出会いだぜ! 今度こそ勝ったな(確信)
「ちな、これって食える?」
「は、はい。ハーデスの実ですね、おいしいですよ!」
「それダメな名前じゃん……」
唐突にこっちを神様認定してきた少女は、ひとまず友好的なようだった。無論、美少女な時点で俺の方は手加減を余儀なくされるので戦闘はなんとしても避けたかったので非常に助かる……のだが、彼女が友好的な理由は未だに不透明だ。いっそ、嘘ついて「はい、私がハナビ神です」ムーブをかまし全力で保護されに行った方が良かったかね? 相手の信仰につけ込んで美少女に接待されるのも悪くは……いや、やっぱり後が怖いな。
そんなわけで、謎の果実に関しては現地民のお墨付きで食用なことが判明したが、はっきり言って全く信用できない。彼女の悪意を警戒しているというわけじゃなく、眼前の少女は格好や言動からして間違いなくこの土地の起源書をルーツに持つ種族であるわけで、彼女たちが大丈夫だから俺が食っても大丈夫だとはならない。キヌたち焔精族だって毛先に陽炎みたいなのを出す謎体質を持っていたわけで、種族で身体の中身まで違う可能性が否定できない。
まぁそのようなことをハーデスの実をもぎ取ってから色々考えてみたわけだが、俺は結局判断を保留にして別の話題を選んだ。
「それでお嬢さん名前は? 種族は? てか彼氏とかいる?」
「じ、自分は冥葬族の見習い巫女、シャーリーって言います。彼氏とかは……いません」
「おぉ~」
──鼻の下伸ばすな。
しゃーないやんかわいいんだから。見たところ、十五くらいの美少女である。キヌはもっと幼かったのでこれくらいの歳の子は新鮮だ。あ、そうです。キヌもハナビちゃんもロリです。いつも無駄に大人びたヒョウヤと知能高めの会話をしていたんで忘れそうになるが、俺やキヌたちは中学入ったかどうかくらいの年齢である。多分。
「あ、俺はハナビ。迷子な」
「迷子……」
行動指針も道もな。まぁ、それはそれとしてシャーリーの見習い巫女って部分は気になる。例を焔精族しか知らないが、要するにそれって軍人ってこととニアリーイコールだろう。たまたまシャーリーだけが俺に友好的なだけで、もし仲間と合流されたら普通に戦闘になる可能性がある。とはいえ。
リュッケの起源書を探すんなら、各種族が起源書を保管してる書庫を漁るのが一番早いように思う。違うか?
──一応覚えてたのね……たしかに、それができるなら一番早いかもしれないわ。まさか、バカ正直にこの子に案内してもらう気?
はい。できるならそれが最善じゃん?
──……自分で分かってるでしょ? 冥葬族がどういう手合いかも分からないんだから、危険よ。
えー、やだやだやだ! シャーリーと一緒に行ってお近づきになるの!
──結局本音はそれか!
「で、迷子として聞きたいんだけど、シャーリーはここで何してたの?」
「実は……その、自分も迷子でして……本当は任務中なんですけど」
「任務? それって見習い巫女としての? 内容は?」
「はい。見習い巫女数人で残党勢力の掃討任務をしていたんですが……気づいたら一人で……」
何でも喋るなこの子……彼女がポンコツなのか、さっきのカミサマ認定が絡んでいるのかまだ分からないが、とにかく情報が欲しい今は助かる。
「残党勢力ってのは?」
「自分たち冥葬族は、他の地底種族を殲滅して地底を制覇したんです。でも……まだ残党が残っていて、小規模ながらも突発的に被害が出ていて……」
「お、おう……」
つまり……あれか? ここ地底でも血で血を洗う殲滅合戦が盛んだったが、シャーリーたち冥葬族が生き残り地底の土地全てを手に入れた。けれどもまだ生き残りがいて、そいつらがゲリラと化して冥葬族に局所的な被害を与えている、と……たまげたなぁ。
「その残党勢力が見つかったということで、そこを攻撃するために自分も招集されたんですけど……はぐれてしまい……」
「た、大変だったねぇ……」
任務の内容、テロリストの皆殺しかぁ。なんか、割とガッツリ戦争だな……さすがの俺も戦争法もクソもない地獄は未体験のステージだ。正義なんてあったもんじゃない。いや、俺も平気で正義に唾吐ける側の人間だけど、どこにも見当たらないとなると寂しいっていうか、思うところがあるな正義くんよ……。
「あー、ところでさ。地底って水とかあるの? 雨とか降らないっしょ?」
「大きな川がいくつか流れています……薄々気づいてましたけど、それを知らないって事は……やっぱり、上の人……」
「あーうん。落ちてきた」
これはワンチャン敵認定か? と警戒して、思い切って持ったままだったハーデスの実に齧り付く。逃げるならさすがに胃になにか入れなきゃ死ぬ、という判断だ。結果は……おいC。結構水分もあっていい感じだ。……もう地上戻れないねぇ、なんてならないでくれよな~。
「……偵察ですか? もしそうなら、自分は見習い巫女として……」
「あー、いんや? 追われたから逃げてきたんだよね。俺自分の種族も分かんないし」
言葉ではなんとでも言える。正直に答えたけども、信じて貰えずに戦闘になる可能性を見越して警戒する……が、俺の予想に反してシャーリーは目を輝かせた。
「じゃあきっと! ハナビさんは自分たちと同じ死に縁がある種族ですよ!」
「縁起わっる……え、褒め言葉のつもりで言ってる?」
どんな価値観してるんだこの子は……まぁ……普通よりは経験が多いかもしれないけどもね?
「っ……!」
「? ハナビさん?」
「《鉄と正義と》《装鋼》《サーモレーダー》」
「っ! 祝詞……!?」
勘。そうとしか言えない部分の警鐘に従い、索敵。悪い予感は的中し、こちらを囲うように三人。人がいることを感知した。これは……こちらを狩る立ち回りだ。いやー、《サーモレーダー》は便利だなぁ。これで第一階梯なんだからコスパ最強だなぁ。
「シャーリー。囲まれてる。三人だ。仲間か?」
「え……違う、はずです……」
「オーケー」
幸か不幸か、シャーリーにも心当たりがないらしい。つまり、共通の敵。ひとまずシャーリーと敵対することにはならなさそうだが、それはシャーリーに危険が及びかねないという意味でもある。
しゃーない、一肌脱ぐか……! 俺、未だに死にかけだけど!
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