第10話


「陸路でフリータール王国まで行くとなると、半月以上はかかるね」


 天候が晴れで落ち着いていればいいが、そうもいかない。人目を避けて、深層の森に入る手もあるけど、まだ慣れてない世界では悪手あくしゅだ。


『それならば、吾輩が飛ぼう』


 ん?吾輩が飛ぶ・・


「ジョウ、どうやって飛ぶおつもり?」


 聞きづてならない言葉に、私は質問する。私はまだ死にたくない。


『あぁ……吾輩には翼がある』

「にゃにおぅ〜!?」


 バサッと背中から広がる綺麗な黒い翼。太陽の光に反射して、キラキラと輝いている。


「聞いてませんけど?」

『言っておらんかったからな』


 シレッとしてるけど、何故そんな大事な事を黙っていたぁ!?……だがこれで、私のもふもふ空の旅の夢が叶う。グフッ。


『その不気味な笑いをやめんか』


 ブルッと身震いをするジョウは、怪しげに笑う私を半目で睨みつけた。


「私のもふもふ野望が潰えることはない!」

『さよか』


 はぁ…と息を吐くジョウを尻目に、私は楽しみが出来たことでご満悦だ。


『では、アサシード聖国とクリーク連合共和国を横切り、フリータール王国の国境付近の森に着地するぞ。あまり国境に近づいては、目立つ恐れがあるからな』

「了解!」

『明日の朝、ここを出立する。森の上空辺りを飛ぶが、クリーク連合共和国付近で、一旦休憩を入れる。野営をどうするかは、その時に決めるぞ』

「了解!」


 地図は便利だけど、地球みたいな縮図ではないから、距離が分からない。

 現地の人なら、大まかな日数は把握しているだろうけど。とにかく、飛んでみないことには分からない。


『今日は、聖域の生息地のみの薬草、植物らを採取してみたらどうだ?』

「それもしてみたいけど、移動中のお手軽ご飯も吟味しにゃくちゃ」


 やることは一杯だ。

 さぁ、頑張るぞ!


「食パンがあるか。卵とハムとチーズとレタスもあるから、サンドイッチにしよう」


 一応、三泊分くらいの軽食を見繕わなくては。


「ジョウは、紅茶飲む?」


 インベントリのリストを見ていると、懐かしの調理器具の名が目に入った。


『嗜む程度だが、嫌いではない。どうした?』

「ワッフルメーカーが出てきてさ…どういう原理か、ミキサーもあるしにぇ。朝食や昼食に、ワッフルはいかが?」

『たまになら洋食もいいが、和食が好みだな』

「了解!和食も作るよ」


 さっきの私のサンドイッチ発言が、しっかりと耳に届いていた模様。食いしん坊め。奴の二つ名は、食いしん坊だ!


「直ぐに食べるなら、おにぎりかな?おやきも捨てがたい」

『我輩は、焼きおにぎりが好きだな』

「ヘイホー」


 私が料理に迷っていると、さりげなくリクエストをするジョウ。全く……仕方ないから、作ってあげるよ。おやきのついでにね!ジョウへ適当に返事をした私は、未確認事項を思い出す。


「そうだ。お金や服にゃんかも見ておかにゃきゃ!」


 私は、リストボードを指で操る。スマホみたいに指一本で操作可能だから、便利便利。


「お金は大金貨が五枚五十万に、金貨三十九枚三十九万銀貨が五十枚五万円銅貨も五十枚五千円、鉄貨も以下同文…九十四万五千五百円。私、一ヶ月のお金って言ったよにぇ?多くにゃい?……ガイア様の計らいとして、ありがたく受け取っておこう!」


 用意してもらったものを突き返すのは、失礼だしね。それにしても、お金もびっくりだけど、私の服も上等品だよね、これ。


 今着ている私の服は、着心地の良い白いブラウスと、襟はバイス色のネールカラー立襟だ。立襟の種類は多様だが、ネールカラーは、襟の上部が丸みを帯びている。袖口は、襟と同じバイス色だ。

 襟の付け止まりからは、ピンタックが綺麗に揃って施されている。胸部全体には、ピンクの花の刺繍が施されている。この花はレウィシアと言って、女神ウルシアの神花なのだが、ミオは知る由もない。

 ズボンは膝丈のシフォンキュロットだ。七分丈の黒いスパッツを履いている。

 靴はフラットな靴底に、くるぶしあたりで一度折り返している黒ブーツである。かかとには可愛らしい幅広の布リボンが縫い付けられている。

  

「肌触り、着心地共に最高!私ってば、愛されてる?」

『調子に乗ると、痛い目をみるぞ?何事もほどほどが一番だ』

「分かってるよぉ…ちょっと浮かれただけじゃん」


 それが調子に乗っているんだが、ミオは気づいていない。


『はぁ……明日の朝に出発なんだから、困らないように用意するんだぞ』

 と言っても、インベントリに放り込めば、後はカバン一つのみ。異世界において、これほど楽な旅路は、ミオと少数のスキル持ちぐらいだろう。


「はぁい」

 と返事をしたミオ自身も、(インベントリに仕舞うだけだしな。勝手にリスト分けしてくれるし、ファンタジー万歳!)と思っていた。


「ご飯が炊飯器で炊けるのを待つ間に、調味料の準備!お醤油に、バターも!サンドイッチの材料は、さっきのレタスたちの他に、マヨネーズも欲しい。ワッフル用に、ホットケーキミックスに牛乳、卵。カボチャも忘れずに!」

 

 ジョウは、見かけ通りにたくさん食べるから、準備が大変。調理台の机の上に、食材がずらりと並んで圧巻である。


「さすがにぇ。これだけにゃらべば、見応えあるわ。さて、レタスから切り始めますか」

 

 ザクザクと小気味よい音が、森に響いた。


『ミオが、料理が出来る人で良かった。獣化の時は生肉でもいいんだが、さすがに毎日だと飽きる。料理された食事の飽くなき魅力の塊よ』


 ジャンキーみたいな思想だな。

 惚れ惚れとするジョウに、食いしん坊はこれが原因かと納得する私。作り甲斐があるが、如何せん手が小さい!


 包丁を果物ナイフみたいな小型に変えようかな?街に行けば、鍛冶屋があるよね?是非、覗いてみよう。


 ご飯の準備に時間が取られて、結局採取はお預け。

 落ち込む私に、『街での生活に一段落すれば、聖域に連れてこよう』とのジョウの言質を取り励ましで、元気復活!

 

――――


 かくして、やっとこさ出発出来る段取りが整ったのだった。

 

「いざ、参らん!フリータール王国へ!」


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