第8話 初恋の人

チーク トウ チークの曲が終わった。

あの人は咳込んで息も苦しそうだった。

「休みましょう、あちらの椅子で、、。」

私はあの人の体を支えながら椅子に座らせる。


「すいませんね。全くお恥ずかしい。僕の話を聞いてくれますか?カルメンさん?」


「あっはい!」


「僕はね、癌なんです。見つかった時には

手術は出来ない状態だったんです。

その時にね、どうせ死ぬなら生まれた所へ帰りたいと思うようになったんです。

皆んなにね、会いたい、いや、会っておきたいと思ったんです。

妻には申し訳なかったと思います。」


「そうだったんですね。

私も連れ合いを三年前に同じ病気で亡くしました。お気持ち、お察しします。」


「そうでしたか、、。

ここには、僕の初恋の人がいると聞いてましたから、実はどうしてもその人に会いたかったんです。

彼女とは小学生から高校まで同じでした。

高校の文化祭でね、ゾンビ屋敷ってのを

やってたんですよ。

彼女は真っ赤なワンピースをわざわざボロボロにして汚してね。顔もゾンビのようなメイクをしてたんですよ。

それでね、屋敷の中で待っててね。

急に飛び出てきて、追いかけてくるんですよ。

そりぁ、鬼気迫る姿でした。

僕はね、あまりの愉快な彼女に一目惚れしたんです。」


えええー。それ、私じゃない?

そう、ゾンビ屋敷。みんな、やだって言うから

カルメンのゾンビやったのよー。

あれ、怖すぎるって泣いちゃう女子もいたのよね。

あれ?あんなのに一目惚れ?

照れる〜?


「へぇーー。かなり、変わった一目惚れの初恋ですわね。おほほほーっ!」


「ええ、今晩、貴方を見た時にね、僕は彼女を思ったんです。

だから、家族には先に帰ってもらって、貴方に

近づいたんです。

すいません。」


「いえ、そーんな、私の方こそ、年甲斐もなくこんな真っ赤なドレスでお恥ずかしいですわ。」


「いや、お似合いですよ。

楽しかったなぁ。初恋の人と踊っているような

気持ちになりました。

ありがとうございます。」


そんな話をしていたら、あの人の奥さんが

迎えに来た。


「では、おやすみなさい。」


「おやすみなさい。」


そう言って別れたわ。


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