第30話 絶望の回帰
「テマ!」
「セーレ、会いたかったぜ」
―――髪は白から銀へ、瞳は赤く輝きが増した。
「うぉりゃあああ」
槍が迫る。
対抗し洗脳の力を使う。
セーレの兄、ニースを操り、下水道の反対側へ。すぐに、槍の対処に集中した。
「弾け飛べ! Punishment of sin」
―――細胞操作で、テマの体が爆散する。
しかし、彼女から流れ出たものは、血ではなかった。なんと、白い「ガスが弾けた」のだ。
「これは、催涙ガス。がはがは…ごほん……」
「ハハハ、前とは違うぜ」
催涙ガスを浴びたセーレは、激しい目鼻と喉の痛みに、涙が止まらなくなった。
「痛い。まずい。早く、自身の細胞を……」
「対応が遅えよ」
―――テマに胸ぐらを掴まれ、足が宙に浮く。
「この時をずっと待ち侘びていたんだぜ。お前のことを、いつも考えていた。さぁ、ここは狭い。場所を変えるぜ」
下水道出口へ。セーレを掴んだまま、地面を蹴った。
◆◇◆◇
空高く跳躍した。
高度は、400mに届く高さだ。
空中にいる間に、セーレは自身の細胞を操作し、目鼻と喉の痛みを緩和させた。
「地面に叩きつけてやるよ」
テマの神器は、グリーブ(すね当)付きのブーツを履いていた。神器の共通能力は身体能力向上だが、各神器によって、1つの特殊な力が備わる。
テマの場合は、「脚力の異常な向上」だ。
「離しなさいよ。今なら、弾け飛べ! ……」
「おっと、オリジナルで、その攻撃を受けるのは、やばいな」
高度50m付近。
テマはセーレを地面に向け、投げ飛ばした。
運動能力の高さで補った。
空中で体制を整えるため、宙返りし「足のつま先」で、勢いを殺すように着地した。
「危なかったわ……」
クライの開発品である防御陣が、施された「靴の恩恵」もあり、骨折や目立った外傷もなく、土埃を立てながら、「無事着地する」ことができた。
「ち…思い通りには、中々いかないな……」
「え……」
土埃が晴れる。
テマが30人に分身していた。
その1人1人が手に槍を持ち、セーレに突進してきた。
「どういう原理かわからないけど、近づいてくるなら好都合よ」
―――拳を天に突き上げる。
分身体は弾け飛ぶが、倒された体から「白い霧」が拡散した。
「今度は
―――セーレの右下腹部に痛みが走った。
恐る恐る「目を下に向ける」と黒い槍が刺さっていた。
「つぅーーー!」
正面を見る。テマが笑っている。
「あれ、思っていたより、叫ばないな」
「貴方こそ、甘く見ないでよ。私が何年刑務所で拷問を受けていたと思うのよ。3年よ」
「そうかい」
―――槍を深く突き刺した。
セーレの右下腹部を貫通。背中からも血が流れ出した。勢いに任せたテマは、後方にある大きな岩に誘導された。
そして、彼女を動けないように固定した。
「さて、これで楽しいショーも見られるかな。セーレ、紹介するぜ。協力者をよぅ」
―――遠くから赤ローブの集団が現れた。
「またお会いしましたね。我が偉大なる洗脳の女王セーレ様」
「初めまして、セーレ様。私は爆発を愛する優勢思考のマーガルと申します」
教団関係者であるサーメスとマーガル、他4人の信者が少し離れた位置から大きめな声で挨拶をした。
「優勢思考と繋がっていたの?」
「別に、利害が一致したから、手を組んで利用させて、もらってるだけだ」
そこに、信者4人が1人の男を連れてきた。
―――ありえない。
下水道にいたセーレの兄、ニースを連れて来た。
「テマ、馬鹿なことはやめなさい!」
「見ていけよ。きっと楽しいからよ」
細胞操作の爆散攻撃で抵抗しようとする。
―――攻撃範囲外のため、届かない。そこに、教団2人の声が届く。
「貴方様には邪魔な虫が付いておられます。大いなる祈りを邪魔する虫は取り除かせていただきます。さぁ、マーガルの信者諸君、頼みましたよ」
「サーメスよ、任せておきなさい。我が爆発の女王シルカ様の教えを受けた者たちだぞ。失敗などありえない」
マーガル配下の信者4人は、4つの担当に分かれた。ニースを担ぐ、鎖を付ける、爆弾を付ける、重りを付ける順に、作業を進めた。
「嫌、やめて!!」
「それでは、皆様方、離れてください。我が爆発ショーを
セーレは、洗脳の力で止めようと
「お願い、やめて!!」
―――手足を激しく動かした影響で、血が散り乱れる。
少しずつ、槍の拘束を解こうと、前に進む。痛みなんて、とっくに麻痺していた。
「あぁぁ、くぅ……」
前に進むことで槍からの拘束を脱した。
「あらら、抜けられちまったか。まぁ、時間稼ぎもできた。これでアンタの頼み事も完了だ。後は、高みの見物だな」
―――全速力で走った。
「弾け飛べ!!」
信者4人の体が爆散する。しかし、サーメスとマーガルは首に掛けた「赤い宝石の加護」で、洗脳の影響を受けなかった。
―――その時、マーガルが敬礼をした。
途端に、ニースの体に付けた爆弾が着火した。セーレは、唯一の肉親を助けることができず、錯乱状態に陥った。
「いやぁぁぁ――――――――――――――!!!」
「ハハハハ、それだよ。その叫び声が聞きたかった」
月の狼煙は廻り、爆発の惨禍となる。狂信の過ちに鮮血を周到する。心の薙げきは坊城。
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