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背中まで伸びた髪を耳元で二つに縛り、度の入っていない眼鏡をかける。

スカート丈は膝上1㎝。濃紺の制服は今時には珍しいセーラー服だ。

聖華女子学院。ミッション系の所謂お嬢様学校。といっても生徒にとって、この制服はデザイナーズブランドと同じ。この制服を着ているだけで、ナンパ率はぐんと上がる。

清楚で純粋で女の子らしい。そんな幻想を抱く男達にとって、この時代錯誤な制服はとても魅力的に映るらしい。

学院に通う生徒達はわざわざ休みの日にも制服を着て繁華街をうろついたりもする。

我が校の誇り。そんな下心も知らずに、教師達は満足気に頷いている。馬鹿な連中。


リビングへ行き、頭痛薬の白い錠剤を飲み込む。もうこれも、気休めにしかならない。効かなくなっている所為で、最近は2時間位でまた飲まなければならなくなっている。

だから、一日中頭はぼうっとしているし、胃に負担がかかる事もわかっている。でも、酷くなるのが怖い。

あの割れるような痛みと吐き気に襲われるよりはマシだから。

寝不足の所為で食欲もない。お湯を沸かすのさえ億劫で、そのまま家を出た。


学校まではマンションから電車で10分。駅からは繁華街を抜ければ歩いて15分ほどのところ。

まだ早いこの時間なら、通勤ラッシュに遭う事も、学生達の波に呑まれる事もない。

後ろから2両目。サラリーマンが数人と、夜の仕事からの帰りらしき派手な化粧といでたちの女性達。

いつも同じ時間、同じ車両に揺られていると、大体毎日同じ顔ぶれを見かけるから、覚えてしまった。

そんな中、


「おはよう」


やさしく笑顔で挨拶を交わしてくれる男の人がいる。

今までが嘘のように大きく息ができて、私はほっとしていた。

ある日。肩にかけていたバッグを持ち直そうとした時、髪がバッグの留め金に絡んでしまったことがある。


「……痛っ」

「ああ、動かないで」


そう言って、その人は丁寧に髪を解いてくれた。


「すみません、ありがとうございます」

「綺麗な髪だね。あっ、ごめん。こんな事を言うとセクハラだって思われちゃうな。わたしにも娘がいるんだけどね?ほら、最近の子達って、皆髪を染めているだろう?うちの娘もそうだけど、君みたいにまっすぐで綺麗な黒髪の子って久しぶりに見たから」




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