第2話 カーゼル村

==カーゼル村==

 小鳥の鳴き声が耳の中に響くようだ。

 涼しい風が頬を緩ませてくれる。

 夢を見ていた気がした。

 ドラゴンアームなんて代物を手に入れて、捨てたカーゼル村に戻るような夢だ。

 そこはお花畑で、よくジョド村長がお花の手入れをしていた気がした。

 

 ジョド村長はいつも怒りっぽくて、いつも親のいないロイのお世話ばかりをしてくれていた。


「これ、おきんかい」


「って、なんで、ジョド村長がいるんだよ」


「なぜって? ここがカーゼル村じゃからじゃよ、子供なんて作りおって、お前何様じゃ? てか、お前15歳だろ、10歳で子供つくったのかや?」


「いや無理だろ」


「まぁ、冗談はさておき、ドラゴンの子供なのじゃろうな、緑色の髪の毛と耳がとんがっている事、額に宝石が埋まっている事から察する事が可能じゃて」


 ジョド村長の頭はつるつるに剥げていたが。

 その禿げ具合が妙に輝いていたから不思議だった。

 ロイは右腕と左腕を見る。

 そこはしっかりと包帯で巻かれていた。


「あまりその両腕を見せるでない、良い見世物にされるし、ブシャルー帝国の者共見つかれば、捕まる恐れがある。ここは今やブシャルー帝国の領地じゃて」


「ああ、エルレイム王国は滅びたんだろうな」


「その通りじゃ、異世界からの来訪者、つまり大軍のモンスターを操る謎多き人物達にじゃな」


「7代将軍達は生きているのだろうか」


「さぁのう、彼等は戦いつくすだろうし、何より、ハルニレム王が死んだとは限らん」


「俺は爆発していくのを見ていたんだが」


「まぁ、希望を捨てるな、さてと、これからどうする? あの娘、後は仲間を探すと言っていたがそんなもんはこの村にはおらんぞ」


「まぁ、いないだろうけどさ」


「冒険者ギルドも今やモンスター討伐で忙しいものじゃて、さてと、わしは野菜たちのお世話をせねばならんでな、わしの事は忘れて、モンスター討伐でも頑張りたまえ」


「そうさせてもらおうか」


 ロイはゆっくりと立ち上がると、取り合えず、ジョド村長の家から出る事にした。

 とぼとぼと歩きながら、辺りの風景を眺める。

 かつていた村人達もちらほらとこちらを見て、不思議そうにしている。

 ロイには友達がいなかった。

 ロイには両親がいなかった。

 ロイには守るべき者がいなかった。

 なぜ、いないのか、友達は皆ここを出て行った。


 その友達を帰る所を守りたかった。


 かつて奴隷だったドーマスがいた。

 かつて本の虫だったドリームがいた。

 かつて道化のような少女メリルがいた。

 その3人が守るべき者だったのかもしれない。


 その時だった。悲鳴が上がった。

 無数のモンスターの大軍がカーゼル村にまでやってこようとしていた。

 カーゼル村は山と山の隙間に位置するとても安全な村だ。


 だがモンスター達はこちらの居場所を突き止めたようだ。


「ゆくぞ、ご主人よ」


「誰がご主人だ」


「このデルがご主人の為に生きてやろうと言っているのではないか」


「良いから、隠れてろ」


「へへんだ」


「それにお前、もしかして読み書きとか計算とか出来るか?」


「ああ、もちろんだとも」


「それなら、冒険者ギルドで手伝ってくれ」


「良いとも、お前さん、出来ないのか? だから兵士だったのか?」


「まぁ、読み書きと計算が出来ない、そんな病気なのかもしれないな、いくら勉強してもダメだった。文字や数字が光って見えるんだよ」


「ほほう、それは面白い事を聞いた。では隠れているから、モンスターを討伐したら、即座に冒険者ギルドにて登録しようではないか、ご主人よ」


「助かるよ」


 村人達が次から次へとこちら側に走ってくる。

 そんな状況なのにジョド村長は野菜達のお世話につきっきりだ。


 ロイは両足を地面に張り付ける。

 

「やるか」


 地面を蹴り上げる。

 ドラゴンアームが身に着いてから身体能力が格段に跳ね上がっている。

 風を追い越し、巨木に向かって跳躍する。

 巨木を駆けのぼり。遥か高見にまで走り抜ける。

 

 巨木の真上に到着したら、次の瞬間には飛び上がる。

 1体のモンスターの頭をドラゴンアームで吹き飛ばす。

 赤黒い脳味噌が飛び散るさなか。次の獲物をと繰り返して止めを刺していく。

 風に乗りながら。

 まるで空を飛んでいるように。

 次から次へとモンスターを討伐していく。

 全てのモンスターを討伐し終わると。

 地面に着地する。

 また着地スピードがありすぎて、地面にクレーターが出来上がる。

 辺りの木々が粉砕されて、ドミノ倒しのように倒れていく。


 村人達が歓声を上げた。

 1人1人と手を叩いている。


「ロイが帰ってきたぞおおおおおお」


 ジョド村長がそう叫ぶと。

 彼等は涙を流してロイの帰還を喜んでくれた。

 彼等は友達でも仲間でもない。

 それでも20人だけしかいない村人という、かつては一緒に過ごしてきた村人達だったのだから。


「良いものじゃのう」


「なぁ、デル、約束を覚えているか?」


「そんなものはばっちり覚えているさ」


「それなら冒険者ギルドに行こうか」


「ふむ、ミルクを飲ませてくれまずは」


「そうしようか」


 それから、ロイ達は冒険者ギルドに向かった。

 後ろには無数に転がるモンスターの死体。

 この世界ではない生き物。

 来訪者、彼等を見た事がある人間は限られている。

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