第2章 サバイバル教室へ!
第5話 イジメをなくすことができるか?
「いってきます!」
サバイバル教室に初めて行く日の朝。
青くすみわたった空に白い雲が浮いている。
近所の家の庭にいつのまにか真っ赤なバラが咲いていた。塀の上に猫がいる。茶トラの猫を、久しぶりに見た。
学校に行く道とは逆方向の、駅に向かう。
フリースクール、サバイバル教室は電車で十分。駅から歩いて5分の、文化センターの2階にある。
文化センターに入り、小走りで受付の前を通り過ぎて、突き当たりの階段を上がる。
突き当たりの部屋から、人の声が聞こえてきた。
子どもの笑い声がする。小学生くらいの子どもの、楽しくてしかたがないっていう声。もうずっと、そんな笑い声を聞いたことがない気がした。記憶にあるのは、先生のどなり声と、クラスメイトのおびえた顔。
ふいに扉から、真名子先生が顔を出した。
「光太郎! 待ってたぞ!」
先生はぼくの手を取って、部屋の中に、まねきいれた。
明るい部屋の中に、小学生が数人。いっせいにみんなの視線が向けられる。
「今日から仲間になる、鳴海光太郎、小学校六年生だ!」
真名子先生の言葉に、みんなが、立ち上がって近づいてきた。うつむいたぼくの肩に、先生が手を置いた。
「光太郎は、電車チケットがないミッションを、たった15分でクリアしたんだぞ! すごいだろ!」
おそるおそる顔を上げると、みんな、親しげな表情だ。
長い髪をポニーテールにした背の高い女子と目が合った。
「光太郎君、よろしくね。わたしは佐土屋瑠子(るこ)」
ハキハキした口調に、余裕の笑顔。中学生だろうか。
「あ、あの、よろしくお願いいたします」
瑠子がくすりと笑った。
「同じ年なんだから、普通でいいのよ」
本当かなと思って先生を見上げる。
「ああ。ここにいるのはみんな小学校六年生だからな! 瑠子は、がんばり屋で勉強もできる。イジメ救助隊長だ」
先生がひとりずつ紹介していく。
「瑠子の後ろにいるのが、水川美遊(みゆ)。とっても優しい子だ。ピアノがすごくうまいんだ」
瑠子の背中にかくれていた美遊は、一瞬顔を出して、ちょこんと頭を下げた。髪を長くたらしている。
もうひとりのショートカットの女子は、耳にイヤホンをしている。先生がぼくの目線に気づいた。
「イヤホンしているのが、風祭詩季(しき)。詩季は、音にすごく敏感だから、余計な音をカットするノイズキャンセリングイヤホンをしてるんだよ。詩季は独特のセンスがある。絵もうまい」
「よ、よろしく」
ぼくの挨拶に、詩季は、真顔でこたえた。
「よろしく」
先生が、男子ふたりに目を向けた。
「青木力(りき)だ。力はめちゃめちゃ足が速い。しっぽ取りゲームで、おれが捕まえられないのが力だよ」
力は、小がらだけれど、確かに足は速そうだ。
「それでこっちが、火野空(そら)。去年までアメリカにいて、今年から日本に戻ってきた。見た目だけじゃなく中身もカッコいいぞ」
空はなんだかモデルみたいだ。着ている服もオシャレっぽい。
「さあ、とりあえず、はじめよう」
先生の言葉に、みんなそれぞれの席にもどった。
「光太郎は、一番前に座ってくれ」
ぼくは、そわそわしながら、瑠子のとなりの席に座った。
女子が三人、男子が二人とぼく、この六人がイジメサバイバル救助隊員ということは分かった。先生の紹介を聞くと、みんな、なんだか、すごそうだ。……ぼく以外。
先生が、教壇から、みんなを見回し、それからぼくに目を向けた。
「この教室では、救助隊員として、必要なことを学んでいく。体力も頭の能力も、きたえていくぞ!」
先生にもらったパンフレットには、普通の学校のように算数や国語も学ぶ、と書いてあった。体育や図工もあるらしい。持ち物表にあった、ノートも筆記用具も持ってきた。
これから何の授業をするんだろう。
すると先生は、いきなり教壇から降りてきたと思ったら、ぼくの机をひょいっと持ち上げた。
「1時間目は、ディベートだ!」
先生の言葉に、みんなは「はあい」と返事をしながら、机を移動しはじめた。
教室の真ん中に広くスペースをあけて、イスだけを丸くならべていく。
小学生6人が丸く輪になって座る。
先生は、ホワイトボードにペンで、大きな字で書いていく。
━テーマ イジメをなくすことができるか?
━なくすことができる
━なくすことはできない
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