第四節 SCENE-018
「キリエ」
念話ではなく、キリエを呼ぶその声に、キリエは甘ったれた猫のような声で「うん?」と応えた。
絡みつかせた二本の腕と、真綿のようにふんわり包み込む魔力とで大事に抱え上げている子供はキリエのことを振り返ると、何かに気付いたような素振りでキリエの髪にちょいっ、と触れる。
それから。キリエと目を合わせて、当たり前のように「帰る」と口にした。
「えっ」
――意識の外から聞こえてきた男の声を、キリエが気にかけることはない。
「伊月ちゃん、その人と行っちゃうの――?」
伊月が気にかけるのであれば、話も変わってくるが。そうではないなら、キリエにとって襲の言葉は環境音と変わらなかった。
伊月の言葉にだけ耳を傾けて、それ以外は、誰が何を言おうと聞くつもりもない。
キリエは伊月に向かって「うん」と一つ頷くと、そのまま伊月のことを連れて、足下の影――桐生と嶺を呑み込んだものとは、また別の亜空間へと飛び込んだ。
「(鏡夜も連れて行くから)」
間髪を入れず、そう釘を刺してくる伊月は、キリエのことをよくわかっている。
伊月が何も言ってこなければ、何食わぬ顔で置いていくつもりでいた鏡夜の真下から、キリエは再び通常空間へと復帰した。
鏡夜のことは下からすくい上げるよう、伊月とともにその背に乗せて。大きく翼を広げ、潤沢な魔力にあかせて空へと舞い上がる
〔倭〕の庭で一つの里を預かる国津神であろうとも、その力の源が御神木――〔倭〕の庭ではそう呼ばれている、
吸血竜の青い薔薇 ~転生魔術師は魔王の幸い~ 葉月+(まいかぜ) @dohid
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