ドラゴン=八角=アーム~無限修羅~
AKISIRO
第1部 ロイ編
第1話 ドラゴンの両腕を手に入れる
==滅びたエルレイム王国==
辺りを支配する血、血、血。
大きな口を開けて、何かを叫びたがって動かぬ人形になり果てる、かつては生きていた肉体。
その数だけでも数万は超える。
朽ち果てた城壁。
破壊された城。
空を漂うモンスターの大軍。
地上を覆いつくすモンスターの大軍。
1人の男が立ち尽くす。
全身が血にまみれようと、いまだかつてない程の怪我を負っていようと。
その両手には既に剣は無かった。
だらりと垂れ下がった両腕は既に朽ち果てていたのだから。
男は辺りを血走った目で見る。
「もう、俺だけか」
仲間がいた。
エルレイム王国を守る為に立ち上がった仲間達だ。
国があった。その国にはハルニレム王がいた。
ハルニレム王は戦場の只中に爆弾魔法に巻き込まれて消えた。
7代将軍がいた。
彼等はどこからともなく現れて、一騎当千の戦いの果てに消えて行った。
残されたのはタダの兵士である男のみ。
彼は今、戦い戦い戦い、モンスターの大軍を叩きのめしていた。
彼の両腕は既に朽ち果てていた。
だから両足で暴れていた。蹴って蹴り上げて蹴り落す。
体が朽ち果てるまで戦い続ける。
太陽等もう既に登っていない。
このエルレイム王国を滅ぼすのはモンスターの大軍。
正確には別世界からやって来た来訪者の配下のモンスターだが。
男には守るべきもの達がいた。
だがすでに彼等はいない。
あるのは遠く離れた故郷の村に住む仲間達。
彼等とは二度と合わないと誓った。
エルレイム王国を守るために戦うと決意したのだから。
その時だ。
遥か空から緑色の流星の如く何かが落下してきた。
モンスターを巻き込みながら、地面を抉り、岩や土埃をまき散らしながら、目の前で止まった。
「ドラゴン」
この世界で唯一生き残っていたドラゴンと呼ばれる生き物。
たった1体と言われていたのだが、本当の所は知らない。
緑色のドラゴンはこちらをぎょろりと見ると。
【人間よ】
「なんだ。ドラゴン」
【そなたに力を与えよう、我が命と我が娘を守ると誓うのなら】
「そんな事で良いのか」
【ああ、娘を頼むぞ】
ドラゴンの緑色の体が少しずつ蒸発していく。
肉体そのものが骨となり消えていく。
モンスター達が歪で気持ちの悪い叫び声を上げながらこちらに走り寄ってくる。
まるで新しいおもちゃを見つけたかのように。
その時だ。
ちくりと両腕が光った。
炎のように燃え上がる右腕と左腕。
緑色の炎はまるで魂の灯のようだった。
風が止まった。
全ての時が止まった。
モンスターの時も止まっている。
「君が母上が選んだ親分だね」
「親分? 違うな、俺はロイだ。苗字の無い、ただの捨て子のロイだ」
「なら、ロイ、君は母上が力を授けるだろうね、そして、私を守り通し私が新しいドラゴンとなるまで守る事を誓うかい」
「そんなので良いのならな」
「なら、母上の力を授けるよ、ドラゴンアームさ」
「ドラゴンアーム?」
「ドラゴンの両腕って事さ、さぁ、受け取るんだよ、ただし、物凄く痛いよ」
時間が動き出した。
心臓に血液が回ってくる。
頭の上から火花でも突っ込んだかのような激痛が走る。
両腕が千切れてしまうのではないかと言う痛み。
風が湧き起こる。
右腕と左腕には既にドラゴンの鱗のようなものがぎっしりと生えそろっている。
バチンとバチンと音が響くと。
後ろには1人の幼女が立っていた。
年齢的には8歳くらいだろうか。衣服はぼろぼろであったが、彼女はこちらの瞳の奥底を覗き見るようにして、微笑みかけてきた。
「デルだよ、よろしくね」
「ああ、ロイだ、ただのロイだ」
力の使い方。
頭の中に流れてくる。
右腕を振り仰ぎ、次の瞬間、動き出した。
体が風を追い越す。
モンスターの頭が吹き飛ぶ。地面に着地すると、真上に飛翔した。
背中から翼が生えている訳ではない。空にいるモンスターの頭の上に着地すると。
頭を握りつぶす。
血しぶきが上がる中。全身を真っ赤に染め。
次なる獲物を探すために、モンスターを狩っては狩って、狩りつくした。
地面に着地すると大きなクレーターが出来上がる。
辺りのモンスターは一瞬に蒸発する。
心臓がまためきりめきりと音を出す。
異常と言って良いほどの激痛が響く。
心なのかもしれない。
意識が遠のく中で、背中に何かが乗った。
先程のデルという幼女、いやドラゴンの娘。
「さぁ、旅に出るよ、ロイ」
「何を探すんだ」
「君の仲間を探すのさ」
「俺の仲間は皆死んだ」
「死なない仲間を探すのさ。それも100人は超えるからね」
「はは、それは無理だな」
「君なら出来る。この世界が滅びる前にね」
「ああ、やりたいが、体が限界のようだ」
「なら、まずは故郷に戻ろうか」
「故郷は無理だ、捨てた」
「そこに強い人達が集まってくるよって母上が言っていた。それにね、君の血筋は、あら、意識が途絶えちゃったね」
ロイの脳みその中がスパークしながら、意識が途絶えた。
その時ロイ自身の体が消滅した事を悟り、どこか懐かしいお花畑の庭に落下した気がしたが。
まどろみの中、まるでぬるま湯につかりながら、母親のお腹の中で眠っているような温かさだった。
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