一人と独りの静電気

枕元

第1話 プロローグ

 期待をしないでほしい。


 きっとできるよ!!


 まだ頑張れるはずだ!!


 勇気を出してみよう!!


 本気でやってみようよ!!



 きっとできる?


 できなかったからこうしてる。


 まだ頑張れる?


 なんで頑張ってないことにされなきゃいけない。ただ生きるのにも精一杯だ。


 勇気を出してみよう? 


 勇気を出した結果がこれだ。


 本気でやってみよう?


 別に手なんて抜いてない。真剣で、全力で、本気だった。


 だからもう、期待をしないでほしい。


 なぜ誰も彼も、いつまでも俺がいじけている風に、いつまでも挫けたままのように捉えるのだろうか。


 みんなで一緒がいいでしょ?そんなことはない。


 独りは寂しいけど、一人は別に寂しくない。


 一人って寂しくない?そんなことない。


 一人は楽だ。誰にも迷惑をかけないし、かけられないし。


 独りと何が違うの?全然違う。


 独りって、一人じゃなれない。輪を外されて、他人に追い出されて、それで独りになるんだ。


 それが嫌だから、一人になった。


 「それは逃げてるだけじゃないの?」


 誰もが口を揃えてそう言ってきた。


 でも、逃げることの何がいけないことなのか、俺にはわからない。



 独りになるのが辛かったから、一人を選んだ。


 独りが辛いから、一人になったんだ。


 その辛さを与えたのは誰だ?


 別に今さら、誰かのせいだとか、声を上げたいわけじゃない。


 住所、月3万の格安アパート。アルバイト週4。

 休みらしい休みもなく、勉強と勤労の板挟み。


 親子仲は最悪。一人暮らしを始めてからほとんど会ってない。2歳離れた妹も同じく。


 本題。


 それで誰かが困るのか?困らないだろ。


 きっとそれは話題にも上がらず、問題として取り上げられることもないことで。


 だって、そうならないために一人なんだから。


 生活には満足してる。贅沢はできないけど、携帯料金を払えるぐらいにはバイトで稼げてるし、貯金だってそこそこある。そりゃ、学生の域を出ないけれど。


 1年間ただただ働いてきたから。遊んだ思い出なんて無い。


 文句は言わせない。自分で選んだ道だ。


 ゆえに妥協なんて言葉で表さないで欲しい。


 一人には一人なりの、矜持というものがあるのだから。




ーーーー


 「礼」


 日直の号令を持ってして、今日一日の授業が終わった。

 自由になった生徒たちは、各々のコミュニティで会話を弾ませる。


 「終わったー!今日この後遊び行かね?」

 「いいねーカラオケとかどうよ」

 「お!それいいね!決まりだなー」


 まさに高校生の放課後といったところだろう。


 遊びに行く。部活に勤しむ。自習室で勉強をする。


 それぞれの活動に、口を挟む人間なんていない。


 (今日はバイトないし、さっさと帰ろう)


 かく言う俺、喜多見修也の行動にだって、口を挟む者はいなかった。


 俺がどう言う人間か、一言で表すならいわゆる「ぼっち」だ。


 いつも1人でいるし、友達と言えるような相手はいない。


 とはいえその現状を打破したいとも思っていない。




 誰に声をかけられることもなく、家に着いた。


 俺の家は学校から自転車で20分ほどのところ。


 家賃三万。それでトイレ風呂別。広さも一人暮らしをするには十分。


 都内では他にないほどの好条件。


 ネタバラシをすればいわゆる「いわくつき」。事故物件である。


 前の住人が、この部屋で孤独死をしてしまった。それゆえの価格なのだ。


 俺はそういうのあんまり気にしない性格だから、お得ぐらいにしか思ってない。この条件で家賃三万は、正直破格すぎるだろう。本当は他にも死んでたりしないだろうな?


 人の人生について語れるほど、人生経験も深くないし。孤独死と言われても、他人の人生にそんな思い入れなんてあるわけない。


 その日は簡単な野菜炒めを作って、それを食べて寝た。テストが近いわけではないし、いつもはバイトで忙しいし、たまにはこんな日もあっていいだろう。


 薄っぺらい布団に入り、俺はすぐに夢の中へと旅立っていった。



ーーーー


 「おい。隣のクラスに転校生来てるってよ」


 翌日、クラスを賑わせていたのはこんな情報だった。教室はこの話で持ちきりだった。


 (転校生ね)


 ぶっちゃけ興味なかった。関わることないし。ましてや隣のクラスだし。


 「めちゃくちゃ可愛いらしいぞ!後で見にいこうぜ!」


 なんて会話が飛び交う教室で、やはり俺は一人でホームルームの始まりを待った。


 なんて思いつつも俺は、ホームルームが終わってトイレに行く際、ついついその噂のクラスを覗いてしまった。


 覗くといってもほんのチラッとだけど。好奇心というよりは、そう言えば、程度のあれだ。


 でも、そこで俺は信じられないものを見てしまう。


 教室、後方席。小さな人だかりを作っている存在。


 その転校生は綺麗な黒髪をたなびかせ、小さな笑みを浮かべていた。可愛いよりは、綺麗系という印象。

 

 新たなクラスメイトと談笑していたのは、知っている人物だった。


 「園田……恵美?」


 それはかつて、俺を裏切った少女だった。

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