未来よ、夢占いよ、凄惨す。

Haika(ハイカ)

プロローグ

※残酷なシーンが含まれています。閲覧の際はご注意下さい。




 大海原に浮かぶ、一隻の大きな船。


 豪華客船の舳先へさき、小さな雲をかき分ける様に、視界が鮮明になっていく――。


 「はぁ」

 園田台地は、わずかに呼吸を震わせた。

 少しだけ、空気が寒く感じた。


 舳先に立っているのは、若い女性だ。歳は十代後半、くらいだろうか?

 黒い髪を、ゆるめのツインテールにまとめている、細身で白い肌の女性。

 彼女の表情は、どこか儚げだ。


 台地は、眉間にしわを寄せた。

 さらに、その女性の周囲を見入る様にしかめる。

 ――人が、倒れている…?

 台地の推測通りであった。女性の足元には、人が四,五人、うつぶせに倒れているのだ。


 人はみな、誰かは知らないが、全身血まみれになっていた。

 明らかに、ツインテールの女性を除き、誰も息をしていない。死んでいる。

 ――もしかして、あの女性が殺したのだろうか?

 いや、違う。彼女は返り血も、凶器らしきものも所持していないのだ。ずっと舳先に立って、前を見続けるのみ。

 足元に死体が転がっているなど、まるで気づいていないようである。


 台地は、自然とその女性へと近づいていた。

 地に足は、ついていない。

 だけど、それはズームするように、女性がいる方向へと引きずり込まれていく…。


 「まって」

 台地が戸惑い、そう声に出しても、ズームは留まることを知らない。


 そして遂に、女性の横顔へと到達した。

 女性は振り向いた。

 わずかに微笑んだ… 不気味だった。


 その目は両方とも、くり抜かれ、真っ黒な穴の中から血の涙を流していた――。


 ――――――――――


「はっ」

 台地の夢は、そこで終わった。


 目が覚めると、まだ見慣れない部屋の天井。

 ピカピカに磨かれたフローリングの上に、直で布団を敷き、その上で寝ていた。

 時刻は、朝七時。枕の横に充電コードを挿したまま置いていた、スマートフォンのアラームが鳴ったことで、台地はそれに起こされたのであった。


「だいちー。今日から学校でしょう? 朝ご飯よー」

 母・梨絵の声が、遠くから響いている。


 ――なんだったんだ。あの夢は。

 台地はぽきぽきと、関節を小さく鳴らしながら、布団から伸びる様に起き上がった。

 嫌な夢をみた。

 彼は、ただでさえ睡眠の質が悪い。なにせ一回の睡眠が一,二時間ほどで終わってしまう。それでもまだ眠いから、何度も寝ては、本腰をあげる起床時間までに体力温存を図る。

 最近は、そんな生活の繰り返しだ。これは、場所や環境が変わっても同じか。


「それじゃあ」

「いってらっしゃい。友達を連れてくるときは、せめて静かに入る様に伝えなさいよ」

「はぁー、わかってるよ。今日もビデオ会議なんだろ?」

 母・梨絵に玄関前で見送られながら、台地はそうため息交じりに家の外を出た。

 首都圏の住宅街でよく見かける、三階建てのアパートの一室。

 そこに、台地は梨絵と二人で、最近引っ越してきたばかりである。台地が着用している紺のブレザーが、その真新しさを物語っていた。


 こうして徒歩で辿り着いた先は、ごくありきたりな高校。

 “にじわたり学園”。

 その華やかそうな名称とは裏腹に、遠巻きで見る各校舎は至って地味な、薄灰色の外壁をしたまさに「豆腐建築」のそれであった。


 敷地内に設置されている自転車置き場は、軒の一部にスプレーで落書きがされている。

 生徒の一部は、制服を大いに着崩し、いかにも不良そうな印象を受ける。

 治安はよろしくないようだ。

 だけど、みんな髪の色だけは「黒」。染毛の子は、ほとんど見かけない。

 なるほど、無駄にそういう所だけ校則の厳しいブラック底辺校だと、台地は予見した。


 ――別に、自分はあそこまで目立とうと思わないからいいけど。本気で芸能人を目指しているんじゃあるまいし。


 と、台地は小さく溜め息をつく。

 そうだ。わざわざ高校デビューのような事なんかしなくたって、一般生徒の模範と同じように振る舞い、普通に過ごしていれば文句はいわれないし、自然と彼女も友達もできるだろう――。という考えで、彼はこの高校生活を何事もなく送れると見込んでいた。

 こうして、彼は申し分程度に緑化されたその校舎へと、足を踏み入れていった。




 まさかこの学園で、あのオカルトかつ奇怪な部活に勧誘されるとは。

 この時の台地は、全く想像すらしていなかった――。


(第一章 起 へつづく)

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