22:もう一人の『月』
発現した神性は問わず、聖の権能を持つ神だけが参加できる集いがあると聞いた。
我ら姉妹からは二姉さまが参加しているそうな。
「ところで三姉さま。どうしてわたしは開催当日に、事後でそれを聞いているのでしょうか?」
「そんなのわたくしに聞かれても知らないわよ」
わたしにとって聖の権能とは〝聖剣〟と〝聖女〟っきりで大変弱い。他にも聖なる金属とかあるけど、その金属も所詮は〝聖剣〟の素材扱い。何ならバザールで知り合った『鍛冶』によく売れる品だけども!
聖に関する【機能】情報とか欲しかったぁ~
わたしの愚痴をうっとうしそうに聞き流しつつも、お茶を振舞ってくれる三姉さまに感謝。目線でさっさと帰れと言っているのは気づかない方向で。
そこへ突然、不死鳥が舞い込んできた。
輪廻転生の象徴でもある不死鳥の属性は、火と生命、または火と聖だ。わたしたち姉妹の中でこれを使っているのは二姉さまのみ。
要するに二姉さまからの先触れが来たってこと。
不死鳥が口を開くと、二姉さまの声が聞こえてきた。
『『権』ごめ~ん。書類忘れちゃった、届けて~』
ごめん先触れじゃなかった。ただの伝言でしたわー
伝言を聞いた三姉さまの視線は、自然とこちらへ。なにをとは言っていなかったはずだけど、分かったのはさすがです。
「さてと、そろそろ帰り……
おや三姉さま、何ですかこの手は」
「これよろしくね『月』」
手渡されたのは書類の束だった。
姉に命令に逆らえる妹がいるわけはなく、わたしは二姉さまのところにやって来た。
「うわっ『月』が来たんだ。『権』め~」
「偶然三姉さまのところに居たもので。はいどうぞ預かりものです」
「ありがと~助かったよ」
いえいえどういたしまして。
「ところでここは聖の権能持ちだけが参加できるという集いで間違いないですか?」
「まあそうだけど~
『月』にはまだ早いかな、ほら用事が終わったらさっさと帰りな~」
二姉さまにしては珍しく歯切れの悪い言い方をしたような?
しかし違和感を噛み締めるよりも早く、二姉さまの態度が豹変した。
「うわ~やばっ『月』すぐに逃げて」
「はい? 突然なんです」
「あ~気づかれたっぽい。ごめ~んしくった」
突然慌てて、自己完結。
二姉さまはいつも唐突だけど、今回は特にひどい。
どういうことかと首を傾げているうちに、露骨な敵意が近づいてきた。威圧感ではなくて敵意って不作法にもほどがある。
誰だよと
銀色の髪に赤い瞳と白い肌。そして夜を表す黒いドレス姿の女性がこちらに向かって歩いてきた。
一目見て判る。この女神は『月』だ。
彼女の神力は二姉さまよりは多く、一姉さまには遠く及ばない感じ。ならば二人目の『主』の方だろう。
「『白炎』じゃない久しぶりねぇ。
懐かしくも嫌な香りがしたから、私が直々に会いに来てあげたわ。どう嬉しい?」
「ほんと久しぶりだね~『主』神」
「ふぅんその子があなたのところの『月』? 闇だけは強そうだけど随分と矮小ね」
あちらは二姉さまをも超える圧倒的に上の存在なので、矮小なのは当然だ。しかし互いに『月』だからこそ判ることもある。
彼女の髪は青く輝く銀一色で、わたしと違って交じりは無い。その意味はわたしよりも聖の属性が強い証。まあこちらは主体が黒なので、圧倒的に闇が強いんですけどね。
そして瞳も、わたしに比べれば赤が薄く、肌だって白さが足りていない。つまり夜や死もこっちが勝っているということだ。どれだけ邪神寄りなんだよわたし……
でもそんなことは些細なこと。
その黒いドレスはなんだ?
黒地を白に変えて金斑で飾ればまるで聖女と間違わんばかりの気品あるドレス。それに比べてわたしのドレスは所々にレースがあしらわれて肌が透けるほど薄く煽情的。端的に言えば破廉恥で小悪魔のよう。
これが聖の力ですか。そうですか……くそっ。
「初めまして第八位『月』です」
「くっ第四位『主』よ」
わたしが名乗りを上げたら、二姉さまが驚いた。
珍しいこともあるもんだ。
「いい気にならないことね。闇ばかりで聖なんてこれっぽっちもないじゃない」
ぐぬっ気にしていることをずけずけと。
「わたしってば闇気質なものですみません。
でも兄貴からは、コピー品みたいな先輩方と違って、期待できると言って貰えましたよ」
「ふふっ兄貴ですって、どこの男神の話かは知らないけれど、なんて乱暴で野蛮な言葉を使うのかしら。あなただけじゃなくあなたの姉妹の品格も知れるわね」
「おっと失礼しました。
普段の癖が出たようです、改めて言い直しますね、智神『太陽』から許可を頂いて、兄貴と呼ばせて頂いてます」
「は……? 太陽神がそれを許可したというの?」
「はい。許可して頂きました」
無茶ぶりに対するやけくその結果がこれ。
これに関してはあの一姉さまでさえ驚いたのだ、驚かない訳ないでしょ。
煽りを喰らって二姉さままで驚いているのは目を瞑っておこう……
『主』の同属さんは逃げるように去っていった。
WIN!
「『月』~、悪いけど一姉さまのとこまで付き合って貰うよ」
問答無用、強制転移で拉致られた。
「座姉さま、すみません。失敗いたしました」
「『月』が二人目と会ったのね」
「ご明察恐れ入ります」
「肩が凝るでしょう。普通の話し方でいいわ。すべて話しなさい」
二姉さまが話している。
補足しようと思っていたが、二姉さまは一字一句間違いなく伝えていた。わたしも神なら二姉さまも神。この程度の芸当は出来て当たり前なんだけど、脳筋な二姉さまはなぜか出来なさそうだと思ってました、みくびっていてごめんなさい。
「そう『月』が先に名乗ったのね。
ふふっよくやったわ『月』」
一姉さまが機嫌よく笑っている。
理由は知らないけど気づかない間にわたしはファインプレーをしたらしい。
「理解してなさそうだから教えとくけど~
『月』が他の『月』相手に自分が『月』だと名乗れたってことは、神性比べで勝ったってことなんだよ」
「は? 自己紹介しただけでなんでそうなるんですか」
「はぁ~なんでウチに解りやすく伝える努力させるかなぁ。こ~いうのは『権』の役目でしょ。い~い、超お金持ちにわたしお金持ちですって自己紹介は出来ないでしょ? つまりそう言うことだよ」
「ほぅわたしは超月ですか。えへへ」
「一姉さま~」
いや待って、判ってるから。冗談だから一姉さまに振るのはやめて。
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