TS転生した上に美少女の幼馴染までついてきたぜ! 勝ったな(勝っていない)

鐘楼

転生したぜ! 勝ったな(確信)

 転生したぜ。しかも念願の美少女ボディなもんだから、ちょっと前まで「あ~ここが天国ね? 把握把握」と思っていたわけだけど、どうやら違ったらしい。なぜ夢から醒めてしまったのかと言えば、割と苦労することが多いからである。例えばまず、言語。宇宙人のお言葉ですか? もう全く聞き取れない。赤ん坊のそれとは比べものにならないくらいカチンコチンの脳みそでなんとか適応しようと努力したが、当然言語習得は遅れた。それでも鏡に映る幼女をモチベに頑張っていたのだが、それが奇行に見えたのか周囲から避けられる始末。


 いや、避けられるのはそれだけが原因じゃない。今世の俺には親がいないらしく、孤児院的な場所で他のみんなと一緒に暮らしているのだが、そこで見る子供達、大人達、彼らの共通の特徴を私は持ち合わせていないのだ。


 ここに暮らす人達はみんな白い髪に毛先がろうそくの焔のように揺らめく謎種族なのだ。俺はと言えば、未来の美貌が確実視されるくらいには美少女なものの、普通に黒髪だし不思議特徴もない。


 孤児院? 孤児寺? のお兄さんお姉さんが露骨な差別をしてくる素振りはなかったが、見た目の違いというのは地球でもどうしようもない隔たりの一つであり、理屈を知らないおこちゃま達では尚更だ。


 というわけで孤立しました。いじめっぽいマネにはさっさと反撃して未然に防いだものの、余計に避けられるようになった気がするぜ。ま、いいけどね! ガキに混ざってもしょうがないもんね! ……とか強がっていたのも今は昔。


 「……は、ハナビちゃん。ありがと、また助けて貰っちゃって……」


 やったぜ。


 紹介しよう、カノピ(一方的な認定)のキヌちゃんです。あ、ハナビは俺の名前だぞ! 多分名付け親は保母のお姉さんである。


 「良いの良いの。またちょっかいかけられたらいつでも俺を頼ってよ。キヌの為ならいつでも駆けつけるからさ」

 「ハナビちゃん……!」


 クソガキ共に絡まれて瞳を潤わせていたキヌが、心底安心したのか俺に思いっきり抱きついてくる。かわいい。すまん、やっぱここ天国だったわ。


 冗談は置いておいて、気の強い俺を敬遠したクソガキ達は気弱なキヌに絡むようになったらしく、そこに割って入ることで俺はキヌというカノピ(一方的な認定)を手に入れたわけである。


 それからというもの、俺とキヌはニコイチべったりな日々を送った。


 「私、ダメだなぁ……ハナビちゃんに助けて貰ってばっかりで」


 そんなことないよぅ。キヌは生きてるだけで百点だよぉ。


 「えへへ……私もハナビちゃんの黒い髪、好きだなぁ」


 分かる~、代わりに俺にもキヌの白い髪触らせてぇ~。


 「みんな酷いよね。ハナビちゃんのこと何も知らないのに……」


 お、おう。まぁそれはね? 向こうは子供だしね?


 「でも、ハナビちゃんの良いところを知ってるのも私だけなんだよね。それは……嬉しいな」


 そっかぁ。キヌが嬉しいなら俺も嬉しいゾ!


 「……ハナビちゃん。私ね? ハナビちゃん以外は何もいらないんだよ? ……ずっと一緒にいてね」


 ……重くね? まぁかわいいからいいか……。(思考停止)


 「そうだねぇ。ずっと一緒にいれたら、まぁそれが一番だねぇ」


 俺の返答に満足げに揺れるキヌの頭を撫でる。キヌで初めて知ったことだが、キヌのようなここの謎種族さんたちは体温が高い。毛先の揺らめきといい、やっぱり火に縁があるんだろうか。


 そんなわけで、日に日に重くなっていくキヌとのイチャイチャデイズを俺は満喫している。キヌはここの和風テイストな民族衣装が似合う儚げな美少女なわけで、そんな彼女とずっと一緒にいられるなら、まぁそれもいいなぁ……と思う俺であった。ま、村社会の臭いがプンプンなこの場所でそれが許されるのかどうかは怪しいもんだけど。


