第26話 親切なお爺さん
「待て。そこの集団止まれ」
レイントピア王城の正面入り口を出ようとした6人組が、門番に止められた。皆、黒マントで頭までフードを被り、誰から見ても怪しい。
「こんな夜更けに移動とは、何か急用か? できれば別室で少し事情を聞かせてくれないか」
若い門番の男性が親指を後方に向け、黒マント達に対し取調室への誘導を促した。
「あのぅ、すいません」
「その声は女性か。どうしたんだ?」
―――何か隣の男からの視線が強い気がした。
「私達は、親族の葬儀参列で急いでおります」
「ほぅ、親族の葬儀か。その装いは喪服か? だが顔まで隠す必要があるのかい?」
「はい、家の
よく見れば6人とも同じマントを羽織っているが、服装に統一性がなく門番も腑に落ちない表情をした。
「やはり、詳しく事情を聞きたい。何もなければすぐに解放するこちらへ」
「通してはくれませんか?」
「はい、すぐに終わらせます。ご協力を」
門番と女性の間で沈黙が流れる。
「どうしても、取調べを受けなければいけませんか?」
「すぐ終わらせます」
その言葉を受けて、女性は頭のフードを右手で掴んだ。
「パカパカ」と後方から馬の蹄、荷馬車の音がこちら側へ近づいてくる。門番と女性の興味は後方へ向けられた。
「何だ」
「こんばんは」
「爺さん、アンタか」
馬車を走らせていた高齢のお爺さん。
門番に挨拶するあたり、顔馴染みと思われる。黒フードを外そうとしていた女性もその手を止めた。銀髪が見えそうになり、慌てて隠すセーレであった。
「ほっほっほ、こんな夜更けにすまんの」
「まったく、何もこんな時間に来なくても。また商売に行くのか」
「そうじゃよ、ほれ通行証と商売許可証じゃ」
「爺さんなら顔パスな気もするが、どれ確認しようじゃないか」
突如現れたお爺さんは、門番と親しげで普段から交流があるようだ。門番は明るい街灯まで移動し、お爺さんから渡された書類に目を通していた。
◆◇◆◇
「ほっほっほ、おぬしら見かけない顔ぶれじゃなあ」
「こんばんは、お爺さん。私達はこの街の人間ではないの」
「そうかい、何処から来たんじゃ」
「私達は東にある村から来たの」
「東の村か、先程遠くから見たが、何やら門番と揉めておったのぅ」
お爺さんとの会話中に門番が戻り、2人の会話に口を挟んだ。
「おっと、すまんね。爺さん、通行証と商売許可証は本物だ」
「ほっほっほ、いつも通りじゃな」
「待たせたな、次はあんたらの番だ」
セーレは、洗脳の力を行使するため門番の目を見た。
「ほっほっほ、待ちなさい」
「どうしたんだ、爺さん?」
「実はのぅ、その連中はワシの知り合いなんじゃ」
セーレ達一行は、お爺さんの「意味深な発言」に驚きを隠せなかった。なぜ、自分達を擁護する必要があるのか。それに私達は、見ず知らずの「他人で怪しい」連中だ。
「おい、おい、爺さん。急に変な
「何を言うんじゃ、ワシは、まだピチピチの17歳じゃよ」
「爺さんは、70歳だろ」
お爺さんは、淡々とホラ話を披露した。
この者達は、私がご
「爺さん、ほんとかよ。その話」
「本当じゃよーん。ワシは生まれてから、嘘は付いておらん」
「だがな、こちらにも決まりってものがな」
「仕方ないのぅ、ほれこれでひとつ」
お爺さんが門番に渡したのは、紙巻きタバコであった。
10箱の3ダース入り。
タール10mgニコチン0.8mgの一般的なタバコだ。
「これは、爺さん。いいのかよ」
―――門番は、非常に嬉しそうな顔をした。
それもその筈。王城のタバコは税率対象で税金が高い。価格も10本入り1箱で、2万タークだ。2万タークあれば、王城内の格安宿くらいは、泊まれる金額。嗜好品でタバコ好きなら、喜ばない訳がない。
「いや、これは、まずいんだけどな。コホン、そこの者達。暫く待っていなさい」
門番の1人が、取調室にいる仲間達へ連絡をする。
仲間達は不思議そうな顔をしたが、顔馴染みの爺さんのよしみで大目に見てくれたようだ。
タバコは、他の門番にバレないように、ちゃっかりと自分の更衣室に隠していた。
「よし、お前達。長らく待たせたが、通行を許可する。門、開場〜」
「門、開場、了解」
下働きの屈強な男達が、2人掛りで歯車の取っ手を回す。頑丈な門が内側にゆっくりと開場した。その門は、馬車が1台くらい入れる隙間で動きを止めた。
「では、爺さんと皆様。お気をつけて」
「ほっほっほ、ではの」
◆◇◆◇
不思議なお爺さんとセーレ達一行は、王城の一本橋を渡り、なぜ「私達の手助けをしたか」問うた。
「いやーの、たまたまじゃよ」
「そうなの、ありがとう」
「ではの、お前さん達も息災で」
無事神器回収を達成。王城からの脱出にも成功した。不思議なお爺さんとの出会いは、セーレの記憶にも深く刻み込まれた。
お爺さんと離れてから。
「司祭長様、先程の連中は誰ですか?」
荷馬車から、白髪頭の七三の男が顔を出した。荷馬車を運転するお爺さんは、陽気に返答した。
「サーメスよ、我々も幸先が良いかもしれんぞ。ワシ達、教団の新たな時代の救世主が降臨されるかもしれんのぅ」
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