたような綺麗で柔らかそうな新雪の上に履き古したスニーカーで、恐る恐る一歩を踏み出した。
少しズルッと滑るような感覚に怯えながらも、空腹を満たすという使命感が
祐樹の足を一歩また一歩とコンビニへと向かわせたのだった。
普段よりもスピードを落として走る自動車を横目に見ながら
コンビニへと続く国道の歩道を、ゆっくりと前進していると
真っ白な歩道の上に何かが横たわっているのが見えた。
祐樹はゆっくりと・・・でも少し速足になりながら
その何かに恐る恐る近づいていった。
(えっ?)祐樹は心の中で思わず、そうつぶやいた。
そこには髪の長い女性と思われる人が、うつ伏せで倒れていたのだった。
「あぁ、あのぅ、ちょっと、あの・・・大丈夫ですか?」
祐樹はそんな風に声を掛けながら、そのうつ伏せになっている人の肩のあたりを
ツンツンとつついたりしてみたが、ピクリともしなかったので
意を決して、その人の横に両膝をついて座り
その身体を自分の太ももの上で仰向けに抱き起した。
そして顔やベージュのダッフルコート、首に巻かれた赤いマフラーに
たっぷりと付いている雪をゆっくりと払ってあげた。
すると突然、「ぶはっ」という声とも息ともとれるような音を発して
その人は息を吹き返した?ようだった。
「あの、大丈夫ですか?」祐樹は少し驚きながら、そう声を掛けると
その人は自分の顔に付いている雪を払いながら、祐樹に目を合わせると
慌てて起き上がり、祐樹と同じように両膝を地面につけて座り
「え!?あわわ・・・あの、すいません!私、なんかご迷惑かけてしまったみたいで・・・」
彼女はとてもかわいい声でしきりに謝っていた。
「いや、別に迷惑なんて、君が道に倒れてたから・・・」
祐樹は事の経緯を彼女に説明した上で
「どこか具合が悪いんなら救急車呼ぼうか?」
そう彼女に勧めたのだが、彼女から返ってきた言葉は
「あ、いや、どこも痛くないし、なんか大丈夫みたいです・・・えへへ」
さっきまで雪の上にうつ伏せに倒れていたとは思えないような元気な声と
明るい笑顔に祐樹は少しホッとした。
真っ白だった顔色も少し赤みを帯びてきたようだ。
「そ、そうなんだ、なら良かった」
とりあえず祐樹は最寄りの病院や駅の場所などを彼女に伝えて
自分はコンビニに行く途中だからと言って、その場から去ろうとすると
彼女は、お礼にコンビニで何か奢らせてくださいと言って
ついてこようとしたので、そんなことされても困るからと断ったが
結局、彼女はコンビニまで祐樹についてやって来た。
彼女はコンビニの中でも、これがおいしそうとか、あれがカワイイとか
しきりに話しかけてくるので、ちょっとウザいなと思っていたのだが
祐樹はハタと気づいて彼女に話しかけた。
「君、もしかしてお腹空いてる?」
彼女は少し恥ずかしそうな表情を浮かべながら
「あ、ええ、まぁ少し・・・」、そう答えた。
祐樹は自分の食べ物のほかに、彼女がおいしそうとかカワイイとか言っていた
食べ物を手に取ってレジへと持っていった。
彼女は祐樹の後ろでコートのポケットをまさぐったりしながら
「あれっ、あれっ・・・」っとつぶやいていた。
祐樹は振り向いて彼女の様子を見ながら、「どうしたの?」と尋ねると
「あのぅ、なんか、お財布、忘れてきちゃったみたいです」
彼女が気恥ずかしそうにそう言うので
「あぁ大丈夫、僕が奢るよ!」祐樹はすかさずそう言って
コンビニの店員に自分の分と彼女の分を別々の袋に入れるようにお願いすると
彼女は、そんなのはダメですとか言いかけてたけど
祐樹は無視して会計を済ませた。
コンビニを出ると祐樹は彼女の分の食べ物が入ったレジ袋を彼女に手渡しながら
「それじゃ気を付けて、お大事にね」そう声をかけて
自分の部屋があるアパートへ向かって歩き始めた。
しばらく歩いていると、ザッザッっという雪を踏みしめるような
自分以外の足音が後ろから聞こえてくることに気が付いた祐樹は
もしや?と思って振り向くと、さっきの彼女がついてきていた。
「あ、あの、病院とか駅とか向こうだから」
祐樹はそう言って反対側の方向を指さすと
彼女はよろめきながらも小走りに近づいてきて
「あのぅ、よかったらいっしょにこれ食べませんか?」
そう言って、祐樹が手渡したレジ袋を顔の横まで持ち上げて微笑みかけてきた。
彼女の笑顔はとても可愛くて悪い気はしなかったが
さっきまで雪の上にうつ伏せで倒れていたのに
やたら明るくて元気そうな様子に妙な気味の悪さも感じていたので
「いや、でも・・・」祐樹の断りの言葉を遮るように彼女は
レジ袋からペットボトル入りのホットコーヒーを取り出し
自分の頬にあて「これ、あったか~い♪」そう言って満面の笑みを見せながら
「ね、お願い!こんなの1人で食べるのなんてさみしいよぉ」
矢継ぎ早の言葉で祐樹の心の中にグイグイと押し入ってきた。
「まぁ、いっか!」
たしかに彼女の言う通り、1人での食事はなんだかさみしいし
新たな出会いに心ときめくような思いも沸き上がってきていたので
祐樹は彼女を自分の部屋まで案内することにした。
アパートの部屋まで帰る途中、二人は雪に足をとられ
コケそうになったりするのを、お互いに助け合い
手を取り合ったり腕を組んだりして、気遣ったり笑い合ったりしているうちに
すっかり打ち解けて、部屋の前に着く頃には仲間意識のようなものも芽生えていた。
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