第35話 私の叫びを聞いて
夜風が心地良く、過ごしやすい環境。
星は見えるが、雲が多く月が見えない。
セーレとヘーゼルが対面した。
2人の声は透き通る程、はっきりと聞き取れる。
「よく、私の居場所がわかったな」
「いえ、私は、歩いて来ただけだから」
下を向き、自身の無さそうな顔をした。その顔を見たヘーゼルは、こっちに来るように手招きをした。階段を降り、彼女がいる墓石へと近づいた。
「これは、誰のお墓なの?」
「私の娘とその旦那の墓だよ」
墓石には2つの名前が刻まれていた。
男性アーツと女性コトネ。ヘーゼルは、ブラシを手に持ちバケツの水を湿らせた。墓石に付いた汚れを落としていく。
「…アーツ、コトネ……。コトネさんは、ミーアちゃんのお母さん?」
「そうだね。私の娘にしては、優秀でね。一言で言えば、できた娘だったよ。それがまさか、あっさり死んじまうなんてね」
ヘーゼルの旦那さん、娘さんと娘婿さんは、言論の自由を主張するデモ隊参加中に、反抗勢力から銃撃に合い、全員死亡。残った2歳のミーアちゃんを引き取り、女で1つで育ててきた。
「そうだったの」
この墓は、クライが用意したもの。2人の遺体は火葬され、墓石の下で眠っている。
その一方、ヘーゼルの旦那さんの墓は、こことは別の場所。神器を隠してある場所に「埋葬されている」とのこと。
「ふん、争い事が憎くてね。体を鍛えまくってたら、ある日、能力に目覚めて、アーネスに見出された、てことさ」
「私達って、あの戦いで何か残せたのかな」
「どういう意味だ?」
―――セーレは、急に膝を抱えて座り込んだ。
何やら、私は「不幸です」と露骨にアピールしているように見えた。
「だって、そうでしょう。アーネスに賛同して戦争を始めたのに、私達は、負けたんだよ」
沈黙しながら、話を聞いた。
「敗者なんて、何も残すことなんてできないんだよ」
「…」
「結局、私が頑張った、て、結果が出ないと意味がないのよ。下手したら、自分で決めることもおかしいんじゃ……」
「セーレ!」
ヘーゼルは、セーレの頬を左手で潰した。
突然過ぎる不意打ちに驚いた。
「ぶ、ちょっと何すんのよ。手を離しなさいよ」
馬鹿にしたように、手を離した。
「お前、確か私に対して豚だ、て言ってたな。たく、生意気な小娘が変なことを抜かすから、つい手が出ちまったよ」
―――少し怒った顔で詰め寄った。
ヘーゼルは、右手に持っていたブラシをバケツへ戻した。
「何だったかな、確か。うーん」
「何よ、何が言いたのよ!」
イライラしていた。
「あ、そうだ。考えないで言われたことに従うのは、囚われた豚と一緒。貴方は豚ではない。卑しい魔女の聞かん坊、ヘーゼル。脳みそまで退化したのかクソババアだったか」
「それが、何よ!」
さらに小馬鹿にした顔で、口を開いた。
「まさに、お前は豚だな」
「もん、何を言うのよ。私が豚だなんて、ありえない。こんなにスタイルもいいのに」
「あはは、自意識過剰もいいところだね」
セーレは、ぶりぶりと怒り不機嫌な顔をした。ヘーゼルの「ぶっきらぼう」な物言いに負けじと暴言を吐いた。
「私、知ってるんだからね。あなたが、小さな男子を愛でるショタコン野郎だって」
「何を言うさね。ショタを愛することの何が悪い」
「もー、そんなこと言って。あなた自分が経営してる施設で保母さんもしてるでしょう」
「何で、そんなこと知ってるんだ」
「私の洗脳の力を甘く見ないでよね。洗脳対象が1人だったら、ちゃんと記憶読めるんだから」
―――ひたすら暴言を吐いた。
それも時間を忘れる程に。気がつけば、朝日が見えるまで暴言の言い合いは続いていた。
◆◇◆◇
「ぜー、ぜー。ちょっと喋り過ぎたわ」
「病人は、ささっと病室に戻りな」
「うるさいわよ、聞かん坊」
急にセーレは、黙り顔を下に向けた。少し沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「何で私ばっかり、こんな目に合うんだろう」
「何言ってんだい、不幸な少女を気取る気かい」
「不幸なんて、気取る訳ないでしょう」
「どうかね、わからんぞ。生意気な小娘だからね」
「このクソババア!」
少し黙って、想いをぶつけた。
「不幸なんかで片付けるな。お前は、弱かった。それだけのこと。弱いなら、強い自分を目指せばいい」
セーレは悔しくなり、俯きながら、拳を振るわせた。
「私は、弱いかもしれない。けど、どいつも、こいつも、自分勝手なの。誰も頼んでないことを勝手にするの。意味がわからない」
「泣くのか。泣き虫セーレなのかい」
「うるさいわよ、ヘーゼル」
前に勢いをつけて飛び出した。
そして、彼女の胸を借りた。
「ごめんなさい。今だけだから…終わったら、元気になるから……」
「ふん、全く」
「くうっ…」
「たく、泣き虫な小娘だね」
静かな墓地へ
胸の
瞳には何も映らない。
頬にもあまたの雫が通過した。
口を大きく開いて、喉が
手に込めた力が徐々に強く。
髪は
どうして、こんなに私は弱い。
唯、自由に生きたかった。
それが私の願い。それすら許されない。
皆、どうしてわかってくれないの。
それなら、今だけは。
この世界でたった1人になった「私の叫び」を聞いてよ。
不合理さを戦争で知る2人。哀愁の想いを
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます