第46話 神器を探して1
「誰かいるぞ、重傷者だ。担架をもってこい」
河岸から大勢の保衛団が集まってきた。皆の視線は、仰向けの状態で「流れてくる美しい少女」に釘付けとなった。
「…(可愛いな)……大丈夫だろうか? おい、生きてるか?」
「う……」
「…(ち、何で生きてるんだよ)」
「…(ちょっと、頭の中でうるさいのよ!)」
目を覚ますと、天井には「セーレを解剖したい。 by クライ」と書かれた文字が見えた。いつものように、枕を天井に投げて起床した。
◆◇◆◇
「うーん、すっきりとした朝ね」
簡易施設の外へ出たセーレは、背伸びをして大きな欠伸をした。暖かな日差し、滝のミストシャワーと冷んやり感じる清涼感に気分も和らぐ。
「おはようございます」
「おはよう」
ビィシャア、マークの順に簡易施設のドアが開き、挨拶を交わす。セーレは、簡易施設の外壁にある「10桁のデジタル端末の暗証番号」を入力した。
入力を終えると、簡易施設はみるみる小さくなり、四角い小さな箱に戻った。
「クライさん、天才過ぎる」
「そうよね、解剖とか考えなければ尊敬するわ」
各自食事と身の回りの準備を終えて、セーレの神器捜索が開始された。
◆◇◆◇
「滝壺にはないか」
「ここには神器はないようね」
セーレは、黒縁眼鏡をかけて神器の反応を探る。この眼鏡は、砂クジラ事件解決時の「クライ依頼の達成報酬」だ。周囲1kmの神器反応を「黄色の点滅マーク」で知らせる。
「移動しましょう」
「隣で何回も口出しして、うるさいわよ。そんなに言うなら、あなたが先導しなさいよ」
「はいよ、先導します」
「ふふふ、面白いですね」
マークは足元の「悪い道を選ばない」よう注意しながら、川沿いの道を先導した。後方にはセーレが指示を出し「道選びの不満」を漏らす。ビィシャアは、2人の様子を見て面白がっていた。
「ここは……」
「セーレ、どうしたのですか?」
ビィシャアが話しかけても、無言で棒立ちだった。到着した場所は、緑溢れる森の中に流れる深めな池であった。
「…(滝から近いわね。それもそうか、浅い水深なら全身傷だらけになるし、最悪死んでたかもしれない。けど、こんな近くまで、保衛団がいたのかしら? 都合が良過ぎないかしら、うーん…わからないわ……)」
「セーレ?」
心配そうに顔を覗き込んだ。
「大丈夫よ。この場所ね……」
セーレは、2人に対し、この場所に流れ着いたこと、保衛団に拘束されたことを隠さずに話した。尚、アーネスとのトラブルは除く。
「なるほど、この場所の反応はあるか?」
「うーん、ないわね」
「なら、もっと下流の方でしょうか」
目を向けると、かなりの急な傾斜で川の流れも強くなっている。遠くには「イース湖が視認できる」位置まで来ていた。
「保衛団に槍を回収された、て可能性は」
「ないわね。あのとき、微かに意識はあったし、槍は握っていなかったわ」
「では、やはりこの先でしょうか」
マークは、イース湖までの道順を考えていた。
2人は、保衛団が残した銅の盾、「木のバリケード」を見ながら話し込んでいた。
セーレは、木のバリケードを手に取ると
「あなたは、何でも深く考え過ぎなのよ」
「その木の板は何だ? どうするつもりなんだ」
川に木の板を投げ込む、とその板に飛び乗った。
「何してるんだ」
「あら、知らないの。サーフィンよ。私こう見えても、バランス感覚は凄くいいの。学問所の課外実習でも上手と褒められたのよ」
「まさか……」
「頼んだわよ」
「わかりました。マークは私が連れて行きます」
セーレは、川の傾斜を利用し勢いよく飛び出した。ビィシャアはマークを呼び、亀を錬成。その甲羅の上に乗り、彼女を追いかけた。
「最高だわ」
大きな石を交わしながら、風と波飛沫を全身に感じる。ボードが揺れるのを左右の足腰で調整する。瞳に映るモニター表示を確認するが、反応はなく、時折水滴がかかる。
「これよ、これよ」
セーレの胸は高まり、軸足の親指に力を入れ踏ん張った。板を左右上下に降るようなしごきを続けた。そして、瞳は常に遠くを見てある言葉だけ考えた。私は「遠くを目指したい」と気持ちを前へと押し上げた。
「気持ちいい。こんな気持ち、いつ以来かしら。あはははは」
笑顔で気分も上々だった。
「サーフィンできたのか」
「素敵です」
◆◇◆◇
マークとビィシャアは、遅れてイース湖に流れる川の入り口付近に到着した。
「遅かったわね」
「あれ、木の板は?」
「あそこよ」
セーレが指差した方向に、木の板がプカプカと浮いていた。
「どうやって、止まったんだ」
「止まってないわよ、途中で乗り捨てたから」
目的の場所に着く直前。広い陸地を探して、木の板を強く蹴り、空中で前方宙返りにひねりを入れて、背中を向けて着地した。
マークは彼女の運動能力に驚愕した。
「見てみたかった。きっとスタイリッシュ……」
「馬鹿なこと言ってないで、イースの湖の探索を始めるわよ」
セーレ達は、周囲に小型船がないか散策を始めた。
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