瞬殺だぜ! 敵襲
「黒陰族、魔瘴族、骸供族……!」
姿を現した三人組は、なんと違う種族で徒党を組んでいた。
「ひょっとして残党勢力ってこいつら?」
「はい……いずれも制圧した地底種族です。でもまさか、それぞれが手を組んでいたとは……」
ふぅん、確かにこの世界のルール的には種族同士で同盟とかは成り立たないように思える。だが、シャーリーから聞いた地底の情勢。冥葬族の一人勝ち状態ともなれば話は変わるんだろう。共通の敵である冥葬族を倒すために一時的に手を組む理由は十分にあるように思える。
「片方は冥葬族だが……二匹とも女だ……! 殺すなよ……!」
「分かっとるわ……! それより、二匹とも我ら骸供族が頂く……!」
「はぁ? こんな上等な孕み袋をみすみす渡すわけないでしょ……!」
男、爺、女。三人でぐへへの話か? と思ったが、汚い欲望の発露にしては……こう、必死さに少し違和感がある。
「こっちはもう聖地も消えそうってくらいしか残っていないっていうのに……!」
「黙れ! 誰のおかげで冥葬族に対抗できていると思っとる……!」
「聖地の収容人数にも限りがあるだろう……! もう骸供族の聖地には十分に捕らえた冥葬族の女を供給したはずだ……!」
ギリィ、と側で音。シャーリーが歯を食いしばる音だ。まるでもう勝っているかのように話している三人組に、彼女は静かに怒っている。
それはそれとして、今の話とこれまでの情報で奴らの思惑は見当がついた。聖地、という単語が初見だが、これがもし地底に残った彼らのなけなしの土地だというのなら説明がつく。
ヒョウヤは『敵の種族が減れば減るほど敵のルーツは弱まり、自分のルーツが土地に浸食して広くなる』と言っていた。つまり、種族の生命線=起源書の影響範囲=頭数ということ。そして、『どんな種族の親でもこの場所で子供を産めばその子供は焔精族になる』とも言っていた。要するにこれは、場所さえ気をつければヒョウヤのような混じり者が生まれる可能性はないし、ハーフの心配もしなくていいということ。
この情報を踏まえると、このテロリスト共は聖地……辛うじて残った自分たちの土地で攫った敵の女に自分の種族の子供を産ませ、頭数を確保して体制を立て直す、そういう魂胆らしい。一人産ませた時点でプラマイゼロ、壊れたら殺せばいい……うーん、説明はつくか。
……終わってんなぁ。ぐへへとどっちがマシなんだか。
「……《冥閻の利鎌》」
「っ! こいつ巫女か……!」
シャーリーが、怒りを滲ませた声で祝詞を呟く。《冥閻の利鎌》。俺がここに逃げてくるのに使った祝詞と同じ一節。ということはつまり、リュッケはシャーリーのルーツとなっている起源書を読んだことがあるのか。
「《死の生誕》《リーパーサイズ》!」
シャーリーの手元に、いかにもTHE・死神な鎌が現れる。祝詞で武器とか出せるんだなぁ、とか思っていると、三人組の二人が慌て出す。
「ど、どうするのよ! 巫女なんて……!」
「案ずるな! 見習い一匹くらいなら問題はない……! 《呪骸》《縛骨》《骨兵》!」
対抗するように、爺が祝詞を発動する。地中から骨が出てきて、どっかで見たようなスケルトンが形成される。あ、もしかして俺とシャーリーが狙われたのってさっきアレに俺が見つかったからだったりします? やっべ。
「やっ!」
戦闘開始。懸命に鎌を振るうシャーリーの攻撃は、しっかりと命中する……が、スケルトンは一時的に崩れるだけでまたカタカタともとの形に戻ろうとする。加えて、爺は同じ祝詞を繰り返し使用して同じスケルトンを量産している。爺以外の二人は祝詞が使えないのか、普通の武器を持ってこちらを囲んだままだ。俺じゃなく、骨に手こずるシャーリーを警戒しているように見える。
「ハハ! 冥葬族の下劣な力も既に死した存在には無意味よ!」
「く……!」
鈍いし力もないとはいえ、徐々に増えていくスケルトンに押されていくシャーリー。爺の得意げな口ぶりからして、創獣族が焔精族にしたように冥葬族に対して何らかのメタを張っているらしい。
「早く喉を潰せ! それで巫女は終わる!」
「わかっとる……!」
……うん、まぁそろそろかな。リュッケさんや。存在力……だっけ? 奢ってくれます?
──一々聞かなくても、アタシが必要だと思う時には貸してあげるわ。でも、アンタの私欲だったり間違った道に進もうとしたときには貸さない。そう思っておいて。
おっけー。一応聞くけど、今回は?
──貸すに決まってるでしょ! 暴れてきなさい!
「よし……!《いかづちのさえずり》!」
「なっ……!」
「アイツも巫女だと……!?」
驚愕、絶望。そんな文字を顔に浮かべる敵を嗤い、同じく驚いているシャーリーに笑いかける。心配しなくても勝ち確だ。
「《飛燕の電光》《迅閃》!」
暗闇の世界で、青く輝く電撃はよく似合う。この場の全員が似たような感想を抱くが、敵にとっては人生最後の情景だ。
──閃き。唯一生き残った観測者であるシャーリーですら、青い光が敵のいた三点を経由した図形を描いたという結果を、全てが終わってから認識したに過ぎないだろう。現に、血飛沫が遅れて噴き出すまでシャーリーはフリーズしていた。
TUEEEEE! 《迅閃》つえー! 電撃を纏って超加速した俺は敵三人の心臓を一瞬でぶち抜いたのでした。つえぇ……実質千鳥なだけはある。すまんヒョウヤ、これ使えてなんで青雷族は負けたんや……?
ふぅ。にしても、相手が悪かったな。カモのつもりで地雷踏んだのはマジ同情する。そもそも、コイツらの悍ましい計画だって冥葬族が侵略の過程でやらなかった保障はない。やられたことやり返してるだけかもしれないんで、コイツらだけがイカれてるとは言い切れない。まぁそれでも、俺は常に手の届く美少女の味方だから。お疲れ。総括するとやっぱり運が悪かったな、だ。
「やっぱり……神様……」
「あー……またそれ?」
ようやく再起動したらしいシャーリーは、恍惚とした表情で俺を見つめていた。うーん……悪くない。ていうか気持ちいい部類の視線だったが、それはそれとして何を以て神様なのかは気になる。
「さっきからどういう意味なんだ、神様って」
「別の種族の祝詞を使うなんて、見たことがありません」
「……まぁそうかもだけど、祝詞を見る前にも神様だって言ってたじゃん。なんでそう思ったん?」
「それは……ハナビさんがあまりにも……」
「あまりにも?」
そこで一旦言葉を切って、シャーリーは鎌を消して俺の方に近づいてくる。そして、密着寸前の距離にまで迫って来たかと思えば、屈んでその鼻を首筋に擦りつけてきた。
「あまりにも……死の匂いが、濃厚だから……」
「……」
うーん、ちょっと中二な子なのかな?
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