第11話 城壁ガタリ
==カーゼル村==
ドーマス・グリギンドは物に魂を与える事が出来る。
それを発動させると額に六角の文様が浮かび上がる。
何を意味しているのかドーマスには理解出来ないけど。
物と意思疎通を交わす事が出来る。
だから、城壁を作れと言われたとき、何をしたらいいか分からなかった訳ではない。
知識はあった。幼少期奴隷であった。
その時に、建物を建てさせられていた。
どこぞの城壁を建てさせられるために働かされた。
ドーマスはどのようにして建物が構築されていくのかを理解してしまった。
「さぁてと、みんな、やってくれ」
ただそう呟くだけで、そこに転がっていた岩達が生命を宿すように動き出す。
場所はカーゼル村の石切り場であった。
岩山があり、無数に岩が転がっている。
岩達はまるで今まで眠っていたかのように、人型の形をとりとめてテキパキと人形のように動き出す。
「ゴーレム、それが君達の存在理由だよ」
ドーマスは子供の頃に見た夢物語を知っている。
それは、鉱物で作られる。星座と呼ばれる力。
星座と言う力は鉱物を星座の陣を描く事で建造物を組み立てるという魔法のような力。
それは鉄王国と呼ばれている場所で栄えていたが滅んだはずだ。
それにちなんで、ドーマスは彼等にゴーレムと言う名前を与えた。
星座で建造された建物をゴーレム要塞と呼ばれていた。
「君達はゴーレムだ。その力を使って、城壁を建ててくれ」
ドーマスがやるべきこと、語りを聞かせる事。
物語を紡ぐ事であった。
ゴーレム達には魂がない状態。
そこに物語を与える事で魂を与える。
それがドーマスの力。
「君達は勇猛な勇者となり、多くのかよわい人々を救う、なぜかって、君達が勇者だからさ」
ドーマスは歌うように告げる。
次から次へと物語が口から紡ぎ出される。
少しずつ少しずつ、ゴーレム達の動きが人間のそれに近づいてくる。
能面のような岩の顔に人間のような表情が浮かび上がる。
「おいおい、たまげた」
ブラッドリーさんが大きな口を開けて、唖然としていた。
冒険者ギルドマスターの両隣にはデシカとラシカの双子の女性もいた。
彼女達はつぶらな瞳を輝かせながら、ゴーレム達を見ていた。
「すっごーい」
「幻想的な光景ね」
20人いる村人達もそれぞれがゴーレム達を応援しだした。1人1人とカーゼル村の童話の歌を歌いながら笑う。
「メロムとメロカがやってきた。彼等は宙へと旅立った。世界は終わったけど世界は構築される」
「メロムとメロカは銅像になった。2人は呪われた力によって封印された。今やコケに見舞われて誰も構いやしない」
「メロムとメロカはの水と鉱物。二つが合わさると、空に浮かび上がる事が出来る。はん、それがどうした。空に行ったって、どこに行ったって、どこにも答えなんてない、なぜかって、答えは皆の心にある異世界、1人の人間に1つの異世界、それが星となる」
「はんはんはん」
ゴーレム達に口が形成される。
1体が1人となり、ゴーレム達は歌い出す。
村人達はきょとんとしながら、笑い声をあげて、一緒に軽やかで楽しい歌を紡ぎ出す。
岩が津波のようにゴーレムとなっていく、城壁が瞬く間に形成されていく。
ゴーレムの数は200体を超えるようになっていく。
そうして、終わりのない行程が続いていく。
宙に青白い月が昇り始めると、太陽が完全に沈んでいく。
暗闇が辺りを支配して、虫の鳴き声が囁いてくる。
その時だった。
蒼い光がカーゼル村を覆いつくしたのだ。
地鳴りが響いた。
空が轟いた。
星々が輝いた。
月が暗くなった。
一瞬の静寂の果てに。
全てが蒼い光に包まれて。
光が停止した時。
カーゼル村の中心に柱が建った。
柱は塔となり、果てしなく空へと向かって行く。
「あれはなんだ?」
ジョド村長がやってくると、ドーマスの問いかけに微笑んだ。
「帰って来たんじゃよメロムとメロカがな」
「どういう」
次に起きたのはまたもや振動。
だが違うとしたら、何かが破裂する音。
何か胸騒ぎがする。
ドーマスは大地を蹴り上げて走り出した。
途中でロイとドリームとも合流を果たす。
「これはどういう」
「事情説明は後だ。中心地に行くぞ」
「その人は?」
「勇者セイリュウだ」
「ゆ、勇者だってええ」
ドリームが素っ頓狂な声を上げる。
2人の男女が池の真ん中で抱き合って倒れていた。
そこにはかつて、メロムとメロカの銅像が立っていた場所。
2人は目をぱちくりさせながら、今の時代の服ではない古い服を着用させ、エメラルドグリーンの髪の毛と瞳をしている。どこかロイと似ている雰囲気だた。
「どうやら、呪いがとけたようじゃのう、メロム、メロカ、久しいのう」
「あなたは」
「ルーム・クラフ様」
「今はジョド村長じゃて、さて、2人とも、飯でも食うか」
メロムは童顔のような少年臭さを感じさせる青年だった。
彼の腰には剣が1本鞘に収まっていた。
メロカは美形という感じで、大人な女性のイメージのする色気のある人だった。
彼女が朗らかに笑うと、引き込まれる不思議な感覚を持っていた。
「そうですね」
メロカが優しく微笑むと。
その日、色々と何かが変わりつつあるのだと感じた。
ドーマスはただ物語を紡ぐだけだと。
そう思ったのだ。
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