第25話 死に至る幻想
「始めようぜ、セーレ」
「何を始めるの?」
―――黒い槍を前方へ。歓喜の表情で迎えた。
「決まってるだろう、命のやり取りだよ」
「嫌よ、貴方と戦う理由もないもの。それに今は作戦中よ。貴方、私達の目的を忘れていないかしら」
「うっせぇな、そんなのはどうでもいいんだよ」
テマの槍がセーレを襲う。頭、胸、膝を狙った3段突きをセーレは軽く交わした。
「これで2回目よね。もう冗談では済まさないわ」
「やっとやる気なったかよ」
「動きを止めよ。Freeze!」
セーレの力でテマの体が拘束された。しかし、拘束に抗おうと全身をプルプル
「たまらねぇな、なぁ、セーレ?」
「私は楽しくないわ。だから早く無用な争いは終わらせてあげる」
「そうかい、だがな甘い考え方で終わらせられると思うなよ」
―――テマの全身から白い霧が発生した。
その霧はゆっくりとセーレに近づき、鼻や口に侵入してきた。吸い込むと頭が金槌で、叩かれたかのような痛みと急激な眠気に襲われた。
「だから、油断するなっていたのになぁ。忠告も無駄だったようだな」
「貴方も甘いわね……」
「何だって」
「私がこの程度の睡眠にかかる訳ないでしょう!」
―――胸の中心に右手を当てた。
自身に暗示のような洗脳の力を行使した。体の細胞に作用しセーレの眠気や痛みを取り除いた。
「ほぅ、やるじゃねぇか」
「テマ、もうやめましょう。こんな不要な争いで得るものは何もないわ。私達には神器奪取という優先すべきことがある」
「そんな仕事は、ルーサーに任せとけばいいんだよ。さぁ、戦いに集中しろ」
セーレは顔を伏せ、テマへの説得を諦め、無表情で静かに目を閉じた。
「どうしたよ、観念したのか」
「貴方は恐怖ってものを知らないみたいだから、私が教えてあげるよ、Hallucination」
「…そんなもん、どうやって……あれ?」
―――テマの視界が急に黒背景となった。
手足は自由に動くが、どこまでの闇が続く。持っていた槍も手元から消えていた。
「おい、セーレ! 何しやがった」
「別にただ、貴方に恐怖を教えようと思って」
右手に何か這ったような違和感を感じた。左手で右手を叩くが何もいない。左太ももに足が多い虫が飛びついた違和感を感じる。慌てて、両手で左太ももを叩くが、やはり何もいない。
「きもちわりぃ、さっきから虫見てぇなのが体を歩き回っているみたいだ」
「テマ、降参する?」
「ふざけるなよ。こんなことで降参なんかするかよ」
「そぅ……」
背中が痒くなってきた。複数の鳥のクチバシで突かれているみたいだ。背中に手を回すが、逆三角形の体が邪魔して「痒みのある箇所」に手が届かない。
「痒い、痒いぞ、この不快感は何だ」
「テマ、降参しなさい」
「誰がするかよ」
「…」
体に槍で貫かれたような痛みが走る。肉を抉られるような痛みで、我慢できる痛みではなかった。全身の至る所を手で「抑えよう」とのたうち回る。
「ぐぅ、痛え。刺されているのか」
「これで、最後よ。後悔なさい」
何か大きな物体に足を食べられている。視界には黒しか映らないのに、確かに大きな口が見える。その口は、「ボリボリ」と音を立てテマの体を貪り食べる。
「やめろーーーー!!!」
あまりの恐怖に失神。黒の背景は剥がれ、姿を現したのはテマとセーレだった。
セーレは、彼女の頭を右手で掴んでいた。
軽いマラソン後のように、顔の頬に汗が滴り、口呼吸し疲れが見える。
「全く、この力はシビアだし疲れるわ。下手したらテマを殺してたかもしれない」
失神したテマを洗脳の力で操り、行政地区の公園から商業地区の下水道の排水口まで徒歩で移動した。
「こっちは、作戦完了よ。そっちの首尾は?」
「はい、セーレ様。ルーサー様の警護をしていましたが特段異常はありません」
目を閉じて、精神統一の姿勢で瞑想していた。その顔立ちは凛々しく、魅力の男爵というのも納得だ。
「変な発言もなく、黙っているなら見てくれは良いのに……」
―――開眼。今こそ、千載一遇のチャンス。
「ほんとー、セーレちゃん。とうとう魅力に気がついちゃったかな」
「こういう発言がなければなぁ」と思いながら、ルーサーが生理的に無理だなと再認識した。
「ルーサー、神器の回収は成功したの?」
「そんなことより、さっきの発言は……」
「落ち着いて深呼吸して、私達の目的は神器回収よ。優先すべきことを忘れないで」
セーレの発言が気になるも、一旦は聞きたい気持ちを飲み込んだ。
「神器回収は成功だよ」
「やったわね、それでどこにあるの?」
「動物達をアーネス達がいる拠点まで誘導したよ。ところでテマは何で寝てるんだい?」
「テマ、うーん、疲れたから少し休んでいるだけよ」
壁にもたれて、何やら「苦しい」とブツブツ言っている。
ルーサーがその様子を確かめようとテマに近づくが、セーレが手を出し制止を促した。
「テマは大丈夫よ。それよりも早く撤収準備をしましょう」
妙に上機嫌なのが気になったが、ルーサーと歩兵部隊は撤収準備を開始した。
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