人呼んで、イケメン令嬢。

人見 弓/ビーズログ文庫

序章 どうして私がこんな状況に!?


 ニコラ・ミグラスは身動きがとれなかった。

 背後にはかべ

 すぐ目の前には、今朝初めて出会ったばかりの

 ニコラにおおかぶさるようにして壁に手をつく彼――ルーナを、ニコラはただただ見上げることしかできない。

 はやがねを打つどうは一向にしずまらない。ニコラのみちをふさぐかのような彼のりょううでの間におさまって、彼の目を見ていると、頭のしんがぼうっとなってくる。


「顔赤いけどだいじょう? この国の夏は慣れてないときついからね」


 ルーナの大きなてのひらを額に当てられて、ニコラの頭はますますのぼせた。

 気候のせいばかりではない。全身が熱くて今にもたおれそうなのは、間近にある彼のしっこくそうぼうのせいだし、じっと注がれ続けているまなざしのせいだし、耳をくすぐるささやごえのせいだった。


(どうして、私、こんなところにいるんだっけ……)


 ぼうっとかすむ頭でニコラは思う。

 目の前に居るのは、異国の騎士。外からし込んでくるのは、異国のきょうれつし。

 ニコラは自分が今なぜここにいるのか、どこにいるのか、いっしゅんわけがわからなくなる。


(私は……)


 ニコラ・ミグラスが、なぜ異国の地で、こんなことになっているのか。

 そもそものほったんは、初夏のころい込んできた、一通のふうしょだった。


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