第四節 SCENE-009


「私はここよ」


 地脈から供給される、御神木由来の魔力マナではない。伊月自身の魔力オド――伊月という個人の想念によって彩られた魔素エーテルが、世界樹によって支えられた〝世界〟を満たす無垢な魔素エーテルを震わせる。




 ここに来て、と伊月がどこへともなく差し伸べた手を伝い落ちる真っ赤な血。

 その鮮やかな命の色から、鏡夜は目が離せない。




 思わず足を止めてしまった鏡夜と、そんな鏡夜に抱え上げられている伊月へ、双子の制圧を命じられた嶺の手が届くことはなかった。




 伊月の手から滴り落ちた鮮血が、パタパタと雨のように降り注いだ先。

 伊月のことを抱え上げている鏡夜の足元で、重なり合った二人分の影がとろりと広がり、伊月が流した血を余すことなく呑み込んで。


 湧き出す水のよう、ひたひたと広がっていった影の中から這い出してきたのは、銀細工のようきらめく鱗に全身を覆われた、〝羽のあるトカゲ〟だった。



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