転校したら、クラスのヒロインに甘やかされているのだが!?

第13話

｢夏秋さん。材料を買ったけれど、僕作り方分からないや。良かったら作り方を教えてくれないか？｣

　僕は今から、クラスのヒロインである夏秋さんと、パンケーキを作る。

　夏秋さんは、今日の昼休みすごく寂しそうに1人で弁当を食べていた。

　それを横目に見ていたら、気がついた頃には夏秋さんを夜ご飯に誘っていたのだ。

｢分かりました。任せてください！｣

　おぉ！なんて、自信だ！心強すぎる…。

｢ではまず、ーーーーーーー｣

　夏秋さんは、料理初心者の僕にも優しく教えてくれた。

　そのおかげか、パンケーキはふっくらとしたとても美味しそうなものが出来た。

｢｢うわぁ〜！｣｣

｢なにこれ！めっちゃふっくらしてるじゃん！｣

｢私もこんなにふっくら出来たの初めてです！｣

｢早く食べようよ！｣

｢そうですね！食べましょう！｣

｢｢いただきます｣｣

　僕は、パンケーキを食べやすい大きさに切って1口食べた。

｢うんまっ！｣

　パンケーキは、中までふっくらしていて食べていてとても幸せな気持ちになった。

｢すごくおいしいです！｣

　夏秋さんもとても美味しそうに食べている。

　……やっぱり女子がパンケーキを食べている光景はいい。すごくいい。

｢相馬くん…？私の顔を何かついていますか？｣

｢ふぇ？いや…。何も無いよ？｣

｢本当ですか…？怪しいですね…｣

｢ほ、本当だよ…！｣

｢分かりました！信じますからね？｣

｢あぁ。そうしてくれ！｣

　僕達はこの後も、会話を楽しみながら夜ご飯を食べた。

　やっぱり、誰かと食べる料理って格別に美味しく感じる。（夏秋さんの料理スキルが高かったのもある。）

　僕は、夏秋さんに感謝しないといけないことだらけだな。

　そんなことを考えていると、向かいに座っている夏秋さんから鼻をすするような音が聞こえてきた。

｢夏秋さん…？｣

｢ごめんなさい。せっかくの美味しいパンケーキが台無しになっちゃいますね…｣

　と、夏秋さんは涙でぐちゃぐちゃになった顔で僕に言った。

｢台無しになんかなってないよ！夏秋さんは今日、一緒にご飯を食べてどう思ったの？｣

｢わ、私は！今日相馬くんと夜ご飯食べれて幸せでした…。ありがとうございます…｣

｢僕も、一緒にご飯を食べれて幸せだった。僕は、こっちに転校してから朝と夜は、1人でご飯を食べていて正直寂しかった。けれど、今日は夏秋さんがいてくれた。それだけで料理がいつも以上に美味しく感じられたよ｣

　僕が言い終わる前に、夏秋さんは両手で顔を抑えて泣いてしまった。

　僕は、夏秋さんにかける言葉が見つからず、その光景をただ、見ることしか出来なかった。

　どうしてここまで僕は無力なのか…。

　優しい言葉をかけてあげれば夏秋さんはきっと元気になる…。けれど、転向したての僕が言っていいのだろうか。

　そんなことを考えていたら、夏秋さんは顔を上げて目を赤くしながら僕に提案をしてきた。

｢良かったら明日も、明後日も、これから毎日、もちろん相馬くんに彼女が出来たらやめますけど！一緒に夜ご飯を食べませんか……？｣

　彼女のその言葉は僕の胸に深く刺さった。

　彼女は今まで1人でずっと、寂しかったんだ。

　それを彼女は、自分で壁を作って、耐えて、耐えて、耐え続けた。

　けれどもう、壊れそうになっている。

　僕も分かる。｢僕なら耐えれる｣と思って、ずっと耐えていたら気がついた頃には、もう壊れていた。

　それから立ち直るまではかなり時間がかかった。

　そんな思いを夏秋さんにして欲しくない。

｢もちろん！これからも一緒にご飯を食べよう！｣

　彼女は涙を拭い、僕の方を真っ直ぐ見てきた。

｢ありがとう。（そうくん）｣

　けれど、小さく呟いた昔の頃の呼び方は、相馬の耳に届かなかった。

｢いきなり現実的な話をするけど許して｣

｢は、はい？｣

　夏秋さんは、小さく首を傾げる。

｢材料費は、2人で分けよう。そして、僕は料理初心者だ。だから、料理を教えて欲しい。その分夏秋さんの払う材料費は、僕より少なくていいから、お願いします｣

　僕は、誠意を示すために90度の最敬礼（さいけいれい）をした。

｢ふふっ。相馬くん。分かりました。けれど材料費は、同じ額で構いません。その代わり、私の部屋は、今は恥ずかしくて見られたくないので相馬くんの部屋でもいいですか？｣

｢いいよ！料理教えてくれるだけでもありがたいから！｣

　こうして僕達は、これからも一緒にご飯を食べる約束をした。

｢相馬くん。私達夕食を共にするほどの中になったのでお互い呼び名を考えませんか？｣

｢呼び名か〜。今までに1回しか、『相馬』以外の呼び方で呼ばれたことがないな…｣

　その1回は、もちろん昔遊んでいたあの子。

　どんな顔だったかな…。

｢呼び名の件。僕はいいぞ！｣

｢ありがとうこざいます！｣

｢では…、私から考えさせてもらいます｣

｢分かった。よろしく！｣

　夏秋さんは、考え込むような仕草をしながら僕のあだ名を考えてくれてる。

　可愛い子は何をしても可愛いんだよな〜。

　ほんと…最強かよ！

｢決まりました！｣

｢お！なんだ！？｣

｢そうくん。これから相馬くんはそうくんです！｣

｢そうくん……｣

｢いや、でしたか…？｣

｢いや！そんなことは無い！昔も『そうくん』って、呼ばれてた頃があったからびっくりしただけだ｣

｢そういう事ですか！ちなみにどんな子に付けてもらったのですか？｣

｢それは───｣

　ーー夏秋 夏希ーー

　相馬くんは、私がなっちゃん（昔の相馬が夏希を呼ぶ時の呼び名）だということは気がついてなさそう…。

　けれど、『そうくん』って呼び名の事は覚えててくれた。私はそれだけで叫びたくなるぐらい嬉しい気持ちになった。

　ありがとう相馬くん。