第16話 偵察部隊

「3年前の戦時下。私とヘーゼルは偵察部隊と共に、敵地へ密偵の陽動をしていたわ」

「…おい、拘束を解除。ん……」

「口を開かないようにしたわ、鼻呼吸し黙って聞きなさい」


 ビィシャアは、セーレの顔を睨みつけた。無視。そのまま、戦時下の話を続けた。


「その日は、雨が降っていて」



 

◆◇◆◇


 ヘーゼルとセーレはタッグを組み、敵の密偵調査を「手伝ってほしい」と偵察部隊のリーダーに頼まれていた。


「何で、私が密偵補助なんぞ、手伝う気になれん」

「まぁ、まぁ、話だけでも聞こうよ。…それで、えっと……偵察部隊リーダーのエドモンドさん。詳しいお話を聞かせて頂けないでしょうか」


 ―――敬礼した。

 

「は、ヘーゼル様、セーレ様。その前に私のことは、エドモンドと呼び捨てでお呼びください」


 2人に密偵補助を頼んだエドモンドは隠れみのの天才と呼ばれた男。偵察部隊員からも、一目置かれる立場であった。


「それで、エドモンド。私達は何をすればいいの?」

「はい、簡単なことです。我ら偵察部隊が敵地内部に忍び込んでいる間、敵地の外で大暴れしてほしいのです」


 ヘーゼルは鼻で笑った。

 

「簡単に言ってくれるな」

「言いたいことはわかるけど、協力してあげようよ。私達には神器って、いう強力な武器も手に入ったことだし」

「しかしだな」


 2人は口喧嘩を始めてしまい、収集がつかない。


 エドモンドは、その場でジッと静かになるまで、待っていた。そこに、灯りが近づいてくる。キャンプテントの入り口が開き、アーネスが顔を覗かせた。


「エドモンドから話は聞いているよ。ヘーゼルとセーレは王城から奪った神器を試す良い機会だ」

「おい、おい、本気かよ」


 ヘーゼルは、アーネスの説得に応じ、渋々OKを出した。


「よし、話は纏ったみたいだね。私は明日、王城の第3拠点を落とす。第2拠点の情報収集と陽動は頼んだよ」


 テントから出ていき、雨の中を足早に駆けて行った。エドモンドは、偵察調査の話を続けた。


「アーネス様の許可が出ましたので、作戦を説明いたします。宜しいでしょうか?」

「はい、お願いします」

「ふん、仕方ないね」


 ―――エドモンドは、テーブルに地図を広げた。


 第2拠点の場所や陽動、合流ポイントにマーカーをつけた。陽動班、ヘーゼルとセーレは、敵兵をできる限り陽動ポイントへ集め、最終的には川を反乱させ、水責めする作戦のようだ。最重要の偵察部隊は、王城の動向や神器の有無を調査。2チームが合流ポイントで、戦線を離脱し完了。


「…以上で作戦説明を終了いたします……何かご質問はありますか?」

「はい」


 ―――俊敏な動きで、手を上げた。

 

「セーレ様、どうぞ」

「王城の神器は、全部で12本回収し私達が所持することになったけど、13本目が出てきたらどうするの?」


 智慧に基づき、ありのままを話した。

 

「はい、神器もあなた方と同じく、我ら何の力も持たぬ者が持っても意味がありません。しかし、今後、13人目の存在が確認されるかもしれません。我らはそのための準備をしているのです」


 3人の長い会議が終了。

 セーレは雨が降る中、キャンプ近くの寺院に足を運んだ。


「……(雨が凄いけど、行かなきゃ)」


 ―――濡れた手で、扉を開く。

 

 寺院の中は、長椅子が並べられ、中央に花束と蝋燭の火が灯されていた。戦争で家族や友人を亡くした者達が、戦死者に祈りを捧げる。セーレも「こっそり」とその中に混じり、戦死者に祈りを捧げた。


 ―――祈りを捧げる目には涙が流れ出ていた。


「…(早く、戦争を終わらせないと……)」



 

◆◇◆◇


 夜が明ける。雨は止み、晴れた天候に恵まれた。「いよいよ作戦決行」と偵察部隊も意気込む。そこに、セーレ、ヘーゼル、エドモンドの3人が部隊員に激励をかけた。


 ―――歓喜、沈黙の順を通る。


 最後にエドモンドから部隊に向けて話をした。


「我らは、アーネス様の意思で集まった精鋭だ。しかし、お前達に言っておくことは、1つだ。いざとなったら、死ぬ覚悟で情報を守れ。王城の捕虜になんてなるな。奴等の情報を奪い取れ!」


 ―――偵察部隊の指揮が上がる。セーレも一言付け加えた。


「どうか、皆さん、無理をしないで生きて帰ってきましょう」


 偵察部隊は、拳を天に上げ作戦は決行された。

 


 

◆◇◆◇


 敵陣を油断していた。何やら楽しそうな談笑が聞こえる。そこに2人の能力者が破壊行動を開始する。


 ―――轟音で飛び上がる者達。現場へ急行した。

 

 セーレとヘーゼルは、神器の力で身体能力が向上し、敵陣の城壁の一部を破壊した。大慌てで、歩兵団が進行してきた。


「やるぞ、泣き虫セーレ。遅れは取るなよ」

「えぇ、ヘーゼル。行きましょう」


 一方その頃、先行の陽動と密偵チーム。

 5日前から張り込んでいた「別動隊が様子を監視」する。川の水はダムで堰き止めており、水位が高くなっていた。

 第2拠点内部では、偵察部隊が慣れた手際で「敵陣の拠点」へ侵入していた。戦況は優勢であり、敵兵の混乱に乗じて、調べ物の任務を遂行した。


 一旦、現実の話に戻る。

 セーレは、過去にあった出来事をビィシャアへ伝えていった。だが、未だ信じられないという顔をしていた。納得できる訳もなく、態度で示す。


「作戦は順調だったわ。けどある男が合流ポイントに現れて事態は一変するわ」


 深呼吸をしてから、ビィシャアの手と足の拘束以外を解いた。拘束疲れか、肩の骨を器用に鳴らした。


「ふー、誰なの、その男は?」

「その男とは、アドモス。彼との初めての邂逅であり、私とヘーゼルに呪いをかけた術者よ」

   

    


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