異能一族の反逆者~4人で打破する偽りの空~

川崎俊介

プロローグ

 嘘っぽい月が輝く12月の夜。


 俺は当てもなくぶらついていた。すると、違和感に気付く。


「人払いの術式か」


 街の中心から人を遠ざけるよう、魔術が展開されているのが感じられた。魔術師連中が何かするつもりなのか? まぁ、俺には効かないし、ちょっと覗いてみるか。


「わ、私は知らない! 何も見てないし何もされてない! だからお願い! もう、お家に帰して!」


 しばらく歩くと、路地裏からそんな声がしてきた。


「なんか、犯罪の匂いがするな」


 この街も物騒になったものだ。俺は、こっそり様子を窺う。


「俺たちは秘匿協会の人間だ。お前の素性は知れてんだよ」


「お前の帰る場所などない。お前は売られたんだよ。実の両親にな」


 2人の男が少女相手にそんな脅しをしている。協会の連中が、こんな犯罪紛いのことをしているのか?


「そ、そんなはずは……」


「覚えてるぜ、ちょっと銃で脅して金を握らせたら、すぐに言うことを聞いたよ。お前の家族はな!」


 代行官どもはバカにしたように哄笑する。何が可笑しいというのだ?


「さっさと帰って、リアさんの言うことを聞くんだな。もっとも、脱走するような小娘にはきついお仕置きが待っているだろうがな!」


「変態金持ち用のサンドバッグにされるか、臓器供与のために解剖されるかだろうな。お前ごときじゃ、異界取引の材料にもならない」


「もうやめて……もう、痛いのは嫌なの……お願いします! 1日6回、ちゃんと通電実験にも耐えるし、リア様の言いつけ通りに手術も受けますから!」


 少女は大粒の涙を流しながら懇願する。もう見てられないな。


「随分と胸糞悪い話をしてるなぁ! もう止めろ。この子に手を出すな」


「誰だお前は?」


「俺は神秘公開同盟のリーダー。お前たち秘匿協会に反旗を翻す者だ」


 俺はとっさに適当なことを言ってのけた。


「そんな組織は聞いたことがない。嘘も大概にしろ」


「だろうな。たった今、俺が設立したんだからな」


「素人が粋がってんじゃねぇよ、【こっち側】の世界に足を突っ込むものじゃないぞ、兄ちゃん?」


「悪いな、【こっち側】とやらには、既に肩まで浸かっている」


 俺が魔力を練ると、代行官どもは目を見開いた。


「もう一度言おうか。俺は神秘公開同盟の設立者。その子は同盟のメンバーだ。返してもらおう」


「ナメるんじゃねえ!」


 俺は殴りかかってきた男の腕を掴んだ。


「人を殴ろうだなんて、粗暴な悪い腕だ。【蔵】にでもしてしまおうか」


 俺が魔力を流し込むと、途端に相手の腕に紋様が刻まれた。


「う、動かないだと!?」


 石になったかのように、男の腕はだらりと垂れ下がる。


「まだやるか?」


「この野郎! 死ねっ!」


 もう一人が銃を突きつけてくるが、俺はただ、魔力を流し込む。


「なんだ? その銃、今にも崩れそうだが?」


 拳銃は砂粒になって崩壊した。


「くそっ、厄介な異能だな。一旦退くぞ!」


 代行官とやらは慌てて退散していった。


「大丈夫か?」


「ひっ、こ、来ないで!」


 銀髪の少女は、涙目で震えている。衣服も、粗末な貫頭衣しか着ていない。どんな酷い扱いを受けていたんだ?


「いや、そこはありがとうございます、だろ」


「ごめんなさいごめんなさい。許してください。もう逃げませんから!」


「大丈夫だよ、俺は協会の連中とは違う。前から胡散臭い奴らだとは思ってたんだが、こんなことまでしてるとはな。君の安全は保証するよ」


「本当に……私を守ってくれるの?」


「信じられないだろうが、これから行動で示す。それにたった今、協会の連中を倒して見せただろ? だから名前を聞かせてくれ」


「……シェヘラザード・アルタイル」


「俺は天離恭二(あまさかきょうじ)。よろしくな」


 なんだか突貫で反体制組織の盟主になってしまった。だがまぁ、シェヘラザードを救えたのだから良しとしよう。

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