第4話 始まりの日
「呪いですか?」
「あぁ、私とセーレは呪いを受けたんだよ」
ヘーゼルは、セーレの衣服を脱がし始めた。拷問を受けていたのか、体中、傷が目立つ。うつ伏せにした背中には、大きな斜めの切り傷が印象的だ。
「久々に見たが、この傷は消せないね」
「何ですか、この大きな傷は?」
「この傷は、3年前の傷だよ。相変わらず、凄まじい切り傷だね」
体を正面にした。口を開けさせて、歯の状態を覗き込むように確認。虫歯だらけで、抜けた歯も複数本あった。ヘーゼルは抜歯鉗子を手に取り、歯を乱暴に抜き取っていく。
「これはダメ、これもダメ、この歯もダメ。面倒だね、もう全部抜いてやる」
歯は全て無くなってしまった。ヘーゼルが下着に手を掛けようとし、手を止めた。
「おい、マーク」
「これ程の傷を受けていたなんて、知らなかった」
「いや…そうじゃなくて……」
「そうだ。呪いって、一体誰に受けたものなんですか? 彼女のことをもっと、知っておきたいんです」
「で…け……」
「へ、何ですか。聞こえないです。もう一回、言ってください」
どこか惚けた顔に見える。呆れた表情で、指示を出した。
「これから、セーレを全裸にするから、男は出ていけって、言ったんだよ」
「失礼しました。すぐに外に出ていきます」
玄関ドアを開け、流れる動作で閉める。出て行く姿を確認。セーレの下着を全て脱がし全裸となった。
「セーレ…あれから、3年間収監されていたんだね……。この傷跡から、かなりの拷問を受けていたんだね。泣き虫だった、あんたも、もう一生分泣いたんじゃないかい」
ヘーゼルは、両手を青色にして、痛々しい傷に優しく触れた。先程の応急処置の色よりも、さらに濃い青色の手をしていた。
「…大丈夫だろうか?」
あれから、2時間が経った。家のドアが開かれた。
「終わったよ」
「セーレは?」
「治療できるところは、全て元通りに戻したよ」
「そうですか」
「アンタはなぜ、セーレと一緒にいるのか知らんが、悪いことは言わん。早めに手を切った方がいい。遅かれ早かれ、彼女と関わったものは、必ず不幸になる」
「不幸ですか? それも呪いと関係があるのですか?」
ヘーゼルは煙草を左手に持ち、右手のライターで、火をつけ一服した。
「大アリだね。これは独り言だが、聞いてくれるかい?」
「はい」
煙草の灰を受け皿へ。上空に舞う白のうねりを「ぼんやり」と見つめる。もう一度、口に咥え、深く煙を吸い、吐いた。
あるところに、12人の一般人がいました。
お互いに関わり合いもなく、各々の生活をしていました。
ある時、1人の男が、この世界を揺るがす力に目覚めました。
その男は、この世界の平和のため、同じ能力のある11人を集めました。
12人は言論の自由を謳い、「不自由を強いる者達」と戦争を始めました。
数では圧倒的に不利でしたが、12人の力は圧倒的でした。
その勢いで、敵勢力を後一歩まで、追い詰めることができました。
しかし、一抹の不安が男を惑わせてしまうのでした。
それが、銀髪の赤い瞳の美しい少女が原因でした。
男は少女に好意をもちましたが、別の男が好きということを知り、嫉妬心で気が狂い……。
「ちょっと。話長いし、勝手に無関係の人にペラペラ話さないでくれる」
話に割り込みを入れる。ゆっくりと、セーレが近づいてきた。術後で子鹿のように足を「プルプル」させていた。
「お早いお目覚めだね」
「セーレ、大丈夫なのか?」
「ちょっと、ヘーゼル! 傷の治療と歯の再生に関しては、大いにあなたに感謝するわ。けど、そこの無関係な人を巻き込まないでくれる」
セーレは「フラフラ」しながら、足を前に出し歩き出した。途中、足がもつれ膝をついてしまった。マークが駆け付けようとしたが、「不要」と言い、再び立ち上がった。
「セーレ、いつまで戦い続けるんだい? 過去に私達は不自由を強いる者達へ戦いを挑んだが、私達は負けた。その結果が今の世の中だ。それに1人の力では絶対に勝つことは不可能だ」
「不可能ね、嫌いな言葉の1つだわ」
「それはお前が1番よくわかってる筈だ」
わかりません、と白々しい顔をした。
「何よ、そんなのやってみなきゃ、わからないじゃない」
「背中の傷、痛むんじゃないかい? それは私達の敗因となった出来事であり、セーレに深手を負わせた張本人。私はお前を嵌めた訳ではない。全てはあの男の策略……」
「アーネス……」
急に空気が重たくなってきた。マークは、2人の会話に入れず、黙って話を聞いていた。
「彼の過去の行いは、決して許されるものではないわ。でも、気の迷いを作ったのは、私が原因よ。そんな過去は、とっくに時効で水に流してあげるわよ。それに、今の私達には彼の圧倒的な力が必要よ」
「そうか、セーレは知らなかったね」
「知らない? 何があったの」
疑問しか湧かない。頭で考えるも情報不足であり、ヘーゼルの返答を注目した。
「言論禁止思考概念を提唱し、今の世の中を構築したのはアーネスだよ」
「まさか、いや……彼に限って。そんな筈はないわ。あんまり酷いことを言ったから、嘘、ついているのよね?」
―――唖然とした。
「全て事実だ。私はこの目で見たからね」
「ありえないわ。彼、言ったじゃない。聴衆者の意見は大切だ。それを弾圧しようとする社会は間違ってるって」
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拙作お読みいただき感謝しか御座いません。
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