第5話 実はホモじゃないんです
俺は戦々恐々としながら1日を過ごしたが、食卓におかずとしてエロ本が並ぶことはついぞなかった。
救われたって気持ちと、菜奈はどうしているのかと気になる気持ち。その二つが混在して、どうにも落ち着かない。
俺はこれからどうなるんだろうか。突如として食卓にエロ本が並んだら、死ねる自信があるんだけど。
「そういう訳で和也、菜奈の様子を見てきてくれないかな?」
「どういうわけだよ」
休み時間の教室で、俺は後ろの席の和也に話しかけていた。なんか知らないけど、和也と一緒のクラスになったら年に一度は後ろの席が和也になることがある。運命の赤い糸があるんだとしても、相手が和也だとあんまり嬉しくはなかった。
「危うくエロだとバレそうだったから、俺はホモだって嘘ついて逃げたんだけどさ」
「ほんほん」
「それからね、本当なら報復を食らって食卓エロ本朗読プレイをしなきゃならなかったのに、何事も起こらずにいる。今日も俺は元気なんだ」
「良いことじゃねえか」
「でも、なんか怖いよね。突如として奈菜が俺を放送室に拉致して、保健体育の教科書を読み上げさせられたら、俺の学校生活が終わるからさ」
「最早そういうプレイだろ、それは」
"やーいスケベ"とでも言いたげな和也。
スケベではないが? 強制してくる菜奈がエッチなだけなんだが?
「それで、イカれたイチャつきがしたいから、鳴海をせっついてこいと」
「俺がやらかしたのに菜奈が大人しい時、それって大体何かが起こる予兆なんだ」
そう、菜奈が報復に来ないのは、突如としてハジける前兆でもある。
例えば、あれは……菜奈が厨二病真っ只中の14歳の時のことだった。
『リトルシスター、昨夜の契約を破った罰よ。
今からスカートを穿きなさい……辱めてあげる』
『昨日お家に行けなくてごめんね!
でも恥ずかしいよ!!』
『関係ないわ──脱ぎなさい』
『お婿さんに行けなくなるんだけど!!』
『あら、妹だって言ってるでしょう。
物覚えの悪い子ね』
『酷いや!』
中学生の時、菜奈と交わしていた毎日家に行くという菜奈との約束を破ってしまったことがあった。ごめんってメールで謝罪しても返事がなくて、不安に思ってた次の日のこと。
俺は突如として女装をさせられ、着せ替え人形にされながら撮影会を開かれてしまっていた。頭がおかしくなりそうだった。
男の女装撮影会って意味が分からなさすぎる。さらに言うと、その時のアルバムが何故か鳴海家で大切に保管されてるのも意味がわからなさが倍でお届けされる。
おじさん、おばさん、俺の成長アルバムを作ってくれてるのは大変に嬉しいんだけど、そこに女装の写真を挟むのは何かの間違いじゃありませんか?
娘が出来たみたいで嬉しいじゃないんですよ。既に娘はいるんだから、娘に仕立て上げられている息子のことを哀れんで欲しかったんですよ。
「そういう訳で、また俺の尊厳が破壊される危機なんだ」
「どういう訳で、お前らは今の関係に戻れたんだよ、リトルシスター」
「和也の妹は無茶苦茶嫌なんだけど」
「何でだよ」
「和也が友達の彼氏を寝取りそうな男なら、俺は友達の彼女を寝とりそうな女の子になっちゃうってことでしょ?」
「しばくぞ」
「ごめんごめん」
オラってデコピンを食らって、ぐえーと机に倒れ込む。そこまで痛くないけど、無駄に痛がってるふりをする。
「痛い痛い、アイスクリーム頭痛並みに痛い。謝罪と賠償を請求するよ!」
「大した方ねえだろ、それ」
「最速135kmで投げる野球部員のデコピン、あまりに痛すぎるよ。許されざるストレートだよ」
「137kmだ、二度と間違えるな」
またデコピンを食らって、俺は机に沈む。2kmの差ってそんなに大きいのかな? ……俺と菜奈の身長差を考えたら、やっぱり大きいやつだった。
「ごめん、間違えない様に気をつけるね」
「ったくよぉ」
和也は、面倒くさそうに席を立ち上がった。
なんだかんだで優しいから、ちょこっと菜奈の様子を見に行ってくれるみたい。
ありがとう、流石は彼氏を寝取りそうな男No. 1だね!
きっとプロ野球の球団からも、5億年20円での契約でドラフトにかかるはずだよ!
そうして和也の背中を見送って、5分後に帰ってきた和也は何故か鬼の様な顔で俺を睨みつけてきていた。どしたの?
「鳴海のやつ、俺を一目見るなり"去勢ね"って呟いたんだか、お前は何を吹き込みやがった!!」
「菜奈が和也を……?
女の子にして、和也を妹にしようとしてる、とか?」
「んなわけあるか!
お前が妹なんだろうが、今すぐ女装させてやろうかっ!」
「妹なわけないが!?」
とんでもない言い掛かりだ。
和也は女装男子が性癖で、だから彼氏を寝取りそうな男の異名を欲しいままにしているのか。
男の娘好きになってから、性癖をやり直してほしい。
俺はもう、女装させられるなんてこりごりだし。
「あと、"コタが可愛いからって衆道に落としたのね、その股間の一物でっ。"って、クソのような因縁をつけられたんだが、何か覚えはないか?」
「俺がホモになる要因は、和也くらいしかないって確信してるんだと思うよ」
「マジかよ……」
「多分関係ないけど、中学の時から、俺がTSしちゃった時は和也にお世話になるって言ってたせいかもしれない」
「間違いなくそれのせいだよカスがよぉっ!」
和也にアームロックをされて、俺は必死にギブアップのサインを出す。
待って、本当に痛いよ!?
「痛い痛い、菜奈にさせられたヨガの変なポーズより痛い!」
「あ? なんのポーズだよ」
「い、イナバウアー!」
「ヨガじゃねえんだよそれ、オラァ!」
俺は和也に完全に屈服させられて、机の上に突っ伏した。
これが暴力の味……腕が痛いよ。
「で、結局何も分からなかった訳だが、どうするんだ?」
「ううん、十分わかったよ。ありがとう」
「は? 以心伝心かよ」
「そうだったら、俺は滅びるよ」
エッチな目で見てるのがバレてたら、俺はとんだ恥晒しもいいところだし。
その時は仏門に入って煩悩を断ち切り、来世でもう一人の俺と別れる準備をしなくちゃ。
「それで、何が分かったって?」
「菜奈はやっぱり根に持ってるし、全然許してくれてないってこと」
じゃなきゃ、和也をTSさせたりしようとしないはずだし。
「お前がホモなことを許してないってか?」
「和也が俺をホモにしたことを、絶対に許さないって思ってるのかもしれない」
「マジで責任取れお前」
「責任……ごめん、和也相手でもお付き合いはできないし、養子入りして名字を一緒にもできない」
「ちげーよアホ、はよ誤解を解いてこいって言ってんの」
「ほとぼりが冷めたらだねー」
カスがよぉ、とボヤきながら和也は諦めてくれたみたいだった。
ありがとう和也、フォーエバー和也だよ。
そして、その日の放課後。
帰宅途中に菜奈に捕獲された俺は、そのまま鳴海家まで連行されることになっていた。
多分、誘拐の仕事とかしたら、菜奈は日本一になれるんじゃないかな。
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