【パプリカ 書いてみました】Always Know I Will Miss You So

Choco_Roll#17

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                                   Dear,




   風よ、木の葉を顫(ふる)わせて、貴方のもとへ届きませ




 そうした晴れた夏の日の午後、私とルーカスは丘を登る曲がりくねった坂道をはしゃぎながら歩いた。麓の森で遊び回った後でも疲れなんて知らず、夕陽に伸びる影を踏み、こんな風にどこかで覚えた歌を口ずさみながら。《だあれが風を見たでしょう/僕もあなたも見やしない……》そうして頂上に着くと、そこに立つ一本の木立の根方に、バケツ一杯汲んできた水をかけた。水は硬い木の根に当たって砕け、飛び散った水飛沫が夕陽に透き通る。水やりを終えると、私たちは木に寄りかかって、濃い葉叢の隙間に覗いている黄みがかった青空が、木の葉の揺れるにつれて伸びたり縮んだりするのを見上げるのだった。

 八年前の八月三日の夕方、丘の麓の小道をややわきに逸れた森の中、十四歳のルーカスの小さな軽い縊死体は風に吹かれて揺れていた。その二日前からルーカスは、本格的な退院に向けてのリハビリとして三日間だけ帰宅することを院長から許されて、精神病院から家に帰ってきていた。私はその頃、このことについて何かが語られるべきだとは思うものの、何がどう語られるべきなのか、よくわからないでいた。ただ一つ、確かな印象とともに記憶に刻まれていたことは、母親が、麓の隣家から電話で事件の第一報を受け取ったとき、そのまま受話器をそっと置くと、何も言わず、ただそばに控えていた私を、TCの私を、ひしと抱きしめ、背中に手を這わせ、頬に涙をつたわせながら、長い時間離さなかったというそのことだった。

 そういったことのすべてが鮮明に思い出される。

 私はいまルーナの部屋でこれを書いている。ルーナの寝息を隣に聴きながら、彼女の眠りを妨げないようにテーブルランプは暗くして。

 ルーナと私は同居して暮らしている。彼女とは中央通りのミックスバーで出会った。彼女はレズビアンだが、私を受けいれてくれているし、たとえそれが、私たちが幼い頃に思い描いた暮らしではないにしても、私は彼女を、ルーカスへのそれとは別の形の愛で、愛している。ただ、ここではルーナのために割く言葉は必要最小限にとどめたい。ちょうどルーナが意思疎通を図るときに彼女が考える必要最小限の言葉のみを用いるように。

 さて、どこから始めればいいのだろう? たとえば、幸せで健康な少年時代から? それはまるで絵画の中のような世界だった。私はルーカスが九歳のときにこの丘の上の家に来て、まずこの土地の、調整水の中から眺める地下の培養室とは比べ物にならないほどの、光のおびただしさに驚いた。ここには輝かしい陽光や、それを享けてつややかな緑の芝草が満ち満ちていて、丘の上にはいつも光をはらんだ穏やかな風が吹いていた。そして母親は、解剖学上は男性である私を女の子のように育てた。フリルドレスを着せ、ハイヒールを履かせ、ある年齢になると化粧を覚えさせ、リップをプレゼントしてくれたりした。そうして時どきシンデレラの仮装をしたみたいになった私を、ひとりソファに座らせると、向かいに持ってきた椅子に座って、写真を撮ったり、何十分でも飽かず私を眺めたりしていることがあった。たぶん女の子が欲しかったのだろう。母親は離婚していて、新しい子どもを授かる見込みはなかったから、私を女の子にしたのだと思う。とはいえ、フリルドレスも真っ赤なリップも、私にそう似合わないというわけでもなかったし、私も女装した自分の姿がそんなに嫌でもなかった。

 だが、こんな話ではない。

 九年前のことを話したい。

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