 だが、転機は訪れてしまう。その切っ掛けの一番初めは、孤児寺に付き人をたくさん従えた綺麗な女性が訪れたことだった。


 彼女は相当に偉い人らしく、この場に来たのも視察? 的なサムシングっぽい。まぁこのお方の身の上などは些細なことで、問題は「巫女様がお力を披露してくださるぞ!」というお題目で集められた時のことだ。


 「《火の精の恩寵と試練》《邂逅》《恩寵の種火》」


 巫女様がそう呟くと、彼女の掌の上に現れる炎。なんか妖怪が操っていそうな、鬼火みたいな、そんなものを出して見せた巫女様に周りの見物人は沸き立つが、俺は別の意味でぽかーんとしてしまった。


 仕方がないだろう。だって日本語である。巫女様は間違いなく日本語で詠唱? をして魔法のようなものを発動したのだ。もう一生聞くことがないと思っていた言葉の響きに感動している……場合じゃない。なんだアレ。魔法があるなんて聞いていないんですが? なりたい! ぼくもまほうつかいなりたい!


 「き、キヌ……あれは……」

 「? あれって?」

 「……もしかして見てなかった?」

 「ハナビちゃんの顔なら見てたよ」

 「そっかぁ」


 ずっと俺に抱きついているキヌに詳細を尋ねようとするが、そもそも見ていなかったらしい。この子は大丈夫なんだろうか。


 ……仕方がない、他に聞ける相手……お姉さんお兄さんはいないし……一人しかいないか。

 「ヒョウヤ。ヒョウヤ!」

 「あ?」


 声をかけた相手は、キヌの逆側。そこで冷めた目で巫女様を見ていたイケメンくん。


 このイケメンくんはヒョウヤ君といい、かつてのぼっち仲間である。ふふ、悪いな、カノピ(一方的な認定)できちゃって。


 それはともかく、彼は俺と同じ除け者だ。というのも、彼の髪色は青みがかった灰色? で、みんなの白髪とは違っていて、これまた避けられている。まぁ、本人が周囲にオレに関わるなオーラ全開だったり、勉強も運動もなんでもできる天才なのもあって、ぼっち感があんまりなく孤高という言葉が似合う。俺のがぼっち偏差値は上だな!(血涙)


 「今のなんだ? 見たことないんだが……」

 「……てめぇ、そんなことも知らねぇのか」


 刺々しい反応を返すイケメンくん。これは別に俺だけを嫌っているのではなく、周りの人間全員を嫌っているが故の態度である。あ、痛い、痛いよキヌ。他の人と話しただけで締め上げるのはやめてください!


 「教えて! 頼む! 聞く相手が他にいない!」

 「……祝詞のりと、だ。巫女の扱う力。フン、後は他の奴に聞け」


 吐き捨てるようにそう言って、イケメンくんはどっかに去って行ってしまった。祝詞……いや、名前だけ分かってもな……使い方とか原理とか……なんで日本語なのかとか……巫女様に聞けば教えてくれるかな?


 「な、なぁキヌ? 俺ちょっと巫女様に話を……」

 「ヤダ」

 「あ、そう」

 「なんであんな人と話すの。あんな酷い人と……」

 「それヒョウヤのこと? や、アレは拒絶されてるのに絡みに行くこっちに非があってだな……」


 ダメそうだ。これだと、今日はもう放してくれそうにない。あ、飛びそう意識が。締めすぎ締めすぎ。苦しい、愛が痛気持ちいい。重かわいい。


 まぁ、いっかぁ……祝詞がどうとかは後々でいいかぁ……今日もキヌを愛でるかぁ……。


 その日はそんな感じで、キヌとべったりして一日を過ごした。それから、変わらない日々が続き、正直祝詞や巫女のことも忘れかけていた俺だったが、その日は急に訪れた。


 『巫女様が死んだ』


 その一報が、俺たちの日々を変えた。




【★あとがき★】


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