道での出会い

じゃせんちゃん

知らない道

「おっ流れ星だ、何か良い事でも起きるかな?」


夜遅く、1人の男が空を見ながらふらふらと歩いている。


この男の趣味は深夜徘徊、っといっても夜にいつも決まった道を散歩するだけの大した事では無い男の習慣みたいなものだ。


いつもの様にいつもの同じ街並みの景色を見ながらいつもの決まった道を進み、人気の無い静寂の中で男の歩く足音だけがこだまする。


いつもの散歩道の途中にある大きな掲示板の前に差し掛かると男はふと足を止める。


掲示板には『不審者の出没情報』や『いなくなったペットの捜索願い』などの紙が数枚貼り付けてあるが、男が足を止めた理由は他にあった。


「いつもはこの掲示板の前で別れている道を左に曲がっているけど、右の道って進んだ事が無いなぁ、偶には気分転換に右に進んでみるか」


こうして男は気まぐれでいつもと違う右の道へ歩いて行く。


いつもとは違う道を歩いているだけで、街並みの風景も変わり何となく別の街を歩いている様な新鮮気分になる男。


しばらく歩き続けると今時珍しいラーメン屋の屋台が目に入り、ちょうどお腹も減っていた男は屋台の暖簾をくぐる。


「あの、やってますか?」


「おや?こんな時間に客とは珍しいな、ウチは醤油ラーメンしか無いけどそれで良いかい?」


気の優しそうな老人が和かに出迎え、慣れた手つきでテキパキとラーメンを作っていく。


「お待ちどう、熱いから気を付けてね」


男の前に出されたはシンプルでどことなく懐かしさを感じるラーメンで、日が落ちると一気に冷え込むこの時期に湯気の立ち昇る熱々のラーメンは絶品だった。


「それにしても兄ちゃんこんな時間に出歩いてるのかい?ほら、最近何かと物騒だろ?不審者がどうこう、ペットがイタズラに殺されたりとか、俺は仕事だから仕方がないけど兄ちゃんはソレ食ったらさっさと帰った方が良いと思うよ」


「大丈夫ッスよ俺コレでも元運動部だし結構ガタイも良い方ですから、こんな男を襲う奴もなかなか居ないでしょ、オジサンご馳走様、ラーメン美味かったよ」


ラーメンを食べ終えた男は代金を払い再び散歩に戻る事にした。


「それにしても普段行かない道も新しい発見があって良いもんだな、そうだ明日からいつもなら行かない道ばかりを進んでみようかな」


こうしてこの日から男の散歩は様々な新しい道ばかりを巡るものとなり、普段は見れない風景や景色に魅了され新しい道を探して街を練り歩く。


しかし数日後、あらかた歩き回ったせいであまり大きくないこの街中では歩いた事の無い新しい道が無くなってしまい、街中のどこを歩いても見覚えのある風景で、あのドキドキワクワクした新鮮さを味わえなくなった男は悩んでいた。


「はぁ、最近どこを散歩してもつまらないな、どこかに新しい道は無いだろうか」


今夜もフラフラと街を歩いている男がため息をつきながら空を見上げると、キラリと光る星が山の方へと流れて行く。


「そう言えば新しい道巡りをするきっかけになった日も流れ星を見たっけ」


星が流れて行った山に目を向け、ある事を思い出す。


「確かあの山には封鎖された山道があったよな、あの道なら歩いた事は無いし、あの新鮮さを味わえるに違いない」


そう思った男は取り憑かれた様に新たな道を求めて山へと向かっていた。


暗い山道の入り口はトラシマロープに『危険な為、立入禁止』と書かれたボードがぶら下がっているだけで、難なく入り込む事が出来た男は足元の少し先までしか照らさない心細いスマホの明かりを頼りにゆっくりと進んでいく。


「流石に山の中は真っ暗だな、足元以外は殆ど何も見えないや」


何の準備もせずにやって来た事を後悔し、時折山道の脇から聞こえる葉音などに驚きながらも、男は新しい道を歩いている事になんとも言えない満足感や充実感をえていた。


しばらく男が歩き続けると山の頂上にある開けた広場に到着する。


ベンチが幾つか有り明るい時間であれはレジャーシートを広げてピクニックに最適そうなだだっ広い公園の様で、休憩がてらベンチに座ると街の夜景が広がっており、『100万ドル』までには到底及びもしないもののちらほらと灯のある夜景は苦労して山道を登って来た男にはそれなりの感動を与えてくれた。


「やっぱり新しい道ってのは良いもんだな進んだ先には必ず何か発見や出会いがあるんだから、それにしても次はどうしようか、いよいよ新しい道は無いぞ」


男は夜景を眺めながら悩んでいると、またキラリと光る星が男の視界の右から左へ流れて行く。


「何だか最近よく流れ星を見るな、どうせだしお願いでもしてみるか」


男は星に祈る。


『まだ知らない道に出会えます様に』


すると今度は男の視界の左から右へ光が走る。


更に右から左へ。


光は左右に往復しながら徐々に大きくなっていく。


何がおかしい。


男はハッと気が付いた、光るソレは大きくなっているのでは無い。


こちらに徐々に近づいて来ている。


慌ててその場から離れようとした時、男は眩い光に包まれた。





後日、行方不明となった男が着ていた衣服がまるで身体だけ無くなってしまったかの様な状態で見つかった。


この不可解な事件について街の住人たちは口々に噂をしている、


『男はきっと【ミチ】との遭遇したに違いない』

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道での出会い じゃせんちゃん @tya_tya_010

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