第54話 制圧任務③

 模擬訓練が行われた最初の日。

「おう。配属早々大変だったな。少尉殿」

 そうわたしに声を掛けてきたのは、シグルド・ユキヒラ大尉。メテオ・ビーストのチーフメカニックだ。

 年配の、いかにも職人気質って感じの男の人。もっとも、この時はまだ初対面で名前も知らなかったし、チーフメカニックだってことも知らなかったけど。

「初めまして。上坂瑞穂少尉です」

 わたしはシグルド大尉に、敬礼してそう言った。

 すると。

「そういう堅っ苦しいのは無しだ。お前さんが一番乗りか?アイリス辺りが、先越されたとかうるさいこと言いそうだな」

 シグルド大尉は、わたしにそう言ってきた。



 そしてその後、わたしはシグルド大尉から名前とここのチーフメカニックだと言うのを聞いた。

 また、この人の父方の先祖は日本人だそうだ。確かに日本人のような顔立ちをしている。それを聞いたわたしはそう思った。名字も、日本人のそれだし。



 後から聞いた話だと、シグルド大尉はチーフメカニックではあるけど、基地内に常時いるという話だ。部隊が出撃する際に、一緒に出るということは滅多にないそうだ。

 出撃の際に出る、巡洋艦クラスのあの陸上戦艦には、別のメカニックが乗り込んで、整備を取り仕切るらしい。何でも、シグルド大尉の一番弟子だとか次期チーフメカニックだとか言ってるそうだ。

 だけどシグルド大尉は、「あいつが、俺の一番弟子を名乗るなんざ百年早い。お情けで、(仮)ってことにしてやってる」と言っていた。また、「あいつが俺の後を継ぐなんざ、百年どころか千年早い。イヤ、もっとだ」とも言っていた。

 因みに、まだその人とは顔合わせしてない。基地では、シグルド大尉がHWMの整備を仕切ることもあって、その人はボーンワーカーの整備や陸上戦艦の整備を行ってるらしい。



「あの。いくつか聞いてもいいですか?」

「何だ?」

「アイリスとの模擬戦の時、わたしのライオット、何だかきちんと整備されてましたよね?あんなのが起こるってこと、予想してたんですか?」

 わたしは、模擬訓練の最初の日、シグルド大尉にそう聞いた。皆よりも先に来た理由はそれだ。これ以外にも聞きたいことはあるけど、最初に聞いたのがそれだった。

 すると。

「ああ。あの連中のことだから、どうせそうなるだろうと思ってな。けどなぁ、あんなに早く模擬戦おっ始めるとは思わなかった。しかも大佐の許可無しでやらかすとはな。あんなのは初めてだ」

 シグルド大尉は、そう答えてきた。そして。

「まぁ、お前さんが日本人で、しかもエースって呼ばれてんのが気に食わなかったんだろうな。アイリスのヤツ」

 わたしにそう言ってきた。

「アイリスって、日本人嫌いなんですか?」

「そういうわけじゃねぇよ。そうだったら、俺なんざ、とっくに嫌われて、機体に触らせようとしねぇだろ。まぁ、こっちはそんなの知ったこっちゃねぇけどな」

 わたしの問いに、シグルド大尉はそう答えると。

「まぁ、日本が、国とは名ばかりの観光地とか言われてるっていっても、戦争とは無縁ってことに変わりはねぇしな。そんなことでぬくぬくと平和に暮らして、のほほんと生きてるってようなヤツがエースなんて呼ばれてんのが気に食わなかったんだろ。お前さんにとっては、勝手にそんな風に思われて、災難だったろうけどな」

『…何か色々苦労してきたってことかな。アイリス…』

 シグルド大尉が言ってきたことを聞いて、わたしはそう思った。

「…いえ、大丈夫です…」

 …のほほんと生きてる、か…。

『確かにそうかもね。ううん、その通りだ』

 軍人になって、何度も戦場を経験してると、その通りだと、わたしは思う。



 …だからだろうな…。…だからわたしは…。



「謝らなくていいって言いましたし。アイリスに。その代わり、わたしも謝らないって言いました。本人も、それでいいって言ってました」

「…まぁお前さんも、色々あるってことか…。別に聞かんがな。お互い、それでいいっていうなら、それでいいだろ。とりあえずはだがな」

 わたしの言葉に、シグルド大尉はそう言ってきた。

 そして。

「ああ、それとアイリスのライオットが使ってた武器ですけど。アレっていいんですか?協定違反じゃないんですか?あれ?」

 わたしは、シグルド大尉にそう聞いた。

 そう。アイリスのライオットが使ってた、あのロングライフル。

 アレは、ウチの軍のヤツじゃなくて、敵の軍が使ってたヤツだ。

『あんなの協定違反になるのに。何であんなの使ってるんだろ?というより、何で使えるんだろ?』








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