第3話 下駄箱に手紙がっ
あれから、菜奈とは別々に登校して別々に帰宅する日々が始まった。
少し寂しいけど、一緒に居たらいつ菜奈の身体をエッチな目で見ているのがバレるのか、分かったものじゃなかったから。
少し寂しいのは仕方ないとして、そのままちょっと距離を置いて過ごし始めて。
──そんな日が一週間も続いたとある日、俺の下駄箱にハートのシールが貼られた手紙が投函されていた。
慌てて、その手紙をカバンの中に隠す。誰かに手紙を見られたら、実はその手紙俺のなんだよねって言われかねないから。
なので、俺は教室に行く前にトイレへと駆け込んだ。
「よっ、小太郎はよーすっ」
「和也、おはよう!」
「慌ててどうした?」
「ウンコ!」
「そうか」
小さい方をしてた和也を尻目に、俺は個室に入ってカバンのチャックを開ける。
「ん? 何の音だ?」
「ズボンのチャックを下ろした音!」
「そうか」
和也が手を洗う水の音が聞こえる中、俺はハートのシールを剥がして、手紙の中身を取り出した。手紙の本体には、風道小太郎様へと書いてある。でも、送り主の名前は書いてなかった。
……丸っこい字だし、多分男子じゃない筈だよね!
それで、手紙の中身はと言うと……。
『本日放課後16時に屋上にて待つ。
来なければ、君のお母様に君の部屋にある3つ目のタンスを探るように進言しよう』
「俺のエロ本隠してる場所じゃん!?」
背筋に戦慄が走る、震えが止まらない。
何で知ってるんだ、そんなことを!
「どうかしたか?」
「ラブレター貰ったかと思ったら、果たし状だった!!」
「そうか」
「そうかじゃないが!」
「ウンコは?」
「嘘だよ!」
トイレの個室から勢いよく飛び出して、半ベソをかきながら和也に駆け寄っていた。
「どうしよう、このままじゃ俺のエロ本が母さんに発掘されて、食卓で音読会が始まってしまうよ! 走れメロスを学校で読むように、疾れエロスを読まされることになっちゃうんだけど!!」
「お前んとこの家、どういう教育方針なんだよ。イカれてんのか?」
「母さんと父さんをバカにするな!」
「お前の情緒もどうなってんだよ。
するだろ、流石に」
「しないで!!」
ガクガクと和也を揺さぶりながら、この世の無情さについて思いを馳せる。
何で俺なんかに果たし状が届いたんだよ!
しっかり俺の名前書いてあるし、女の子だと思ってたのに男子だったなんて!
俺の純情、弄ばれ過ぎてる!!
なんでシールをハートにしてたんだよ!!!
「どうしよう和也!?
このままだと、俺が屋上に行ってボコボコにされるか、俺が食卓上で尊厳を破壊されるかの二択しかないよ!
人生がクソゲーと化したよ!!」
「そうか」
「そうかじゃないが!!」
「また一つ、大人になれたんだな」
「そんな大人にはなりたくないんだけど!!」
ダルそうな和也を睨み付けると、朝から騒ぎ過ぎたらしばくぞって視線が帰ってきた。蛮族かな?
喧嘩で和也に勝てるわけないので、揉み手をしながら肩を揉む方向へと切り替える。喧嘩なんてしたことないし、痛いのは嫌だから仕方ないよね。
「へへ、凝ってますね和也様」
「三下すぎるだろ、どれだけ下手に出るつもりだよ」
背伸びをしながら肩を揉み、そのまま俺たちはトイレを出て。
「へへへ、小生は和也様の奴隷ですの、で?」
外には、偶々通り掛かったであろう菜奈が、そんな俺たちを見つけてしまって……。
「……何、してたの」
「と、トイレ!」
「奴隷ってなに?」
「か、和也に媚を売って、ご奉仕してただけだよ!」
ジロリと、明確に菜奈は和也へジトっとした視線を向けてた。
「……高藤くん、気持ちいいかしら?」
「間が悪すぎて、気持ち悪くなってきたが」
「そう、生理はちゃんと来ているのね。
でも、それで許されると思ってる?」
「男に生理があってたまるか!!」
和也が、俺を引っ掴んで、菜奈の方へと差し出した。
……え、人身売買?
「鳴海係だろ、小太郎。ちゃんと面倒見てろ!」
「違うわ、私が小太郎係よ」
「老々介護よろしく、二人で乳繰り合ってろ!」
「菜奈のお胸を揉んだら嫌われるから、そんなことできるはずないだろ!!」
「ちげーよ、辞書で調べろ乳繰り合うを!」
菜奈が俺の手を掴んで、引き渡しが完了する。
今日も和也は、菜々に俺を売り飛ばして逃走していった。
相変わらず、友達甲斐が無さ過ぎないかな?
って、待って!
菜奈の手、柔らかくて温かいんだけど!!
握ってると熱くて、ドキドキし過ぎるんだけど!!!
「コタ、暴れちゃダメよ」
慌てて、これ以上エッチな気持ちを高めないために菜奈を振り切ろうとしたけど、上手にいなされちゃって、そのまままで菜奈に背中側から抱きしめられてしまう。
柔らかい、凄い女の子!
俺、おかしくなるよ!!
このままじゃ、エロな気持ちが高まり過ぎて、俺の方が想像妊娠するよ!!!
「ふふっ、昔は胸元までしかなかったのに、すっかり大きくなってる。
でも、まだ私の方が背が高いわ」
「恥ずかしいって、誰かに見られたらどうするんだよ!」
「……仕方ないわね、耳が赤いし許してあげる」
パッと離されて、俺は慌ててチンポジを確認した。
……勃ってなかった、セーフ!!
「コタ、そういうのは、ちゃんとトイレでした時に確かめてから出てくるのがマナーよ」
「ごめんね!」
幸い、菜奈は綺麗な心を忘れてない女の子だから、俺が菜奈を思って身長が伸びた(もう一人の俺のことだ)とは気が付いていない。
男子に生理があると思ってる性知識だったから、何とか命拾いしたよ!
「それじゃあ、俺も教室に行くから」
これ以上赤い顔を見られたくなくて、今日も慌てて踵を返した。
耳が赤いっていうことは、もれなく顔も赤いに違いないし。
「放課後、忘れちゃダメよ!」
「うん!」
最後にそれだけお話しして、俺たちはそれぞれの教室へと戻っていった。
……最後の会話、なんかおかしくなかった?
「どうしよう和也、俺に果たし状を送ってきたのが菜奈かもしれない!」
「だろうなぁ」
お昼休みに、今日も和也とご飯を食べてた。他の友達とも食べる時はあるけど、一番多いのはやっぱり和也。一番の友達だからね、そういうものだよね!
……ところで親友、この絶望的な状況を打開出来たりしないかな?
「無理だ」
「そんなぁ」
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