これからだぜ! 新たなる戦い!
「……」
見知った天井だ。つまり、夢だな。
なんてったって、これは前世の景色だ。窓すらなくて見渡す限り真っ白の無菌室。徐に自分の身体に触れる。そこには確かにぺぇがあった。
うーん、となるとやっぱり転生してから全部夢でしたwみたいな展開ではなさそうだ。
「おはよう」
「あっ、どうも……」
知らない女の子が挨拶してきたもんだから、反射で返事をする。ちゃんとソプラノボイスが喉から出た。良かった良かった。
それは置いておいて、見知らぬ女の子は気が強そうな鋭い目つきをしていた。キヌとは真逆っぽいタイプに見える。かわいい。ちょっかいかけたい。
「そんで、ここは一体?」
「アンタの心の中よ。この景色も、アンタの記憶が表出してる」
「あー道理で……」
俺の記憶がもとになっているんだから、見覚えがあるのは当たり前……か。まぁ納得はできるんだけど、嫌だな。それじゃあまるで俺の心が未だにこの部屋にあるみたいじゃん。
「じゃあどちら様で? ひょっとして俺を助けてくれた声の人?」
「そうよ。感謝しなさい。祝詞を教えるだけじゃなくて存在力まで肩代わりしてあげたんだから!」
「存在力……とは?」
「知らないの? ……って、この知識はほとんどの種族で失伝してるんだっけ」
どうやら彼女が絶体絶命の俺に死やら冥やら物騒な祝詞を教えてくれたお方らしい。口ぶりからしてめちゃくちゃ物知りっぽい。今までありがとうヒョウヤ。俺は最高のブレーンを見つけてしまったようだぜ。
「存在力っていうのは、祝詞を使う度に消費していくもので……普通に生きてて回復することはないわ。アンタ、アタシと繋がらなかったらもう死ぬ寸前だったんだからね!」
「え、まぢ? MPとかHPとかじゃなくて寿命支払ってた感じ? こわ……何から何まで助かるわ~」
存在力、って概念はヒョウヤが言ってた巫女は早死にするって話や俺の実体験とも合致する話で、信憑性は高いように思える。……となると、巫女になるらしいキヌの背中を押したのは失敗だったかもしれない。イヤ、キヌ自身が短く太くな生き様を望むのであれば口を挟む義理は全くないんだけども。
「……ん? 今繋がってるって言った? ひょっとして、俺とキミってもう魂レベルで繋がっちゃった感じ? うぇへへ……ちょ、ちょっと困るよよく知らないのに……もっと仲を深めてからじゃなきゃ……ね、深めようよ仲。絆育もうよ。ってか名前は? 俺のどこを好きになったん?」
「寄るな! キモい!」
「へぶっ!?」
「アタシ、アンタの前世知ってるんだからね! 現実みたいにその無駄にかわいい顔で騙せると思わないで!」
「アッ……すんません……」
バレテーラ。俺の記憶の景色の中にいるってことは、そりゃ色んなとこ覗かれていてもおかしくはない。……でも、全部見られているとするならば。
「全部見た上で、注目するところが男だったことなんだ」
「……別に、色んな人生があるでしょ。アンタだけ特別だったなんて思い上がりは捨てた方が良いわ」
「おぉぅ、良いこと言われた」
彼女は、俺の前世を肯定も否定もしなかった。ま、超つまんねー話だし、慰められても責められても困るから、一番ありがたい対応だ。
「それで? 名前となんで助けてくれたのかくらいは教えてくれてもいいんじゃない?」
「名前は……とりあえず、リュッケ」
「とりあえず?」
「……私、記憶がないの。アンタにはその手伝いをして欲しくて」
「ほう……あるあるですな」
「うっさい……自分でもちょっと思ったけど」
リュッケちゃんは記憶喪失らしい。それにしては知識量が多いようにも見えるのだが、どういう事情だろうか。
「アンタにしてもらうことを説明する前に、起源書について知ってもらうわ。ほい」
そう言ったリュッケちゃんが足で床をつつくと、景色が切り替わる。地球儀に、望遠鏡に、本棚。なんだか神秘的だ。
「これ……起源書か? あ、『いかづちのさえずり』じゃん」
「ここにあるのは、アタシがここに囚われてから入手した起源書と、アンタが最後まで読んだ起源書があるはずよ」
「なるほど……で、起源書って結局なんなんです? なんで日本語なんです?」
「起源書は、ある男が力を使って異世界の出来事を物語として写し取ったもの。言語がアンタの世界のものなのは、そいつがアンタと同郷だから。……でも、そこに意味はないわ。この世界と起源書を使って悪巧みしているのは全くの別人で、起源書の著者はもう死んでいるから」
「ほーん……?」
まず、こっちはそんな世界の黒幕がいるみたいな話が初耳なんですが。まぁ、なんで日本語なのかは分かったので良しとしよう。すっきり。
「ま、そんな陰謀は二の次。アンタにはアタシのことが書かれた起源書を探して欲しいの。この世界のどこかに、必ずある」
「え、それを読んで記憶を取り戻そうってこと? っていうかリュッケちゃんの起源書があんの?」
「言ったでしょ。起源書に書かれた内容は全部現実に異世界で起きた事実。アタシは死後にその本を通じて呼ばれたの……そのはずなのに、アタシには記憶がない……」
「だから、その本を手に入れて欲しい、と」
「手伝って、くれる……?」
縋るように、俺を見つめるリュッケ。そんな目で見なくても、答えは決まっている。
「もちろん。なんでもするよ」
「本当!? 良かった……やっとこの文字が読める個体が現れたから、もうチャンスは二度と来ないんじゃないかって……」
「いやー、そりゃこっちも同じだって。命助けて貰っちゃってさー、これでおっさんから借りを作ってたらどうしようかと思ってたんだわ。でも美少女からの借りならオールオッケー! むしろ縁だと思って借りて借りて借りまくるんでよろしく!」
「……」
「あ、あとさ、これって寝た後にいつでも会えるって認識でおけ? だったらさぁ、毎晩夢の中で仲良く濃厚接触したいんだけど、それぐらいの頼みは──」
「やっぱキモい! 死ね!」
「ゴフッ!?」
リュッケに殴られ、俺は夢の中で気を失った。夢の中で気を失うってなんだ。
―――――――――――――
「はっ!?」
と、目覚めたら夢での記憶が曖昧になるなんてことはなく、俺はリュッケに殴られるのとほぼ地続きで目が覚めた。周りを見れば……いやなんも見えん。
「いや暗……どこだここ」
──地底よ。アンタに教えた祝詞で、ここに避難したってわけ。
「うお、リュッケの声……って、避難できてなくね? やっぱり俺助かってなくね?」
身体のうちから、リュッケの声。どうやらいつでも会話ができるらしい。グッバイ孤独。俺はもう一生一人じゃないぜ。
地底。起源書、リュッケの記憶。分からないことだらけだが、どこか気分が清々しい。こう、新しい冒険の始まりって感じで。
「まぁでも……とりあえず歩くとしますかね」
──ねぇ、一つ聞きたいんだけど。
「なに?」
──アタシの目的に付き合わせちゃったけど……アンタは……キヌって子のこと、いいの?
「ふ……俺なんか忘れてアイツは立派になるよ。心配はしていない……そして、俺も恋多き身……過去は振り返らない……!」
──あぁそう……アンタが良いなら良いの。
「あ、リュッケちゃんどう? 新しいカノピに……」
──アタシ、もう黙ってる。
「え、あ……」
そして、聞こえなくなるリュッケの声。
うーん……今度からちょっかいを減らすようにしよう!
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