縦半分の世界

@UntrueHeart

第1話

 ある日、交通事故に遭った。後で聞いた話だと、2日ほど生死を彷徨っていたらしい。幸い、救急車を呼んでくれた親切な通行人や、搬送先の病院で治療をしてくれた先生方の尽力のおかげで一命を取り留め、短くない入院生活を強いられたものの五体満足で退院することが出来た。

 だけどその日を境に、僕の視界に映る物が縦半分だけになった。道行く人の身体は左半身しか見えない。遠目に見るとゆっくりけんけんしているみたいだ。ビルのほとんどは不自然に広い間隔が空いている。空が以前より広く見えて、地面の基礎が縦半分むき出しになっている。

 不思議なことに半身の断面……というか可視と不可視の境目は鉛色の被膜のようなもので覆われている。そのおかげで、人体のグロテスクな断面や建物内のプライバシーが見えてしまうことはない。

 もちろん医師に相談したが、詳しい理由は分からなかった。MRIを撮ったり、視力検査を受けたりもしたが、それらしい異常は見つからなかったそうだ。

交通事故を境にこうなったとしかわからず、検査で分かる異常もないため、暫く様子を見るしかないと言われた。

 退院してすぐは何かと不便だった。歩いていると向かってくる人の肩幅がわからず、ぶつかりそうになることが何度もあった。

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